23話
日が昇り、太陽の光が砂漠を照らし始める。
朝食を済ませ、テントを片付ける。焚き火を消し、荷物を纏め荷台にくくり付ける。準備は整い、いつでも出発できる状態だった。ルクスは旅の準備を全て整え終わると片目とクロに語りかけた。
「さて、僕はこれから街に戻りますが、お二人はどうされるんですか?」
ルクスの顔色を伺いながらおどおどとクロがルクスに話し始めた。
「ぼく達は……その……ルクスお兄さんさえ良ければ、一緒に」
「本当に? それは有難い! 二人が一緒にいれば心強いなあ!」
などと無邪気に喜んでいる。
そこに水を差すようにあくまで冷静な片目の声が響いた。
「まあ待て。私達と一緒に行くという事はだ。災厄に襲われる可能性が高いという事だ。一緒に来てから後悔しても遅いんだぞ」
「後悔なんてしませんよ」
間髪入れずにルクスは言い切った。
「僕は本来なら既に死んでいる身です。仮に災厄に見舞われて死んだとしてもあなた達を恨む気なんてありませんよ」
ルクスの言葉にクロの顔がパアッと明るくなる。しかし片目の表情は相変わらず厳しいままだ。
「月華美人が無くなったらどうする。お前の大事な家族に、何か悪い事が起こるかも知れない」
片目の追求にルクスの表情が若干引き締まる。それを横で見守っているクロは気が気で無かった。
「僕は、人間はどんな困難にもきっと打ち勝てると信じています。それは、災厄だって例外ではありません。あなた達は今まできっと災厄によって多くの物を失ってきたのでしょう。今の僕には想像ができないような地獄を見てきたのでしょう。けれど、それでも……」
ルクスはそこで一度言葉を切り、静かに二人を見つめた。
「信じる事を止めてはいけない。それは信仰をするしないに関わらず、です。あなた達は人間と魔族、異種族だ。そして忌み子のクロ君と共にいる片目さん、あなたにも災厄は降り掛かってきたのでしょう。けれどあなた達は一緒に居る。それは、お互いがお互いを強く信じあってきたからでしょう?」
そう言って二人を見つめるルクスの瞳はどこまでも優しく、そして穏やかだった。
「だったら、僕の事も信じて下さい。僕は負けません。どんな困難にも、災厄にも。
あなた達が僕の身を案じ、心から思いやってくれているように、僕もまた、あなた達の力になりたい。命を救ってくれた恩を返したいんだ」
どこまでも優しく、誠実に。そして、堂々と。己の信じる道を貫き通すと決めた男の表情をしていた。
「ルクスお兄さん……」
「ルクス、お前……」
聞いていたのか。昨日の会話を……
言葉にならない片目の問いにルクスは笑って頷いた。
片目はようやく、今の今までこの青年の事を見誤っていた事に気が付いた。この青年は世間知らずのお人好しなのではないのだ。世間の厳しさ苦しさを知り、それでも尚己の理想を追い求める求道者なのだ。
片目は笑って言った。
「どうやら私はお前の事を見誤っていたようだ。ただの世間知らずの馬鹿だとばかり思っていたが、現実を知っても尚意見を変えない、筋金入りの馬鹿なのだな」
「ちょ、片目!」
片目のあんまりと言えばあんまりの言いようにクロは焦るがルクスは気にした様子もなく、
「そうです。馬鹿は侮れませんよ? 何をしでかすのか予想がつきませんから」
「フン、この狸が。すっかり騙された」
ニヤリと笑う二人にクロは何が何だか分からず、ついていけない。
「? ? ?」
疑問符を撒き散らすクロに片目は笑って言った。
「要するに、この馬鹿の心配なんぞする必要は無かったという事だ。さあ、行くとしようか」
そう言って片目は歩き出す。ルクスも1歩を踏み出す。残されたクロは何が何だか分からない……といった顔をしていたがとにかくルクスと一緒に行けるのだと顔を綻ばせ、二人の後に続いて歩き出したのだった。
アカン……片目の主人公化が止まらない




