153話
クロ達はまんまと引きずり出されてしまった。叡智の魔王皇ベオルーフ=ヴァン=ザンツバルケルの前へと。ベオルーフは静かにクロ達を見つめている。
「あなたは……」
クロが話しかけようとしたその時、会話を拒絶するかのようにベオルーフは右手を前へと突き出した。そして床が一瞬光り輝き複雑な幾何学模様や入り組んだ図形、書き込まれた文字が浮かび上がる。
その直後ばぢぃっという嫌な音と共に何かが弾き飛ばされ火花が散る。
「防がれたか……何かの加護を受けているな」
事も無げに言う。今の一瞬でベオルーフがクロに何かしらの攻撃を加えようとしたのは明白だった。女神の首飾りによって守られた事をみるに魔術を仕掛けたようだった。
「貴様ぁッッ!!」
片目が激昂しベオルーフへと突進する。同時にユータはクロを庇うように前に出てコーデリックは呪文の詠唱を始める。
片目が凄まじい勢いで爪や牙を繰り出すがすいすいとベオルーフは交わしてみせた。まるで気軽に散歩にでも出かけるような歩調で、である。
「そう怒るな。敵が目の前にいるのだ。攻撃を加えるのは至極当然だろう?」
直後、コーデリックが牽制の魔力弾を飛ばすがベオルーフが手をかざしただけで全て消し飛んでしまった。何事も無かったかのようにベオルーフはクロに視線を送って言った。
「いつも目の前の相手が話し合いに乗ってくれるとは思わない事だな。今まではその並外れた魅了の力と巧みな話術で敵を篭絡してきたのだろうが……それが通用しない者もいる」
ベオルーフがクロに話しかけたタイミングを狙ってジュレスが懐に持っていた催涙弾を投げようとしたが、手を離れた直後光の帯が走り爆発した。
「うわっ!?」
「ああ、物理的な飛び道具の類はお勧めしないぞ。全て光線が撃ち落とすからな」
思い出したかのように言うベオルーフの頭上には天上から伸びたアームとその先端に取り付けられたビーム兵器が幾数も触手のようにうねっていた。
ユータは一連の動きをじっと見ていた。見ている事しか出来なかった。飛び出していった所でどうにもならない事が分かってしまったからだ。
強い。あまりにも強すぎる。それが全員が出した結論だった。こちらの攻撃をいとも簡単に無力化してしまった。
全員が瞬巡し攻めあぐねているのを見て取るとベオルーフは最初にクロに仕掛けた時のように右手を前へと突きだした。するとクロを取り囲むように青白い電気のような檻が出現しクロを閉じ込めてしまった。
「!?」
「直接対象に魔術をかけるのが無理でもその周囲に発動させる事なら出来る」
クロは自らを閉じ込めた檻を破ろうと手をかけるがばぢぃっという音と共に反発が起こり押し戻された。
「魔術を防ぐという事は反発し押し退けるという事。逆に言えば魔術に干渉する事もまた不可能」
淡々と説明するベオルーフには自分が優位に立ったという優越感も油断も感じられない。ただ詰め将棋のように一手一手的確な方法で事態に対処している。
パーティーの中で一番厄介なのはまず回復魔法を持ち殆ど攻撃が通じないクロであろう。それをいとも簡単に無力化してしまった。
「皆!! 出し惜しみしてる場合じゃねえ! 全力でやらなきゃあっという間に全滅だぞ!!」
ジュレスが激を飛ばす。各自が目を合わせ頷いた。
「そうだ。全力で来い。でなければお前達に勝機などない」
ベオルーフはニヤリと笑い、挑発するように両手を広げ迎え撃つ姿勢を取った。




