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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
練武の魔王皇編
185/229

168話

 ディンバーの放った一撃は衝撃波となって荒れ狂う。飛行船にほぼすし詰め状態となっていた連合国軍の兵士達が外に投げ出されそのまま地上へ落ちていく。その凄まじい勢いに甲板や手すりも吹き飛ばされ引き剥がされる。


 ベキベキベキ、と船体が引き裂かれる音が響き飛行船がひしゃげて潰されてしまう。片目は飛行船の上から飛び下りて魔法陣の上へと着地する。その後ろでは飛行船が完全に破壊され破片がバラバラと撒き散らされ落ちていくのが見えた。



「ウソ……だろ。たった……たった一撃で……!」



 ジュレスが動揺するのも無理は無かった。片目達が乗っていた飛行船はクロが搭乗している(と思わせる為の)船であり、二十隻ある飛行船の中でも最も大きく装甲も厚い船だった。それが、たった一撃で破壊され乗っていた兵士達も半分以上が外に投げ出されてしまったのだ。運良く魔法陣の上へ落ちた兵達は助かったがそうでない兵達は……。

 しかも、恐ろしい事に被害を受けたのは連合国軍側だけなのだ。竜族は全くの無傷で何の影響も受けていない。飛行船を一撃で破壊する威力を持ちながら味方への被害は避ける完璧なコントロールも併せ持っているという事である。


「畜生! これが最強の魔王の力って奴なのか……!」


 ジュレスはギリ……と歯ぎしりした。その力も技術も、自分(ジュレス)が想定していたものの遥か上を行っていた。ディンバーが当初連合国軍を侮っていたように、ジュレスもまたディンバーの力を侮っていた。連合国軍の兵士達もディンバーの力を目にして動揺を押さえきれないようだった。

 サーベルグの策略により五分に保たれていた戦の趨勢(すうせい)はディンバーの一撃により竜族の側に傾き始めていた。



「……(ディンバー)を自由にさせていたらあっという間に飛行船を全部落とされちまう。接近して動きを抑えるしかない」



 気持ちを切り替えてジュレスはそう言った。片目はこくりと頷きディンバーへの距離を詰めていく。その間ディンバーは攻撃を仕掛ける事もなく黙って見ているだけだった。

「……何故攻撃を仕掛けて来ない? 私が来るのを待っていたようだが」

「そうだ。(オレ)の目的は貴様だ、片目。貴様さえ倒してしまえば連合国軍など烏合の集よ」

 ディンバーは片目を指差し高らかに叫ぶ。

「片目よ! (オレ)と決闘しろ! 誰の邪魔も入らない一対一の勝負だ!」

「……いいだろう。望む所だ」




 どうもこのディンバーという男、一軍を率いる将としては未熟で短慮が目立つようにジュレスには思えた。自分(ジュレス)が彼の立場ならむしろ手強い片目との勝負は避けて飛行船の破壊に集中するだろう。竜族に時間稼ぎをさせてその間に飛行船を破壊していけば確実に勝てる勝負だからだ。


 そのように考えていると片目が心の中に語りかけてきた。

(竜族は誇り高い種族だ。その長ともなれば常に己の力を周りに誇示しなければならない。策略に頼るのは好まれないのさ。)

(成程。正々堂々、正面から叩き潰してこそ意味があるってやつか)

(それに、奴はまだ若い。血気盛んな年頃だからな。頭では分かっていても昂る気持ちを押さえきれないんだろうさ)

(流石年寄りはよく知ってるな)

(馬鹿者。私は永遠の100代だ)

 100代というのが銀老族の中では若い部類に入るのだろうが、ジュレスにはいまいち実感を持てなかった。



「どうした? かかってこないのか? ならばこちらから行くぞ」

(わざわざそうやって律儀に宣言してくれるんだなぁ)

 などとどこか他人事のようにジュレスは思った。だが、どんなに馬鹿そうに見えても実力は本物なのだ。気を引き締めなければ。などと考えている間にもディンバーは接近して攻撃を仕掛けてきた。


 その動きは本人の性格とは対称的に洗練され隙がなく、かつ強力だった。殆ど防戦一方で見る見るうちに片目の体が傷付いていく。重いダメージではないが、無視できるものでもない。

 だが、片目は至って冷静にディンバーの攻撃を裁き続ける。

「どうした? 守るだけでは勝負にならんぞ」

「………………」

「あまり(オレ)を失望させてくれるなよ!」

 そう言うとディンバーは左腕を分解させ霧状にすると片目の周囲に散布した。そして霧が体内へと入り込んでくる。片目の体を内部から破壊する為にディンバーは魔力を霧に送り込む。

「真面目に戦う気が無いのならここで死ね!」

 だが、霧が片目の体を爆散させる前に片目が動いた。




「ウオオオオオオンンン!!!!!!」




 全身をびりびりと震わせて片目は叫んだ。それはただの叫びではない。全細胞から魔力を結集させて解き放つ音波の轟きである。その振動波は体内の霧とぶつかり外へと追い出していく。

「むぅっ…………!」

 ディンバーはすぐさま霧を腕に戻して距離を取った。若干ではあるがダメージを与えられたようだった。

「忘れたか? ディンバーよ、貴様に『霧』があるならば、私には『音』がある」

 片目が繰り出したのは銀狼族の誇る武器の一つである、魔力と衝撃波を伴う音波を繰り出す遠吠えである。その特殊な波長は形のないものも捉え、衝撃を与える。



「面白い……そうでなくてはな!」

「これからが本当の勝負だ、ディンバー!」



 そう言って片目は不敵に笑った。



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