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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
飛翔編
175/229

159話

 サーベルグの発言に衝撃が走った。ザンツバルケルのみならず、ザカリク、そしてマガミネシアまでも同時に核が投下されたというのだ。しかしそうなると大きな疑問が沸き上がってくる。マガミネシアへも核が落とされたのなら何故今クロ達のいるここは何も被害を受けていないのか。

 誰もが詳細をサーベルグに問い詰めたい心情ではあったが、状況が状況である。ザカリクから送り込まれてきた避難民の中には全身を酷く焼け爛れさせられた者も多くあり、一刻を争う状況であると言っても過言ではなかったのだ。

 


 己の疑問は一先ず胸に押し込めて、クロは負傷者の手当てを申し入れた。当然回復魔法の多用は命を縮める為にサーベルグは却下しようとしたのだがクロは尚も食い下がった。

「重傷者の治療は他の人に任せる。あくまで僕自身の魔力だけで直せる軽傷者だけをやるから。それなら影響も少ないでしょう?」

 サーベルグは始めこの提案も跳ね退けようとした。しかしクロの目が据わっているのを見て諦めたかのように溜息を付き、しぶしぶ許した。大局的な見地で見るのならクロの行動は間違っている。どんな理由があろうとクロは救世の天子、救世主なのだから。決して安易に死の危険のある行動を起こしていい立場ではないのだ。


 

 けれど、そんな理屈とは掛け離れた所にクロの救世主としての力があるのもまた事実だった。正論で安牌だけを通していたら誰も生き残る事は出来なかったのだから。結局の所、サーベルグの理屈を超越した領域にクロは生きている。本気でクロが決意したら、サ-ベルグには止められないのだ。


 しかし、クロが死ぬ=第二の魔神の誕生という秘密をサーベルグが知っていたら絶対に許さないどころか戦場に立つ事すら許さなかっただろう。それは他のメンバーにしても同じ事だった。だからクロは誰にもこの秘密を明かしていない。今後も明かさないだろう。自らの死の危険性が現実味を帯びてこない限り。





              ◆





 結局、回復魔法が使えるユータも人員として借り出され各地の負傷者の治療及び対処に当たった。他のメンバーも勿論事務的な作業は手伝いに加わり、それらが一通り片付き落ち着いた頃には夜になってしまった。激闘の後という事もあり、クロ以外はへとへとになっていたが、勿論そのまま疲労に身を任せて寝てしまう訳には行かない。



 例によってブラックタワーの一室、ブリーフィングルームに一同が集い遂にサーベルグは口を開き始めた。

「さて、順を追って話しましょうか。クロ殿達が連合国軍と離れ離れになった時点で私はある種の予感を覚え、急遽彼等をマガミネシアへ退却させました」

「そんで俺らが戦ってる間に批難出来た訳か」

「ええ。そしてその後最初の攻撃、即ちザンツバルケルへの核投下が行われました。その爆発によりザンツバルケルは地上から消滅しました」

 ごくり、と皆が唾を飲んだ。直接被害を受けた訳ではないが、焼け野原になったザンツバルケルの国土を彼等は目にしている。理屈は分からないがその恐ろしさはよく分かった。そしてその仕組みすら知っているユータは顔を青くしている。

「それで……その『核』というのは、結局の所どういう兵器なの?」

 クロが遂に切り出した。それに答えたのはサーベルグではなく、ユータだった。



「科学兵器の一種だ。……簡単に言えば超強力な爆弾だ。そして同時に猛毒でもある」

「猛毒? どういう事だ?」

「爆発の核となる物質そのものが猛毒なんだ。そして爆心地にその物質は留まり続ける。爆発を直接受けなくてもその物質が放つ毒で生物は死ぬ。運よく生き残れたとしても毒の影響は身体に残り重大な悪影響を与え続ける。その毒が完全に大地から消え去るのには長い時間がかかるとされている。」

 厳密に言うならば、放射線性物質の半減期はその種類によって大きく異なるし、放射線性物質が雨で地中に染み込んだり川に流れて海に行くことによって大気中に放射線があまり出なかったりもする。つまり爆弾(放射性物質)の規模や種類、被害を受けた場所の環境によって大きく結果は変わり一括りには出来ない部分があるのだが、ユータとて学者ではないのでそこまで詳しく知っている訳でもない。


「核兵器は……人類や世界そのものを滅ぼしかねない威力を持った兵器なんだよ」


 これも厳密に言えば核一発の威力だけで地球が滅びるという訳ではないし、核攻撃に対する報復行動から勃発するであろう核戦争や、核の爆発が巻き上げた地上の土や埃が大気中に留まり太陽光線を遮ってしまう核の冬と呼ばれる現象が原因になるという事を説明に加えてはいなかった。だがその言葉が誇張でも何でもないという事実を皆に認識させるには十分過ぎる程の効果があったのは確かな事だった。


 ごくり、と唾を鳴らしながらジュレスが尋ねる。

「何で、ユータ兄ちゃんがそんなに詳しいんだよ」

 それは当然の疑問であった。ユータは唇を奮わせながら次の言葉を紡いだ。

「オレの故郷にも存在した兵器だからだ。そしてオレの祖国は核兵器による直接的な被害を受けた唯一の国なんだ。……だから、学者でも何でもないオレにも、そのくらいの知識はある」


 誰もがユータの言葉に驚き、耳を疑ったのだった。

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