15話
「お頭……本当に大丈夫なんですかね?」
堀の上にいた神経質そうな小男が禿頭に声をかけた。
「何がだあ」
「あの薄気味悪いガキの事ですよ! 本当に大丈夫なんですか!? 忌み子なんてさらってきちまって……どんな災厄が襲ってくるか」
禿頭は声を荒げた。
「てめえは馬ああ鹿か!! そんなもん下らねえ迷信だろうが! んなもんが本当にあんなら俺らあとっくにくたばってらあ!」
大声で怒鳴りちらすが、それでも手下の不安は取り除かれなかったようだった。前の先導している男も不安そうに告げる。
「でもお頭……あのガキぜってえまともじゃねえですよ。さらってきた時もまるで抵抗しやしねえし声ひとつ上げやしねえ」
「仕事が楽に片付いて結構じゃあねえか! 今時あんな簡単にかっさらえるガキなんかめったにいねえぜ! しかも極上の見た目ときてやがる!!」
ガハハと笑いながら禿頭は言う。
「おりゃあ男のガキは専門外だが思わず手を出しそうになっちまうくらいだからあなあ。だが下手に手を出して怪我でもされたら価値が下がっちまう。残念だぜ。1度くらい味見しても良かったんだがなあ」
言いながら興奮してきたらしく涎をじゅるりと垂らしている。
「でもお頭……本当にそんな高値で売れるんですかね……? 確かに見た目はえれえ別嬪だが着ている服はボロっちいし王族や貴族のガキじゃねえのは間違いねえ。しかも忌み子ですよ。本当にそうなのかは置いといてもそんな不吉なもんわざわざ高い金出して買う物好きがいるんですかねえ……」
小男の言葉にフッと禿頭は笑う。
「確かに王族や貴族じゃなさそうだが、心配すんな。あの見た目で忌み子となりゃ手を出したくなる変態どもは沢山いらあ。むしろ喜んで金を出すだろうぜ!」
ゲハハハとまた笑う。
頭の様子に釣られて2人もまた笑った。
安心しかけたその時、
「うわああああああ!!!」
絶叫が聞こえ幌の中から大男が飛び出してきた。
「お、おかしら~! 大変です~」
「チッ何だってんだ情けねえ声出しやあがって!!」
震える大男が指差したのは幌の中。
鉄の檻の中だった。
檻の中を覗いた禿頭は目を見張った。忌み子の周りに黒い障気のようなものが漂っているのだ。明らかにただ事ではなかった。
周囲にいる子供達は皆恐怖に顔を歪めている。先程忌み子の美しさに見惚れていた子達も今は目に涙を浮かべ体をガタガタと震わせていた。
「これは……魔力……か?」
だが、彼の知っている魔力とはどうも違う気がする。禍々しすぎるのだ。しかも目に見える程の強さ……
「フ……ハハハ!! こいつはすげえ! たまげたあぜ!」
急に笑い出した頭に後ろの手下達は怪訝そうな顔をする。
「忌み子で別嬪さんの上に魔力持ちとまできてやがらあ!! こいつあ、うまいこと売りゃああ一生遊んで暮らせるぜ! 山賊家業ともオサラバできらあ!!」
その声にぴくり、と奥にいた子供が反応する。
うす暗い生気を感じさせない瞳がこちらをひた、と見据えていた。少年は自身の体から溢れ出す障気を押さえ込むように両手で体を覆い、微動だにせずただひたすら何かに耐えるように身を縮こまらせていた。
う……と思わず禿頭は声を出しそうになった。
(なんてえ気味悪い目で見やがあんだ……あいつらが怖気付くのも分からなくはねえ。だが……)
相手はまだ10歳くらいの幼い子供だ。そして頑丈な檻の中に閉じ込められている。何もできるはずもない。
(だいたい、何とかできる力があんならとっくに逃げ出してるはずだからあな)
だがその考えはあまりにも甘く、浅い考えでありその考えのなさが己等の命運を決める事になるとは誰も気付いていなかった。
この時点では、まだ。