194話
ボクは、精神世界の奥深くまで乗り込んできたユータと一つになった。今までのような憑依状態とは訳が違う。
部屋中を照らし出す黄金の光。それは、ユータの体を覆うオリハルコンの輝きだ。でも、それだけじゃない。
「貴様……鎧と同化したのか!?」
ユージは今のボクの状態を見抜いて驚きの声をあげた。そう、ボクはユータと同化したのではなく、ユータの体を覆うオリハルコンと同化し、鎧そのものとなった。
ユージの強さの秘密、それは彼の体を覆う黒いオリハルコン。ダークオリハルコンとも言うべきそれが彼の力を何倍にも高めている。それにヒントを得たんだ。
ただユータと同化するのではなく、ボクはユータを守りたかった。傷だらけで戦っている彼の代わりに自分が攻撃を受け止めたいと思った。
さっきユータは自分を犠牲にしてもユータさえ守れればそれでいいというボクの自己犠牲的なやり方を否定した。確かにそれは間違いだったと思う。自分が生き残ろうという意志に欠けていたから。
でも、ユータを守りたい、彼をこれ以上傷付けさせたくないというボクの想いは本当のものなんだ。
だからボクは、彼の鎧になる事にした。絶対に、彼を死なせない為に。彼が心おきなく攻撃に専念出来るように。
基本的な考え方はさっきまでと何も変わってない。ボクは馬鹿だな。でもいいんだ。これがボクの、ボクなりの愛情の示し方なんだから。
彼の為に全てを捧げる。そして自らも生き残りその為の犠牲にはならない。それが今のボクの決意。何としても、生きて帰るんだ。二人で、ジュレスの元へ。
彼が何を考えているのかは分からない。今のボク達は一身同体ではなく、鎧とその使用者だから。でもボクはかつてない程に彼との繋がりを感じている。
ボクは彼を守る為に全ての力を尽くす。彼はその献身に応えて精一杯戦う。そうしてお互いの力を何倍にも高めあっていく。
◆
コーデリックは鎧と同化する事を選択した。オレを守りたい、という確固たる想いが伝わってくる。不思議な事に、憑依して(仮初めとは言え)一身同体となっていた時よりも今の方がより深い繋がりを感じる。
あいつが今何を考えているのかは分からない。けれど、深い信頼で繋がっている。その事実が、オレに勇気を与えてくれる。前に進む力を与えてくれる。
いつもそうだった。あいつは、飄々と好き勝手に振る舞っているように見えて実は誰よりもオレの事を考え動いてくれていた。あいつの影の献身が無ければオレはとっくに生きる希望を失っていただろう。
それに、ジュレスと結ばれる事も無かっただろう。
……正直言って今でも自分達が選んだ選択が正しかったのかどうか分からない。間違っていて後悔する日が来るのかもしれない。
でも、そうなったらそうなっただ。それでもオレ達は最後まで共に居る。だから、必ず勝つ。勝ってジュレスの元へ二人で帰るんだ。
◆
「鎧になるとはな。流石に予想の範疇を越えている」
とは言えユージも合身を見るのはこれが始めて
だった為にユータとコーデリックの事案が特別なものなのかどうなのかは分からなかった。
ほぼ同じ頃にジュレスと片目が合身していたが流石に戦闘中にそれを覗き見る余裕はない。
ともあれ、ユージは復活した二人に更なる憎悪をぶつけるべく早速動き始めた。
間合いを最速で詰め骸骨の剣を袈裟斬りに降り下ろす。体を曲げ避けるユータを追うように今度は斬り上げる。ユータは上半身を反らしやや後ろに下がりながらこれも避ける。
ユージは前に出していた左足を踏ん張り右足を前に踏み込むと今度は鎧の隙間を狙い突きを繰り出した。同体の隙間に吸い込まれていった筈のそれは鈍い金属音と共に跳ね返された。
一瞬動きが止まったユージにユータが回し蹴りを放つが逆にその勢いを利用してユージは後ろに跳び追撃をかわした。
(鎧が変型して隙間を埋めた……ある程度自在に形を変えられるのか?)
今度は両手を広げると極大魔法を一つずつノータイムで放った。
左手から放たれた真空の刃。右手から放たれた氷の刃。どちらも鎧の隙間を狙いそれぞれ正反対の方向から僅かにタイミングをずらして放たれた。
片方を防いでもワンテンポずれたもう片方が逆側から襲いかかり命中する筈だった。だが次の瞬間ユージは目を見張った。
「玄武!」
コーデリックの声と共にユータの左手に四聖獣玄武の紋様が描かれた盾が出現し真空の刃を弾いたのだ。
「!?」
「ユータを守っている力は、ボクだけじゃないよ」
流石にこれにはユージも驚き一瞬動きが強張る。その隙を逃がさんとばかりに今度は
「白虎!」
の掛け声と共に両足に四聖獣白虎の紋様が描かれた脚甲が表れ装着された。途端に凄まじい速度でユージに向かってくる。
慌てて牽制の為に炎の大魔法を放つが、今度は
「朱雀!」
の掛け声と共に背中に四聖獣朱雀の紋様が描かれた二対の金属の翼が現れてユータは地を蹴ると空に舞って炎をかわす。
「う、おおおおおおっ!!」
激しく狼狽するユージに上空から滑空したっぷりと慣性と重力を乗せ
「青龍!」
の掛け声と共に右手に四聖獣青龍の紋様が描かれた剣が現れ、上段から勢いのままに降り下ろされた。
咄嗟に両腕で受け止めていたユージだったが、ビキッという音と共に腕を覆っていた手甲部分が砕けた。
「な、んだとおっ!!?」
そして降り下ろされた剣は角度を変え、今度は垂直に胴体へと吸い込まれていった。
「ぐぶっ!」
青龍の剣は鎧を貫通しユージの背中から抜けた。
直後。
「これで最後だぁっ!!」
ユータの叫びと共に白い稲妻が剣を伝いユージの全身を焼き焦がしたのだった。




