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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
救世編
222/229

205話

 ここで、全ての時間が一つに繋がる。



 ユータの放った渾身の一撃が、ユージの身体を深く貫き焼き焦がした。ユージはぴくりとも動かない。

「やった……のか?」

 ユータの呟きが降魔の間に響き渡った。

 直後。



 バタン、という扉を開け放つけたたましい音と共に何者かが降魔の間へと入り込んできた。ユータは直ぐ様戦闘体勢を整える。が、直ぐにそれは解除される。

「クロ!? それにクロそっくりの奴に、あともう一人は誰だ?」

 ユータのすっとんきょうな間抜けとも取れる声を無視して部屋に乱入してきた3人はユージの元へと殺到した。

「ユータお兄さん! ユージは……」

「あ、ああ。決着は着いた。恐らくはもう生きてはいないだろう」

「「「そんな……」」」

 3人の絶望する声が聞こえてきてユータは訳が分からないと言った表情で

「それよりクロ、無事だったんだな? その二人は誰だ?」

 だがクロはそれには返事を返さず暗い顔をするのみでユータはますます訳が分からない。



 クロによく似た少年が絶望そのものと言った表情で涙を流しユージにすがり付く。

「そんな……! ユージ! せっかく、せっかくここまで来たのに……!」

「そうだな。おちおち死んでる場合じゃねえよな」

 死んで動かなくなった筈の身体から返事が返ってくる。

「ユージ!! 生きてたんだね!?」

「ああ、何とか、な……」

「チッ まだ生きてたか!」

 ユータが舌打ちし再び臨戦体勢を整えようとするとクロが覆い被さってそれを止めに入った。

「!? クロ!? 何のつもりだ?」

「ユータお兄さん! 違うんだ! 僕らはもう戦う必要なんかないんだ!!」

 言い争う二人を尻目に創世神が申し訳なさそうにユージに語りかけた。

「ユージ、僕は……」

「ユージ、聞いて! 創世神様は……」



 二人の声を遮るようにしてユージが大声をあげた。

「あー! あー! もう皆まで言うな! わあってるよ!!」

「ユージ……それじゃあ」

 自分達の想いが通じたのだとシュドフケルは喜ぶ。だが、その後ユージから返ってきた言葉は……

「憧れの創世神様が姿を現して謝罪されて許しちまったんだろ? そんでもう戦うなってんだろ?」

「ユージ……?」

 ユージの全身から漂う殺気に違和感を覚え立ち竦むシュドフケル。そんな彼を驚く程に冷ややかな目で見ながら淡々と言葉を紡いでいくユージ。

「長年思った想い人に会えたお前はそれでいいだろうさ……。だがな、俺は、俺の気持ちは収まらねえんだよ!! 謝罪なんか糞食らえだ!! 俺がお前らを許す時はな、お前ら全員を皆殺しにした時だ!!」



「……!!」

「ほら見た事か! 簡単に心代わりするくらいならここまで非道に徹しられる訳がねえんだ!」

 そう言ってユータがクロを押し退けてユージへ向かっていこうとする。

 だが、ユータの剣が届く前に大きな震動が部屋全体を揺さぶりユータは体勢を崩してしまう。

「その通りだ、分かってるじゃねえか後輩!」

 ユージの高笑いと共にクロの身体に異変が起こり始めクロは崩れ落ちてしまう。

「…………!!?」

「クロ!?」

「クロ! どうした!? 大丈夫か?」

 ユータと創世神がクロに駆け寄り声をかける中、シュドフケルだけは顔を真っ青にして一言呟いていた。

「まさか……!」

「そうだ。その『まさか』だ。第二の魔神を生み出す!」


「「「!!?」」」


 驚愕する3人を尻目にユージは余裕綽々に語り始める。

「この部屋の名前と機能は前に説明したよなあ? 文字通り『魔』を『降ろす』為の部屋だ。そしてその機能を最大限に発揮させればこういう事も出来る!」

「う、ああああ……!」

 崩れ落ち悶え苦しむクロから大量の魔力が無理矢理引き出されていく。そして巡りめぐったその魔力はユージの鎧へと注ぎこまれていく。

「おい! どういう事なんだ? 説明しろ!!」

 ユータが事情を知っているらしいシュドフケルに詰問する。シュドフケルは震える声で説明を始めた。

「最後の、本当に最後の最後の手段……本来は使う筈の無かった手段。クロの身体から魔力を無理矢理引っ張り出す。魔神と契約しているクロの魔力は奥底で魔神と繋がってる。全部魔力を引き出してしまえば、それは即ち魔力を吸収した者が第二の魔神としてこの世に誕生するという事……。正真正銘、この世界そのものが滅びる、いわば最後の道連れ」

「な……んだと!?」

「何ていう事だ……!」

 ユータと創世神が絶望の声をあげる。だが創世神の絶望はユータのそれより遥かに深い。

創世神はずっと天上からクロ達の事を見守り続けてきた。だからクロの身体に起きている事も正確に理解している。

 クロの魂は回復魔法の使いすぎと魔神の力による侵食によりいつ消え去ってもおかしくない。つまり、魔神が誕生するしない以前に魔力を引き出された時点で死が確定するのだ。そしてそれはあらゆる希望の消失を意味する。クロが居なくなった時点で魔神の存在あるなしに全ては終わるのだ。



「やめろお! ユージ! 止めてくれ!!」

 絶叫し懇願する創世神を心地よさげに見下ろしながらユージは嗤う。

「創世神よお。てめえには散々煮え湯を飲まされたが最後の最後で溜飲が下がった思いだぜ。俺はずっと、そうやって絶望し苦しむてめえの面を思い描きながら今日まで生きてきたんだ!! ざまあみやがれ! ハッハッハッハッハァ!!!!」

 そして今度は神妙な面持ちでシュドフケルに向き合う。

「シュド……。俺としてもこれは最後の手段だった。世界を滅ぼすとは言っても実際は地上の奴らを皆殺しにするだけの予定だった。誰も居なくなれば、想いを寄せる創世神が居なくなれば、お前も俺の事を見てくれるんじゃないかと」

「ユージ……」

 シュドフケルは彼にかける言葉が見つからなかった。何も言える資格がない事をシュドフケルは分かっていた。

「だが、それも結局は無駄な足掻きだった。お前は、永遠に俺には振り向かない。さっきのお前の顔を見てそれを悟った。……だからせめて、お前をこの手で殺して、お前の魂を貰っていく。……ここでサヨナラだ」

「ユージ……僕は……僕は……」

 それ以上は何も言えず、シュドフケルはただ悲しげにユージを見る事しか出来なかった。強大な魔力をどんどん吸収し肥大化していくユージの姿を。





 そして。

 世界に。

 第二の魔神が誕生した。

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