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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
練武の魔王皇編
190/229

173話

 ディンバーはジュレスの要求を受け入れた。ここからが勝負だった。ジュレスが、片目の本当の力を引き出せるか否か。その結果次第で世界の命運が決まると言っても過言ではなかった。


 ジュレスは既にこの時点で一つ手を打っていた。この戦争の勝敗を決闘に委ねる事。それは、そのままだと敗色濃厚な戦争の結果を覆す為の提案だがそれだけではない。

 片目と同化した事によってよく分かった事がある。


 それは、片目が本当に、心優しい仲間思いな奴だという事である。ディンバーとの一対一の決闘の最中にも片目はずっと連合国軍の兵達の状況を気にかけていた。一対一の決闘とは言っても場所を明確に区切った訳ではないので両者の戦いの影響が周囲に出てしまうのだ。

 己の攻撃(わざ)を完璧にコントロールできるディンバーにとって仲間に当たらないように攻撃を調整する事など造作もない事であり、心配するような事ではないが片目にとってはそうではない。



 自分の攻撃が仲間に当たらないように、またはディンバーの攻撃が仲間に当たらないように常に気をつけながら戦わなければならなかったのである。それは片目にとって少なくない負担だった筈だ。


 だが、ジュレスの要求をディンバーが呑んだ事によって完全な一対一の決闘となり周囲を気遣う必要はなくなった。多少なりともこれで片目の負担を減らせた筈である。


(ーーとはいえ、こんなのは前座に過ぎねえ。本番はこれからだーー)


 ジュレスは決意を固めると、意識を心の奥深くへと沈みこませ始めた。







               ◆







 今現在ジュレスと片目は同化しており、片目の体にジュレスの体が溶け込んでいる。同じ様に精神も溶け込んでいる。

 どちらも完全に溶け込んで同化してしまえば元に戻る事が出来なくなる為に、厳密に言えば不完全な同化状態を維持していると言えた。完全な同化ではないのでダイレクトに相手の考えている事が伝わってくる訳ではなく、「相手の考えている事が非常に分かりやすくなっている」状態である。


 言い方を変えれば相手との距離を非常に近くまで詰めているという事である。これを、ジュレスは意識して更に距離を縮めた。

それは自殺行為と言ってもいい危険と隣り合わせの行為であった。


(近付きすぎれば完全に同化して元に戻れなくなる。だが、片目の精神(こころ)の奥まで干渉するにはこうするしかねえ)


 実を言うとジュレスには片目の本当の力を引き出す為の方法には心当たりがあった。片目には、ずっと昔から心の中にわだかまる精神的外傷(トラウマ)がある。それを取り除いてやる事が本当の力を引き出すきっかけになる筈だというのがジュレスの考えだった。



 そういう心積もりを胸にジュレスはどんどん片目の精神の奥深くまで潜り混んでいった。







               ◆







 そうしてしばらくの間潜り続けていたジュレスの精神は片目の精神世界の最下層まで辿り着いた。その場所は、その者の最も根本的な起源(ルーツ)、原風景と言える。クロの精神の中に掃き溜めがあったように誰しも心のうちに帰るべき場所を持っているのだ。


 そして、片目にとっての原風景ーー帰るべき場所は鋭く固く研ぎ澄まされた植物が生い茂る森林地帯ーー即ち、刃の森であった。

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