149話
クロ達の活躍によって世界各地に派遣されたザンツバルケルの機械兵軍団が撃退されてから4日。新たな兵が送られてくる事もなく、平穏な日々が過ぎていた。
変化した事もあった。それまで毎日のように世界各地で勃発していたテロ活動がピタリと止んだのだ。
「恐らくテロリスト達はザンツバルケルへと亡命し合流したのでしょう」
未だに真意の掴めないザンツバルケルの世界侵攻であったがテロリスト達に対する宣伝としてはこの上ない成果を示したようだった。
「時間が経てば経つ程にザンツバルケルへと下るテロリスト勢力の数は増えていくでしょう。放っておく訳には行きません」
それはザンツバルケルへの進軍を言外に示していた。ブリーフィングルームに集った面々に緊張が走る。
「連合軍でザンツバルケルへと正面から突入します。貴方がたには遊撃隊として先陣を切って頂きます」
「真正面から馬鹿正直に行くのか? どんな罠が仕掛けられているのか分からないってのに」
ジュレスが疑問を呈するがサーベルグは首を横に振り、
「策を練った所で恐らく無駄です」
と言い切った。
「何故そんな事が言い切れる?」
と片目。
「相手が魔王皇が一人、叡智のベオルーフだからです」
魔王皇。その言葉にコーデリックを除いた全員が驚愕する。
世界に5人いると言われる魔族の王。その魔王皇が相手だと言うのだ。
「叡智のベオルーフ……どんな奴なんだ?」
ユータは訪ねた。
「一言で言えば、人格者でしょうか。恐らく、魔族一の」
「人格者」という言葉にユータの眉が寄った。それはそうだ。人格者ならば何故戦争を起こすのか。当然皆が同じ思いを抱いていた。
「人格者と言ってもあくまで魔族にとっての、ですがね。彼は人と魔族の関わりを嫌い魔族優先の社会を構築する事を以前から主張し続けています」
「なるほどな」
ユータが合点が言った、と頷く。魔族の味方が人間の味方とは限らないのだ。
「ある時期を境にぷつりと消息を断っていたんですが……ザンツバルケルにいたとは意外でした」
「意外ってなんで?」
「ザンツバルケルは人間の国です。しかも魔族との関係は悪く、度々戦争を起こしていた程です」
「それがザンツバルケルの指導者か……」
「内側から乗っ取ったんだろ。ザンツバルケルの科学力に目をつけて」
「ええ、恐らくは」
ジュレスの推測にサーベルグも同調した。ここでクロの表情が歪んだ。
「それじゃあ、元々ザンツバルケルに住んでいた人達は……」
サーベルグは何も言わなかった。それが逆にクロの危惧を肯定していた。
「ザンツバルケルの科学力に、世界各地から集められたテロリスト勢力。これだけでも驚異ですが、ベオルーフ自身の力も恐ろしいものがあります」
「強いのか?」
魔王の実力に興味が湧いたのか片目がそんな事を言った。
「彼はあらゆる魔法を使いこなし、極大魔法は勿論超絶魔法までも使えるという噂です。そして魔法だけではなく魔術にも造詣が深い。彼が『叡智』の二つ名で呼ばれる所以です。」
「ちょうぜ……おいおい、只でさえそんな化物なのに今はザンツバルケルにいるんだろ? て事はそれに加えて科学の力まで利用してくる可能性が高いじゃねえか!」
それは正に驚異の一言に尽きた。どれだけの力を漏っているのか想像もつかない程だった。そして更にこれらの事実はある仮定を導き出す事になる。
「待てよ……魔法に魔術、更に科学力……これってまさか……」
「そう。私達が今まで戦ってきた敵が用いてきた手段そのものです。つまり、彼が『真の敵』である可能性がある。彼が『真の敵』ならば、策を練った所で勝てるような相手ではありません」
「「「………………!!!!」」」
その場に衝撃が走った。今まで散々自分達を苦しめてきた諸悪の根元が遂に姿を表したのかもしれないのだ。
「ならば、負ける訳には行かないな」
静かに片目がそう言った。ややあってユータとジュレスも
「ああ、そうだな」
「絶対に負けられねえ!」
と強く意気込んだ。
「作戦の開始は明朝7時です。それまでにゆっくり準備を整えておいて下さい」
そうしてその場は解散となった。皆が部屋を出ていく中クロ一人がただ立ち尽くしていた。
クロは神妙な顔で一人思いにふける。
「…………本当に、『真の敵』が現れたのかな……?」
呟きだけが部屋に響いた。




