187話
クロが転位魔法により忽然と姿を消し、残されたユータとコーデリックはユージと対峙していた。
「……行くぞ、後輩!」
掛け声と共にユージは右手に持つ骸骨の剣を高く掲げる。
ビシャアアアアン!! と稲光が走り天井を突き破って剣の上に落ちる。ユータが雷を操る魔法を得意とするようにユージもまた雷を操る。
だが似通った二人にも違いはあった。
「黒い稲妻……?」
ユータが呟いた通りユージの持つ剣に帯電していたのは黒い雷だった。ユージの内面を色濃く写したような暗黒の色。
二人は同時に駆け剣を交える。ユータの雷とユージの雷、二人の操る電流が交差し反発しあう。善と悪、二つの色に染まった稲妻は互いに一歩も譲らなかった。
しかしそれを黙って見ているコーデリックではない。剣撃を交わす二人の動きを監察しながら横入りする隙を伺っていた。
コーデリックは二人が離れた瞬間の僅かな隙を狙い四聖獣、白虎を召喚し飛び込んだ。
瞬間移動したかのような凄まじい速さでコーデリックはユージに肉薄する。白虎の鋭い爪がユージを引き裂くかと思われたその時、
ガキイイイイイインという硬質な音が鳴り響き、ユージの僅か数センチ手前で白虎の爪は止められていた。ユージが張った透明な魔力のバリアが攻撃を防いだのだ。
「な、んだって!?」
コーデリックは驚愕し一瞬動きが止まる。無理もなかった。大魔法レベルの威力でなければ今の攻撃を防ぐ程はできない。それをユージは事前準備なしでいきなり発動させたのだ。
動きが止まったコーデリックを狙い容赦なく剣撃が繰り出される。ユータが反応し防ぎに入るが間に合わず二人はまとめて吹っ飛ばされた。
壁に勢いよく叩き付けられ肺の中の空気が全部吐き出される。目の前には巨大な炎の玉。間髪入れずに放たれた追撃は二人の体を炎で包み込む。コーデリックは咄嗟に防御体制を取り魔力の膜を張るがその間にもユージは距離を詰め横一文字に剣を凪ぎ払う。
間一髪ユータが手甲で剣を受けとめそのまま力ずくで押し返す。ユージは無理に力押しする事はせずそのまま勢いのままに後ろに下がった。
「はあ、はあ、はあ…………」
池と汗を拭いながら荒い息を吐くユータ。何とか一連の猛攻を凌ぎきった。が、消耗は激しく受けた傷も浅くはない。このまま続ければ不利なのは明らかだった。
(強い……!)
(どうして大魔法レベルの魔法を事前準備なしですぐ放てるんだ……? あれを何とかしないと苦しくなるばかりだ)
コーデリックは必死に考え頭を巡らせるが分からない。そうこうしている間にもユージは再びこちらへ向かってくる。
「くそ、こうなったら……危険だがやるしかない!」
再びユータとユージの雷が激突したその時コーデリックは信じがたい行動に出た。
「な…、うぐうっ……!」
ユージが苦悶の声をあげた。何とコーデリックは無理矢理ユージの中へと入り同化しようとしたのだ。
拒絶するユージと中に入り込もうとするコーデリックの力が反発しあいその余波を受けてユータは後ろに吹っ飛ばされる。
「う、ぐおおおおおおおっ!!!!」
苦悶の声を上げながらも何とかユージは自らの中に入り込んできたコーデリックを力業で無理矢理外に追い出した。
はあはあはあ、と息を切らせ顔面蒼白になりながらユージはコーデリックをきつく睨みつける。
ユージは後ろに下がり距離を取ると近接攻撃を止め魔法による遠距離攻撃に切り替えて襲ってきた。
(よし、これで近接攻撃はしばらくは来ない。それに、大魔法の謎も解けた)
近接戦闘でタメなしの大魔法を駆使されると速すぎて二人がかりでも対応出来ない。なのでコーデリックは自らも危険を背負いながらも無理矢理ユージに憑依した。心が通じあっている契約者とならともかく敵であるコーデリックに同化されるのはひどい不快感を感じた筈だ。
それは他者によって無理矢理自分の領域を侵されるも同然だった。
ユージは憑依を恐れて近接戦闘を捨て距離を取った。距離を取ればこちらはその分攻撃に対応しやすくなる。それに、同化したほんの僅かな一瞬の間にユージの心を読み取って大魔法の謎も解き明かす事が出来た。後は対応策を練りそれを実行に移すだけだ。
無理矢理射し込ませた僅かな光明を頼りにコーデリックは必死に打開策を探すのだった。




