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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
練武の魔王皇編
193/229

176話

 連合国軍の兵達と竜族の戦いは、ジュレスが片目の精神世界に潜り込んだ後も変わらず続けられていた。それが今止まった。誰もが、片目の体から発せられる黄金の輝きに魅せられ動きを止めていた。


「聞けえええええええええい!! 者共!!」


 ディンバーが凄まじい大音量で堂々と宣言する。


「これから(オレ)と片目、それぞれの軍を代表して決闘を行う!! その結果によってこの戦いを決着させる! (オレ)が勝てば対核兵器用滷獲装置を頂く! 片目が勝てばここを通す! 連合国軍竜族両者共に即刻戦いを止めこの決闘に命運を委ねよ!!」


 竜族連合国軍共にこの唐突な宣言に動揺が見られた。しかし竜族は流石にその行き渡った統率力により反抗する者もなく攻撃を止めた。竜族の攻撃が止んだ事により連合国軍の動きも止まる。しかし竜族と違い皆が納得している訳ではなかった。


「悪いが皆、ディンバーの言う通りにしてくれ」


 連絡用に飛行船に設置されていた通信装置を使ってジュレス=片目が皆にそう伝えた。それでも兵達はまだ納得出来ていなかった様子だったが、サーベルグが

「ジュレス殿の言う通りに。このまま戦っても勝機は薄い。ならば片目殿に賭けましょう」

 と命を出した事により大人しく従った。サーベルグは例によってこの戦いの場に直接参加はしていないが戦況は把握していたのだ。



 そうして皆が静まったのを満足げに見渡すと、ディンバーはジュレスに労いの言葉をかける。


「ジュレス、と言ったか。よくやった。よくぞ片目の真の力を引き出した。認めよう。貴様こそ正に片目の契約者(パートナー)だ」

「ありがとよ」

 ぶっきらぼうにジュレスは礼を言ったが、ディンバーに誉められるのは素直に嬉しかった。

 この男は敵ではあっても悪ではない。戦いの中でジュレスはそう感じとっていた。だからこそ、腑に落ちない事もあった。

「賞賛ついでに教えてくれねえか。何で竜族は天上の支配者の味方をする? 奴が何をやってきたのか知らねえ訳じゃねえんだろう?」

「勿論」

「なら何でだ?」

「シュドフケル殿には借りがある。大きな借りがな。その借りを返す為だ」

「その借りってのは?」

(オレ)はかつて片目に負けた」

 そういうディンバーの顔には苦いものが浮かんでいた。

「それが原因で竜族の統率は乱れた。誇りが全ての竜族がその誇りを汚されたからだ。他の種族にも軽んじられ、いらぬ戦いも増え犠牲者も出た」

「………………」

「そんな竜族(オレたち)を纏め、新たな生きる場所を与えてくれたのがシュドフケル殿だった。天空大陸に移り住んだ(オレ)達はその数を大きく増やしたのだ。かつて地上に居た頃とは比べ物にならぬ程に」

 そういうディンバーのその表情には複雑な色が見て取れた。竜族以外の者に竜族の命運を預ける形になった事に思う事があったのかもしれない。



「だからといってこのまま地上が滅ぼされるのを黙って見守るつもりか?」

(オレ)達がシュドフケル殿に手を貸すのはこの一度だけだ。そういう約束になっている。いつ如何なる時誰が相手でも力を貸す代わりにその一度きりで貸しは無しにすると」

「なるほどな……律儀なこった」

「受けた恩を忘れるのは誇りを汚す行為だ。選択の余地はない」

 その言葉には地上の破滅を本心から望んでいる訳ではないという複雑な思いが込められているようにジュレスには思えた。

「それに……降りかかる火の粉を己の力で振り払えないのならば、滅ばされても文句は言えまいよ」

「弱ければ、殺されても仕方ないと?」

「弱い事そのものが罪だとは言わん。だが、弱いまま他者の助けを待つだけならば、強者に踏みつけられても仕方あるまい」

 それは、最弱と言われた種族の出身でありながら竜族の頂点まで昇りつめた男の深い実感を伴った言葉だった。



 ディンバーのその言葉を聞いた片目は沈黙を破り質問を投げ掛けた。

「ディンバーよ。お前にとって強さとは何だ?」

「己の我儘(おもい)を現実に反映させる為の力よ」

 迷いなくディンバーは答えた。

「シュドフケル殿のやろうとしている事が正しいとは思わん。しかしそれは誰にも言える事だ。誰の掲げる正義が正しいかなど本当に判別できる者などいない。結局は、力ある者が己の理想をこの世に反映させるのだ。力なき者はどんな理想を掲げようと駆逐されていくのみ」

「……確かに、お前の言う事にも一理ある。……だが、私の考える強さはそれとは違う」

「ほう?」

 面白そうに片眉を上げるディンバーに片目は己の理想(かんがえ)を述べる。

「私の考える強さとは、弱き者を助け守る為に奮われる力だ」

「ふ……ならば(オレ)を倒しその我儘(おもい)を貫いてみせよ!」

 そう言い放つとディンバーは構え戦闘に備えた。片目もまた、静かに闘志を燃やして姿勢を整えた。




 最後の決戦が始まろうとしていたーー

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