184話
聞いて後悔するなよ、と前置きを置いてからユージは語り始めた。決して知ってはならなかった真実を……。
「オレ達は創世神の行方を追った。天空大陸じゅうを探し回った。そして各地に残されていた奴の活動の痕跡とも呼べる施設、研究所を幾つか発見した」
「研究所……?」
ユータは嫌な予感がした。神が活動する場所としては研究所は似つかわしくない場所だったからだ。
「そこに残されていた数々の記録には驚愕の事実が載せられていた」
「創世神の正体は人間だった。奴が駆使していたのは神の御業などではなく超科学の力だったのさ」
「「「っ!?」」」
ユージの言葉に全員が絶句した。その様子を可笑しそうに眺めながらユージは笑う。
「おいおい、これくらいでショックを受けてたら始まらねえぞ。まだまだ、本番はこれからなんだからよ」
「何だと……」
ユータは呻く。まだこれ以上があるというのだろうか、と。そして宣言通り続く話は更なる衝撃を彼等にもたらした。
「創世神の正体は人間、しかも、地球人だ。オレ達が生きていた時代より未来の、地球が滅んだ時代のな」
「「「!!?」」」
「奴は、滅んだ故郷を再現させようとしていたのさ。地球とよく似た環境だったこの星を使ってな。それこそが、終わらない世界、ネバーエンド計画」
「この世界が……地球を再現する為に生み出された世界だっていうのか……!」
「奴はこの星に降り立ち長い時間をかけて少しずつ環境を整えていった。人間が住める環境にする為にな」
「だが、やはり『魔』の存在がネックだった。だから奴は故郷にはいなかった『魔』に適応した種族を生み出す事にした」
「まさか……」
顔を青くするコーデリックにユージは死刑宣告をするかの如く言い放つ。
「そう、それが魔族だ。魔族は大気中の魔を体内に取り込み魔力に変換して消費、浄化させる。地上に蔓延る魔を浄化し人間が住める環境を整える為だけに魔族は生み出されたんだ」
「そんな、そんな馬鹿な……」
力なく呻くコーデリックに止めとばかりにユージは宣告する。
「分かるか? 魔族は、人間の『踏み台』でしかなかったんだ。当然、用が済めば処分される予定だった。……まあ、魔神計画に反対したのだからどこかで心境の変化があったんだろうがな。今の奴が何を考えているのかはオレにも分からん」
「魔族を生み出しても『魔』を浄化しきれなかったから創世神はシュドフケルを地上に送りこんだんだね?」
クロがそう尋ねる。この後に及んでも平然としているクロに驚きながらもユージはその通りだ、と返した。
重くるしい沈黙が辺りを支配する。ユージからもたらされた真実は余りにも残酷だった。自分達の信じていたものが足元から崩壊していくようだった。
「結局の処、この世界に生きる者全ては奴の目的を叶える為の道具でしかない。全ては奴の手のひらで踊らされていたんだ」
「…………だから、壊す事にしたと?」
クロの質問にユージは疲れた顔をして答えた。
「どうでもよくなっちまったんだよ。苦労して勝ち取った平和も、正しいと信じてきた今までの戦いも、全部無意味なものになっちまった。
オレ達に残されたのは、創世神への、奴が生み出した全てのものへの復讐心だけだった」
「………………」
「だから、滅ぼす。何もかも、全てをな。残虐に、あらゆる汚い手段を使って、奴が生み出した全てのものを苦しませ滅ぼす。そうする事が奴へのせめてもの復讐だとな」
「………………」
「核を使ったのもな……強力な兵器だからという理由もあるが、核兵器こそが奴の故郷……地球を滅ぼした原因だったからさ」
「………………」
「かつての故郷を滅ぼした兵器が再び奴の住みかを滅ぼす。これ以上の皮肉はないだろう?」
「………………」
ユージの皮肉にも返事を返せない。返すだけの気力が湧いてこなかったのだ。ユータも、コーデリックも、光を失い虚ろな目をしていた。
そんな二人の表情を満足げに見ると、ユージはクロ達に問いかけた。
「さあ、お望み通り全部話してやったぞ。どうする? オレ達と戦うか? それとも、一緒にこの世界を破壊するか?」
「馬鹿を言うな」
強い意志の籠った鋭い声が響き渡った。それはクロの発した声だった。クロだけは、何も変わらず澄んだ目でユージを見据えていた。
「関係ない。創世神の目的が何であろうと、世界の生まれた理由が何であろうと、この世界は、この世界に生きる者達のものだ。勝手に誰かが利用したり、滅ぼしていい訳がないんだ!!」
「戦おうというのか? オレ達と、そして創世神と」
「平和を脅かす者がいるなら誰であろうと戦う。それが、ぼくの使命だ!」
ゆっくりと、ユージの瞳が冷ややかなものに変わっていく。
「愚かだな。まだ分からないのか? お前のその正義感も、使命とやらも全て創世神にお膳立てされたものでしかないという事に」
「関係ない」
「!」
「ぼくの命はぼくのものだ。それをどう使うか決めるのはぼくだ! ぼくが、自分の意志で、考え、悩み、苦しんで、戦ってここまで来たんだ!!
誰にも否定はさせない! ぼくは、ぼくが信じる正義の為に戦う!!」
「「クロ……!」」
クロの宣言に、ユータとコーデリックの目に光が戻る。それを見てとったユージは、臨戦態勢に入る。
「ならば、消えて貰う他はないな」
再び戦いが始まろうとしていた。