181話
護衛団のリーダーと別れた後もクロ達は順調に先に進んでいった。幾重にも仕掛けられた罠も、襲い来る機動兵器達も、彼等を食い止める障害にはなりえなかったのである。
やがてクロ達は一つの部屋の扉の前で立ち止まった。中からは恐ろしい程の魔力と殺気が漏れだしていた。誰も何も口にしなかったが、誰もが確信していた。
ここに『真の敵』がいると。
呼吸を整え、一気に扉を開け中に突入する。その瞬間を待ち構えていたように凄まじい火力の業火がクロ達に浴びせられた。その炎の威力はクロ達の開いた扉を溶かし石造りの壁を黒焦げにする威力があった。範囲も広く、扉の向こうの通路にまで炎が躍り狂い荒れ狂った。
大魔法もしくは極大魔法レベルの威力だった。当然それは瞬時に発動できるものではなく予め放つ準備を整えていなければ到底できるものではない。敵はクロ達の接近を察知し中に突入してくるタイミングにぴったり合わせるように魔法を発動させたのだ。 これだけを取っても敵の実力の高さを如実に現していた。
しかし、炎が引いた後に現れたのは殆ど無傷のクロ達の姿だった。クロに魔法は効かない。それが例え極大魔法レベルであったとしてもだ。その上クロを庇うようにユータが前に飛び出していた。
不思議なのはそのユータも無傷だったという事実だ。確かにユータは高い防御力を持ち魔法にも抵抗力がある。しかし流石にこのレベルの攻撃を食らって無傷でいられる程のものではなかった。しかし現にユータにダメージは見られない。
秘密はユータの装備にあった。ユータの全身は黄金に輝く鎧によって随所を覆われていたのだ。尚機動性重視の為関節部分にはつけられていない。オリハルコンの鎧である。強い魔力耐性を誇るオリハルコンは敵の魔法を殆ど防ぎきったのだ。このオリハルコンの鎧は少し前からサーベルグが開発していたユータの為の新しい装備である。
ベオルーフとの戦いには間に合わなかったが、最終決戦には何とか間に合ったのだ。尚、オリハルコンが使われているのは鎧のみで他には兜や剣などは着けていない。オリハルコン製の武器を作る事も考えられたがそれだと制作時間が伸びてしまう上にユータ自身が使いなれた自分の戦法を選択した為結局見送られたのだった。
ともあれ、炎を凌いだクロ達に間髪入れずに機動兵器が襲いかかってきた。壁から床からわらわらと湧き出たそれらは弾丸をばら蒔きビームを放ったがクロ達は至って冷静に対処し次々とそれらを破壊していった。
次の瞬間床に魔法陣が浮き上がり魔法陣に組み込まれた魔術が発動しクロ達を捉えたーーかのように見えた。しかしコーデリックとユータは翼を使い上空に逃れ、クロに至っては首飾りの効果で魔術そのものを弾いた。
奇襲から始まった怒濤の連続攻撃も難なくクロ達が退けられたのは、一重にベオルーフ戦での経験が活きていたからだ。ベオルーフの取った戦法と今の一連の攻撃は先の戦いがまるで予行練習であったかのようにぴったり同じだった。
それはベオルーフがクロ達の為にシュドフケルの行動パターンを予測して組んだのであろう事を容易に想像させた。今回の戦いにおいてどれだけ彼に助けられたか。皆心中でベオルーフに感謝していた。
一連の攻撃を全て防ぎきるとようやく攻撃が止む。自分の攻撃が対策されている事を見て取ったのか、一先ず様子を伺う事にしたようだった。攻撃の嵐が止んで露わになった敵の姿を見て全員が硬直した。
身長は175センチ程度。体格は大きくはなく平均的なもので光沢のない金属で全身を満遍なく覆っている。全体的に色は黒く、骸骨の意匠が施された禍々しさ満載の装備だった。腰には同じく骸骨の紋章の入った長剣を差している。
「黒騎士」一言で言うならそういう姿だった。だがクロ達が驚いたのはそこではない。兜の隙間から覗かれる素顔。それは、ユータに酷似していた。
いや、勿論細かい部分は諸々違うのだが、黒い髪、黒い瞳、肌の色や顔の作り、そういったものがユータと被っているのだ。そしてそれは、この世界で見られるどの人種にも当てはまらないものだった。
「お前はーー」
ある種の予感を覚えつつ、ユータは彼に話しかけた。
見た目は20歳前後に見えるユータに近しい雰囲気を持つその男はニヤリと口元を歪めるとユータに語りかけてきた。
「よう。ーー初めましてだな。後輩ーー」




