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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
練武の魔王皇編
189/229

172話

「さて、これで(オレ)の話は終わりだ。納得したか?」

「ああ……」

 ジュレスの言葉に嘘偽りは無かった。心底ジュレスは納得したのだ。ディンバーの強さに。

「さて、……時間稼ぎに付き合ってやったんだ。何かいい案は浮かんだか? 少しは体力回復に役立ったか?」

「…………!!」

 己の策とも呼べぬ策が見破られていた事にジュレスは驚愕した。驚いた事に驚いた。こんな下手な時間稼ぎなどばれるに決まっているではないか。なのに驚いたという事は、この後に及んで自分はディンバーを侮っていたという事なのだ。



「まあ、落ち込むな。お前の気持ちも分かる。確かに(オレ)は馬鹿だ。お前達の力を侮っていたし、二度も策略に陥れられた」

 この時になってジュレスはようやくディンバーが手を抜いていた事に気が付いた。この男は何故だか理由は知らないがわざわざこちらが有利になるように立ち回っていたのだ。

「だから馬鹿だと思うのはいい。だが、侮るのは止めろ。……油断や傲慢はお前達の力を半減させるからな」

 それはかつての自分の失敗から得たディンバーの教訓だった。

「何故そこまで俺達に塩を送るんだ? 勝ちたくないのか?」

「勝ちたいさ。心底勝ちたい。全力を出したお前達、……いや、片目に」

 そういって片目を見る瞳に嘘は無いようにジュレスには見えた。



「だから、一対一の決闘と言ったのにも関わらずお前がいる事を許してやっているんだ少年よ。魔族と契約者は一心同体、二人で一人。片目の力を最大限に引き出せるのはお前だけだろうからな」

「俺が……片目を……?」

「そうだ、それでこそ片目の信頼に応える事になるのではないか?」

「え……?」

 怪訝そうな顔をするジュレスにこれまた懇切丁寧にディンバーは説明する。

「片目は前に1度 (オレ)と戦っている。技の錬度、威力は今とは比べ物にならんが戦法自体は殆ど変わってないんだ。もっと上手く立ち回れた筈。それなのに何故わざわざ馬鹿正直に戦ったんだと思う?」

 そう語るディンバーの表情が、頼むからこれ以上失望はさせるなと語っていた。

「オレに……ディンバーの戦法をじっくり観察させる為に……?」

「……その通りだ。恐らく、お前なら(オレ)を倒す策を見つけてくれると信じてーーそうだな? 片目よ」

「………………」

 片目は何も言わなかった。否定も肯定もしなかった。だが、恐らくその通りなのだろう。



「…………俺は、何にも分かっちゃいなかったって事か」

 ジュレスは愕然としていた。精一杯やっているつもりだった。敵を舐めているつもりも無かった。だが、違ったのだ。

 ディンバーという男の真価に初めから気付いていれば。片目の体を張った自分への信頼に気付いていれば、出来る事がもっとあった筈だ。


「気にするな、ジュレス。誰しもそんなものなんだ。誰だって失敗はするし、後悔も……する。大切な事はそれを乗り越えて先に進めるかどうかなんだ」

「片目……」

 ジュレスは思った。片目はこんなに優しい奴だったろうか? そうだ。片目はとても優しい奴なんだ。だから、赤ん坊のクロを救う為に同族を敵に回してまで群れを抜けた。己の無力さを嘆いていた自分と契約を交わしてくれた。戦場でいつも力ない自分を庇って血を流してくれた。


(俺は、馬鹿だ。そんな大切な事を、どこかで当たり前に思っていた。その傲慢さが、ここまで片目を傷付け、ディンバーを失望させた)




「ごめん、片目。お前が寄せてくれた信頼に答えてやれなくて。ごめん、ディンバー。お前の事を侮ってしまって…………だけど、」




「ここからは、違う」

 静かな声だった。だが、力のこもった声だった。

「ディンバー」

「なんだ?」

「俺が、これから100%片目の力を引き出す。もしそれが成功したら……頼みを一つ聞いてほしい」

「……言ってみろ」

 ディンバーはその場ですぐに否定する事はせず、先を促した。

「この決闘の勝敗を、そのまま竜族と連合国軍の勝敗として決着してほしい」

「……つまり?」

「あんたが勝ったら対核兵器用の滷穫装置を渡す。俺達が勝ったらここを通してもらう。それでこの戦いは終わりにしてくれ」



 つまりは、この戦争の勝敗を決闘にかけようと言っているのだ。先程まではあくまでも片目とディンバー個人間での決闘であったのが、それぞれの軍を代表して戦う事になる訳だ。

 他の兵達は戦わないので結果がどうなろうとこれ以上この場で犠牲者が出ないという事である。それは、連合国軍にとって都合の良すぎる提案だった。このまま戦えばまず勝つのは竜族でありディンバーだったからだ。



 ディンバーはしばし瞑目していた。普通ならまずこんな提案は受けない。しかし、ジュレスは信じていた。

(ディンバー。あんたは、俺が片目の力になると信じて動いてくれた。だから俺も、あんたを信じる)






「ーーいいだろう。その提案、受けてやる」

 (あんたが、こんな阿保みたいな提案を受けてくれる、本物の馬鹿だって!ーー)






 二つの言葉が交差し、互いの想いが一つになった時、最後の決闘が始まる。…………しかし。

「だが忘れるな。あくまでもお前が片目の力を最大限に引き出せたら、の話だ。それが出来ないのなら、(オレ)は容赦なくお前達を殺し、連合国軍も全滅させるぞ」

「分かってる。……感謝するぜ、ディンバー」

「感謝するなら結果を出してからにしろ」

「分かってるさ」



 そして、戦いが始まる。決闘の前哨戦、片目の力を引き出す為のジュレスの戦いがーー

流石ディンバー!俺達に出来ない事を平然とやってのけるそこにシビれる憧れるぅ!( ≧∀≦)ノ

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