183話
ユージの怒りの叫びが降魔の間に響き渡り場を静寂が支配した。そしてゆっくりと続きを語り始めた。
「地上を平定したと言ってもそれで全てが終わった訳じゃない。オレ達には最後の難関が待ち受けていた」
「魔界に蔓延る『魔』をどうやって取り除くか、だね?」
コーデリックの言葉にユージは頷いた。そう、例え各国を制覇し帝国を打ち立てたとしても魔が蔓延っている限り争いは無くならないのだ。
「そこでオレ達は魔界から魔を取り除く為の策を練った。それが、『魔神計画』だ」
「「「………………!!」」」
ユージの出した「魔神」という単語にクロ達はそれぞれ反応した。中でもクロの反応はとりわけ大きかった。
「魔神……魔神って、あの魔神……?」
呟くクロに視線を送るユージ。その表情からは何の感情も読み取れない。
「そうだ。お前のよく知る、あの魔神だ」
そう言った後ユージはすぐに視線を反らしてしまった。
「オレ達が考えた計画はこうだ。まず、世界中の魔を一人の魔族の体に集中させる。魔の受け皿を用意する訳だ。そして誕生した魔神を女神の力によって別世界に追い出す」
「そんな事が出来るのか……?」
「勿論、簡単には行かなかった。並の魔族ではまず強力な魔の波動に体が耐えられない。だから、吸血鬼を利用する事を思い付いた」
吸血鬼は特定の弱点を突かない限り半永久的に生き続ける。ユージ達はとある吸血鬼を生体改造しその体に世界中から集めた魔を凝縮させ送りこんだのだ。
「この時点で強力な魔の波動により精神崩壊していた魔神はその衝動のままに世界各地を破壊し始めた」
当然、世界中の人々は破壊活動を続ける魔神を忌み嫌った。しかし、自分達の力ではどうする事も出来なかった。
「そこで女神の出番という訳だ。シュドフケルの能力も使い世界中の奴らが等しく魔神を憎み排除したいと願った。その想いに女神は応え、異空間を生み出しそこに魔神を封じ込めた。こうして、世界中に充満していた魔は薄まり魔界は平和な世界に生まれ変わった。めでたし、めでたしだな」
「ひどい……! あまりにも、ひどすぎる……!」
クロは表情を歪めた。今の話が本当なら魔神は己に一片の咎なく罪人に仕立てあげられ世界から追放された事になる。そして今も尚無限の牢獄の中に一人閉じ込められているのだ。
「救世の天子よ。お前の使命は何だ? 世界を救う事だったな? そんなお前は今まで幾つの命を巻き込んで消してきた?」
「………………」
クロは返事を返せなかった。それは、常にクロ自身が悩み抱え込んでいた矛盾であったからだ。
「分かるだろう? 理想は大事だ。だが現実はそう理想通りに上手くは行かないんだよ。時には大義の為に心を鬼にして非常な決断を下さなければならないのさ」
「ぼくは……ぼくはそんなやり方は認めない!」
「だろうな」
意外にもユージはここでクロの言い分をあっさり認めた。
「救世の天子よ。オレはある意味ではお前を認めているんだ。お前はどんなに追い詰められても理想を曲げなかったからな。そんなお前がそう言うのは納得できる」
想いがけず優しい言葉をかけられたクロは目を丸くした。
「だがな、奴は違う。創世神はな、オレ達が時には手を汚し汚い手段を用いて目的の為に動くのをずっと黙認してきたんだ。ところが、この魔神計画の時に限って強固に反対してきやがった」
「それで、キミ達はどうしたんだい?」
「無論、決行したさ。それしか方法は無かった。平和になった世界を見れば奴も心替わりするだろう、オレ達のやった事を認めてくれるだろう、とな」
「…………それで、どうなったんだ?」
「奴は姿を消した。まあ、正確に言えば直接顔を合わせた事は無かったから音信不通になった、が正しいな」
ユージはここで自嘲気味に笑った。
「シュドフケルは、シュドの奴はな、心の底から創世神の事を尊敬し慕っていた。
シュドにとっては世界の平和なんかどうでも良かった。ただ、奴の為に……創世神に喜んで貰いたい、よくやったと誉めて貰いたい、その一心で過酷な状況の中戦ってきたんだ。
それが、最後の最後になって捨てられたんだ。……その時のシュドの気持ちがお前らに分かるか?」
それまでシュドフケルと呼んでいたのが恐らく愛称なのであろうシュドに変わっていた。それまてどこか他人事のようだった語り口も感情のこもったものに変化していた。
「…………だから、地上を滅ぼそうとしたのか? 創世神への復讐の為に」
「いいや」
確信を持っての確認だったのだが意外にもユージは否定した。
「地上を滅ぼそうとしたのは創世神への復讐の為、それは間違っちゃいない。だが、奴と連絡が取れなくなったのが直接の原因じゃあない」
「じゃあ、他にどんな理由が……?」
質問したクロに逆にユージが質問した。
「聞きたいか……? だが、聞けば後悔するかもしれんぞ。お前達にとっても他人事ではない話だからな」
とユージは言った。その目は真剣そのもので、嘘を言っているようには見えなかった。
思わず顔を見合わせる3人。しかしここまできて怖じけつく訳にも行かない。クロ達はゆっくりと首を縦に振る。
クロ達の覚悟を見て録ったのか、ユージは核心となる部分を語り始めるのだった。
5/26 章タイトルを伝説の勇者編から覇道の魔王皇編へと修正しました。




