161話
サーベルグは装置に被せていた布を剥ぎ取ると、両手を広げ高らかに笑いながら装置の説明を始めた。布の下から出てきたのは、一見何の変哲もないミサイルに見える。(ミサイル自体がこの世界にはまず有り得ない珍しい物ではあるのだが)
「フッフッフ……これは、私が長年をかけて研究し遂に完成させた対核兵器用の『切り札』です。核兵器は下手に手出しすれば誘爆を招いてしまいます。従って「破壊する」「撃ち落とす」といった対処が取りづらいのです」
「まあ、衝撃を与えたらそりゃ爆発するだろうしな」
「ですからこの装置はまず「爆発させない」事を目標に作られています。核に込められたエネルギーに反応し誘導弾となってこの装置は対象物に接近します。そして……!」
サーベルグが手元のリモコンを押すと、ミサイルの先端から縦に四つに割れ、更に割れた長方形の真ん中からくの字に折れ曲がり、菱形の立方体の形状となった。そして先端部分がアームのように開いた。
「こうやって内部に対象物を取り込むのです」
アームが閉じるとくの字に開いていた装置は再びミサイルの形状に戻った。
「そしてこの装置は取り込んだ対象物に『氷結』と『時間停止』の魔法を発動させます。まず氷結によって爆発を防ぎ時間停止によってそれを持続させるという仕組みです」
「なるほど。二重の防壁って訳だな」
ジュレスが感嘆の声を上げる。
「何よりもこの装置の優れている点は、相手の使用した核兵器をそのままこっちのものに出来るという点です」
「まさか、使う気なのか……!?」
「いいえ」
血相を変えたユータにあっけらかんとサーベルグは答えた。
「使いません。使ってはいけない兵器なのです。貴方なら分かるでしょう?」
「あ、ああ……」
「しかし、相手はそうは思いません。核兵器を防がれる所か奪われてしまう。これは、相手の核攻撃を躊躇わせるには十分な効果がある筈です」
成程。とジュレスは今度こそ心から感嘆した。何も考えずに核を放てばこの装置により鹵獲され、この装置の存在がばれたとしても相手の攻撃を躊躇わせる事が出来る。
「爆発させない」事を目標に作られていると先程サーベルグは言っていたが、これは更に一歩進んで「撃たせない」事を真の目的として作ったのだろう。
「さて、ザンツバルケルに核が撃たれ、この鹵獲装置によってマガミネシアへの攻撃は防がれました。しかし、ザカリクはどうしようも無かった。この鹵獲装置では国内を守るので精一杯。ここにある一台のみですしね」
て事はこの中に核が入っているのか、と皆がぞっとした。
「私の予想が正しければ、敵はもう核を落とす事は無いでしょう。その前にマガミネシアに攻め入ってくる筈です」
「どうやって核を凌いだのか分からないからか?」
「それもありますし、分かっていたとしてもやはり調べには来るでしょう。核兵器はその強大な力故に奪われたり跳ね返されたりしたら恐ろしい事になってしまいますからね」
「「「成程……」」」
「逆に言えばこれはチャンスです。向こうから攻め入ってきてくれるなら敵の正体規模がある程度分かりますから。我々が成すべき事は敵の進軍を防ぎ、敵の本拠地を突き止め攻め入り、最低でも核の発射装置を破壊する事です」
各々の表情が引き締まり、新たなる、そして恐らく最後になるであろう戦いに向けて思いを這わせるのだった。
「ところで」
とクロが意見した。
「サーベルグは敵の正体については予想がついてるの?」
「ええ。クロ殿達の報告通り、真の敵は最古の魔王皇である覇道のシュドフケルでほぼ間違いないでしょう」
「どうしてそう思うの?」
「そうですね……それも説明しなければなりませんね」
そう言うとサーベルグは一息ついた後にゆっくりと語り始めた。
「ではーーお話致しましょう。私が知る限りの、覇道のシュドフケルという存在と彼が黒幕と断ずる理由についてーー」




