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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
砂漠の商人編
29/229

25話

 ーー心臓の音がうるさくて、何も聞こえないよ、母さんーー




 その言葉に、ぼくの心臓は凍りついた。

 いつだ!?

 いつ、死んだ!?

 ルクスお兄さんが家を出てすぐ?

 ぼく達と出会う前?

 それともーー

 それともぼく達と 出 会 っ た あ と ?



 ぼく達のーー  違う、 ぼ く の せ い ?



 しばらくしてふらふらと体を揺らしながらもルクスお兄さんの目の焦点が合わさってきた。

「母さん……父さんは、いつ…………?」

 ルクスお兄さんの問いにルクスお兄さんのお母さんはためらいがちに口を開く。

「」



 やめて。




 言わないで。




 お願いだから。




 それを聞いてしまったら、




 ぼくは、2度とーー




 もう2度とルクスお兄さんに顔を合わせられないーー









「つい、さっきよ」








 死刑執行の合図は下された。ぼくの顔は首を絞められて窒息した死刑囚のように真っ青に染まった。








 部屋の中を重苦しい沈黙が支配していた。やがてその沈黙に耐えかねたかのようにルクスお兄さんのお母さんが口を開いた。

「ごめんなさい、ルクス……私がもっとしっかりしていれば、ちゃんと父さんを看病していれば、あなたの帰りまで持たせられたかもしれない。助けられたかもーー」


「やめろよ」


 ルクスお兄さんの冷たい声が響いた。

「母さんは医者じゃない。看護師でもない。ただの一般人が病人の寿命を伸ばすなんてできっこないんだ」

 ルクスお兄さんは淡々と感情を含まない声で言った。

「僕だって、クロ達に助けて貰わなかったら死んでた。月華美人も持ち帰れずに。そうなればどっちみち父さんは助からない。何も出来なかったのは僕も同じなんだ」

 ここで初めてルクスのお兄さんの声に感情が込められた。

「誰のせいでもない。運が無かったんだ」

 ルクスお兄さんの瞳には労りの感情が込められていた。その瞳が向けられていたのはぼくだった。ぼくを慰めるようにかけられた優しい言葉はかえってぼくの胸を引き裂いた。



「だからーークロ。君がそんな何もかもが全部自分のせいだなんて気に止む事はないんだよ」

「~~~~~~~~~~」



 ぼくは走り出していた。

 耐えられなかった。

 逃げ出してしまった。

 ぼくにあんな優しい言葉をかけてもらう必要なんかどこにもない。

 その権利もない。

 ルクスお兄さんのお父さんの命を奪ったのはぼくなのだから。



 ぼくは分かっていたはずだ。

 十分すぎる程に。

 ぼくと一緒にいる事でルクスお兄さんに災厄が降りかかる事を。片目にも忠告されたじゃないか。

 ルクスお兄さんは大丈夫と言ってくれたけど、それはルクスお兄さんが災厄の恐ろしさをまだ本当に理解してなかったからだ。

 止めるべきだった。

 諦めるべきだった。

 たとえそれがどんなに辛くても、ルクスお兄さんの事を本当に思うなら自分の気持ちを押し殺すべきだった。

 片目がそうしようとしたように。


 ぼくは嬉しかった。

 ルクスお兄さんと一緒にいられて嬉しかった。

 ぼくをまともな人間として扱ってくれるルクスお兄さんの優しさが嬉しかった。

 ほんの1日だったけどルクスお兄さんと一緒にいられて嬉しかった。

 だからもっと一緒にいたかった。

 ルクスお兄さんを助けたいなんて嘘だった。

 ぼくはただルクスお兄さんと離れるのが嫌だっただけだ。

 その結果ルクスお兄さんがどんな目に合うかなんて深く考えもせずに。


 だからこうなった。

 それは罪だ。

 とても重い罪だ。


 でもそれ以上の罪をぼくは犯していた。

 それが分かってしまったから今ぼくは逃げている。

「誰のせいでもない」

 そうルクスお兄さんに言われた時に自分の醜さに気づいてしまったんだ。

 ルクスお兄さんはぼくのせいでお父さんを亡くしてしまったというのにぼくを気遣って優しい言葉をかけてくれた。



 ーーそれに引き換えぼくは何だ?ーー



 ルクスお兄さんのお父さんが死んだと聞いた時、ぼくは何を考えた?ルクスお兄さんのお父さんの死を悼んだか?


 ーー否ーー


 ルクスお兄さんの事を一瞬でも気遣ったか?


 ーー否ーー


 ぼくはただ、恐れていたんだ。

 ルクスお兄さんのお父さんの死が自分のせいだという事を。

 自分の失敗を認めたくなかったんだ。

 自分の事しかぼくは考えていなかった。

 最初から最後までずっと。









 ぼくは最低だ。

 本当に、最低だ。





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