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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
邂逅編
214/229

197話

 さて、何から話したものか……

 クロ君。君は、人間の行動を決定づけるものは何だと思う? ………………そう、その通り。所謂精神、心と呼ばれるものだね。でも、この世界に『心』という物質は存在しない。あるのは、脳みそであり脳の機関が司る様々な機能だ。

 人間の感情というのも、科学的な見地から見れば脳内物質の与える影響郡の総称であり『感情』という物質がそのまま現実に存在している訳ではない。



 この事に着目した一人の科学者がいた。人間の行動や感情が外的、或いは内的物質の影響によって決定されるものならば、人間の感じる幸不幸、更に踏み込んで人間の(カルマ)と呼ばれるものも現実に存在する何かしらの物質によって決定されるのではないかと考えたんだ。

 分かりやすい例えを用いると、アルコールだ。君はまだ子供だし飲んだ事はないだろうが酒を飲んだ大人達の失敗談を聞いた事はないかな? 普段は几帳面で真面目な性格の男が酒に酔って誰これ構わず喧嘩を売ったり或いは女性に手を出したり、とかね。気が強くて男勝りの女が酒を飲んだら泣き上戸になって後で恥ずかしい思いをしたり。


 酒は人間の普段は隠している本質を表にさらけ出し抑制を効かなくさせてしまう。ある意味で、酒は人間を犯罪に導くとも言える。実際僕のいた故郷ではアルコールを取った状態での乗り物の運転は刑罰の対象とされていた。

 ……まあ、これは極論とも言えるけど、要するに人間を悪に導き不幸にさせる物質が現実に存在するんじゃないかとその男は考えた訳だ。



 これがどういう事か分かるかな? もし、本当にそんな物質が存在し人間を不幸にさせているのだとしたら、その物質を研究すれば抑制する事も可能かもしれない。つまり、人々は誰しも平和を愛する善良で無害な一市民と化し世界から争いと悲劇が無くなるかもしれない。


 そう、男は『世界平和』を目指していたんだ。イデオロギーでも哲学でも宗教でもない、科学的な見地からね。



 だけども当然それは並大抵の苦行ではなかった。分かるだろう? 古今東西天才と呼ばれその業績を称えられた科学者は数あれど、『世界平和』を実現させた者など誰一人として居なかったのだから。男の研究は学会から異端視され数々の避難を浴び嘲笑された。彼を馬鹿にする者半分、彼を恐れる者半分て所だね。

 何故恐れるか? 皆が皆平和を望んでいる訳じゃないからさ。むしろ迷惑にすら思う連中、人類の病原体とも呼べる奴らが確実に存在し男の研究を阻もうとしたのさ。


 そういう幾多もの迫害や障壁を乗り越えてきた男だったけど、タイムリミットが近付いていた。老化さ。何十年も研究を重ねるうちに男は年を取り寿命が迫って来ていたんだ。

 だけれども当然それは男にとって予測できる事態だった。だからだいぶ前から対策を講じて準備してきたのさ。



 そう、不老不死さ。特定の条件と環境を満たした場合のみに出来る不完全なものだったけど、男の目的を叶えるには充分すぎる程だった。男は本物の天才だったんだね。でも、その才能が却って不幸を呼んだ。欲深い人間達からしてみれば不老不死なんて喉から手が出る程欲しいものだろう? 多くの愚者が彼からその不老不死の秘密を盗みだし、あわよくば自らがその恩恵に預かろうと蠢き出したのさ。男は多くのものを失ったよ。

 愛する妻に可愛い子供達。育てて面倒を見てくれた両親、夢を支え応援してくれた友達。全てを失いひとりぼっちになっても尚、男の目的(ゆめ)を奪う事は誰にも出来なかった。



 ……だけれども。現実というものは常に無情。無慈悲なものだ。二つ目のタイムリミットが来てしまったんだ。彼自身のではなく、彼の回りの人々、いや、人類そのものの終演。




 ここまで言えば分かるだろう? 核さ。核戦争によって男の住んでいた星は滅びてしまったんた。

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