189話
猛然とユージがユータに斬りかかる。上段から降り下ろされた剣をユータの手甲が受けとめる。激突した金属の間に火花が散り薄暗い室内を一瞬照らし出す。映し出されたのはそこに込められた怨念だけで相手を呪い殺してしまいそうな程に醜く歪んだユージの顔だった。
ユータはその迫力に気圧され一歩下がりたたらを踏む。食い殺してやると言わんばかりの猛攻追撃がユータに襲いかかるが何とかそれを裁きいなして後ろに飛び距離を取る。
その一瞬の間に右手を前にかざしたユージだったが次の瞬間爆発が起こる。大魔法を放とうとしたのがコントロールを失い暴発してしまったのである。
予想だにしなかった己の失敗にユージは狼狽し一瞬動きが止まる。その隙を逃さずユータが反撃に出る。最短距離で、鎧の防護が届かない場所に。
ユータの突き出した手刀がユージの頬を掠め浅く切れた。
「っおおおおおおっ!!」
怒りの雄叫びを上げるとユージは膝でユータの腹を蹴ると続けて足の裏で押し飛ばし無理矢理距離を離した。
一瞬衝撃で息が止まり、咳き込みながらも何とかユータは姿勢を立て直し追撃に備える。しかしそれ以上の攻撃はなくお互いに息を切らしながら睨み合った。
(大魔法を失敗した……? それほどまでに精神が乱れているんだ。でも一体何故……)
ユータのサポートに徹しながらコーデリックは考える。ユージの今までの言動、性格、置かれていた境遇、それらが複雑に絡み合いながらコーデリックの頭の中で纏まり一つの推論を導き出す。
「分かったよ。キミがそれほどまでにユータを憎む理由が」
ビク、とコーデリックの言葉を受けて一瞬ユージの体が震えた。
「キミは、ユータが羨ましくて仕方無いんだ。キミが持ってないモノを彼が持っているから」
「………………」
「オレが、持っているモノ?」
ユータが首を傾げる。そんなユータの様子を見ながらああ、可愛いなあと頬が緩んでしまう。そんなコーデリックの様子を見てユージはまた歯を食い縛る。
「恐らく、キミはずっと孤独だったんだ。異世界に召喚されて勝手な使命を押し付けられて。それなのにシュドフケルは創世神の事で頭が一杯。君達の使命を知らない他の連中には心を許せない。
キミは、ずっと一人で戦ってきたんじゃないかな? だから、同じように地球から召喚されてきたのに自分と違って仲間に恵まれ愛されているユータがどうしても許せなかった。違うかい?」
「………………」
ユージは俯き黙ったままだった。その沈黙がコーデリックの推論の正しさを肯定していた。
「…………でも、それよりも何よりもキミにとって辛かったのは、好きな相手が自分の事をちっとも見てくれなかった事」
「~~~~~~っ!!」
そしてコーデリックは止めの言葉を容赦なく口にする。
「キミは、シュドフケルの事が好きなんだろう?」
「っあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーー!!!!!!」
ユージの絶叫が降魔の間に響き渡った。
ユージさん……( ;∀;)




