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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
覇道の魔王皇編
209/229

192話

 急いでユータはコーデリックの体に触れると安否を確認する。ぴくりとも動かないが死んでいる訳ではない。淫魔族は魔力生命体とも呼ぶべき生態をしている。その体の殆どは魔力で構成されておりどんなに体が傷ついていても魔力が残っている限りは死なない。

 そして肉体が形を失っていないという事はまだ生きているという事だ。ユータはコーデリックの両手を手に取ると魔力を送りこみ始めた。

 


(ダメだ。これでは足らない)

 直感的にそう悟ったユータは意識を失っているコーデリックの唇に自らのそれを重ね合わせた。


 追撃を加えようと準備していたユージはその光景を見て固まった。

(何のつもりだ……?)

 殺そうと思えばすぐに殺せた。もう一度超絶魔法を放てばもうユータを庇ってくれる者はいないからだ。しかし、思いもよらぬユータの行動を見てつい体が硬直してしまったのだ。


 ユータは魔力を口から直接体内に送りこんでいた。それも膨大な量だ。仮にそれでコーデリックが復活したとしても二人ともまず戦える状態ではない。すぐに殺されてしまうだろう。

 しかし今のユータにはそんな事は関係無かった。何としても死なせない。その思いだけがユータを突き動かしていた。



 短くない時間そうし続けていると、何とか峠は越えたらしく肉体の方は多少回復していた。だが、意識は戻らない。このまま戻らない可能性もあった。攻撃のショックで精神が死んだまま戻ってこられないのかもしれない。

 そう考えた時にはユータは自らの全魔力を全てコーデリックに注ぎ込んでいた。魔力だけではなく自らの魂すらも。全てを注ぎ込み終えるとユータは力尽きコーデリックに重なりあうように倒れた。



 その様子をユージはじっと見つめていた。

「……何ともあっけない最後だったな」

 と独りごちる。

 ユータは魔力どころか全生命力をコーデリックに注ぎ込んで勝手に死んだ。馬鹿な男だ。仮にそれであの魔族が蘇生したとしても戦える状態に戻る前に自分に殺されるのは避けようがないのだ。

 犬死に以外の何物でもない。


 しかし……

「全く迷う素振りを見せなかったな……」

 ユージは考える。もし自分達が同じような状況に陥ったら、自分は躊躇わずシュドフケルの為に命を投げ出せるだろうか?

 自分のシュドフケルに対する思いは誰にも負けないと自負している。だが……


 シュドフケルが自分と結ばれているのならともかく、全く自分の事を見てくれてはいない今の現状で同じ行動を自分は取れるだろうか。

 というよりも(ユータ)があの魔族と結ばれていない関係だったら奴はそれでも命を投げ出して助けようとしたのだろうか。

 奴にはもう一人恋人がいる。その恋人の為にも同じく行動を起こすのだろうか、ととりとめの無い事を延々と考えてしまっていた。



 奴とあの魔族の関係性に嫉妬していたのは確かだ。しかも奴にはもう一人恋人がいる。本来ならば憎んでも憎みきれない程に怒りその事に対して糾弾してもおかしくはないのだが……


 少なくともそうなったのは奴にとって不可効力であったのは確かだ。あの献身的な魔族の術中にまんまと嵌まってしまったようであるし。

 自分とてシュドフケルに惚れていなければ、それこそ色んな女を(はべ)らせて肉欲に溺れていただろう。そしてその事に対して奴のように罪悪感を感じすらしないだろうとユージは思う。


 そう、始めからユージには分かっていたのだ。一人の人間としてユータの方が器が大きいという事を。だからこそ余計に許せないというのもあった。



 だがこうして死んでしまうと呆気ないものだ。呆気なさすぎる。何の充実感も感じられず寧ろ虚しさすら感じられるのだ。ユージは自分がユータに何を望んでいたのか漸く分かってきた。


 勝ちたかったのだ。自分より苦しい状況に置かれながらもそれを乗り越えてユージが手に入れられなかったモノを手に入れたユータの全てを否定してやりたかったのだ。



 ユータの力を心を強さを否定し奴がすがる仲間との絆を真っ向から否定してズタズタに引き裂いてやりたかったのだ。

 そして絶望に喘いでいるのをたっぷり楽しみ堪能した上で殺す。これこそがユージにとっての完全勝利だった。


 しかしそれももう叶わぬ望みだ。



「……いや」

 まだそう結論づけるのは早計か、とユージは考えた。ひょっとしたらあの自殺としか思えない行動にも何か意味があったのかしれない。絶望的な劣勢から立て直す為の何かが。

 少なくとも救世の天子は今まで何度もそういう奇跡を起こしてきた。奴に同じ事が起きないという保証はどこにもない。


 ここでユージは苦笑する。心の何処かでユータに期待している自分に気付いたからだ。まあいいか、とユージは笑った。仮に奴が魔族とともに復活を果たしたとしても依然自分に勝てる可能性は無きに等しいのだから。




 見届けてやろうではないか。ユータという男の器の大きさというものを。


 一人静寂の中でユージは佇むのだった。

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