148話
超大国マガミネシア。西の超大国ザカリクと並び称される魔族信仰国家で、世界に五人いると言われている魔王皇が一人策謀のサーベルグが建国した国家である。その豊かな国土と資源、人も魔族も問わない広い外交政策により世界に多大な影響力を持っている。
当然、ザンツバルケルの世界侵攻の中でも優先度の高い標的でありザカリクに投じられたのと同じ規模の侵略軍が差し向けられた。
が、マガミネシアは悠々とこれを撃退した。しかも、クロ達の援護も連合国軍の助けも借りずにである。つまり自国の戦力のみで数万もの軍勢を退けたのである。防衛戦においてマガミネシアの右に並ぶ者はいないというのが世界の共通認識であった。サーベルグはとにかく防衛重視で国を運営していた。自身が百パーセントの力を発揮できる本拠地においては何者にも負けない、との強い自負がサーベルグにはあった。
だが、彼が何故そこまで「守り」にこだわるのかは誰にも分からなかった。サーベルグはこの事について固く口を閉ざしコーデリックにすらその理由は知らされていない。誰も真実を知る事は無かったのである。
ーーこの時点では、まだ。
そしてそのマガミネシアの中枢ブラックタワーの一室において通信設備を用いた連合国の会議が再び開かれていた。その席に集う顔ぶれは以前と変わらない。つまり、誰一人として失われる事が無かったということでもある。クロも自身が直接参加したとは言えないがミノス連合の軍と共に戦場に赴き無事侵略軍の侵攻を退けたのだ。
「世界各地に投入された機械兵達はほぼ全部が撃退され、全滅しました。街や人員への被害も軽微で済んだようです」
「ひとまずは一安心てところか」
ホッと息をつくジュレス。口調は荒っぽく強がってはいるが実は誰よりも優しい彼は心から安堵したに違いない。そう思いながらもサーベルグはあえて厳しい口調で言った。
「ですが、油断は禁物です。敵の狙いがまだ見えていませんから」
「狙いとは? 単純に侵略が目的で機械兵を差し向けて来たんじゃないのか?」
片目の疑問にサーベルグは首を横に振り、
「それにしてはあまりにも戦略が稚拙です」
と返した。
「そうだね。それはぼくも感じていたよ」
「どういう事なんだ? クロ」
クロはまず指を一つ折り、
「まず一つ。敵の戦力が弱すぎる。数だけは膨大だったけど質が低すぎるよ。あれは機械兵とは言ってもほとんどブリキのおもちゃだ。ある程度訓練を積んだ兵が作戦を立てて連携すれば苦もなく倒せてしまう弱さだった。世界に喧嘩を売るにはとてもじゃないけど力が足らないよ」
実際、侵略軍の機械兵達はその尽くが撃退され被害も少なかった。つまり人類とそれに組する魔族の排除というザンツバルケルの目的は全く達成されていないのだ。
「なるほどな。じゃあ二つめは?」
今度はユータが質問しジュレスがそれに答えた。
「何でわざわざ戦力を分散させたのか、だな。質が低いとはいえあれだけの戦力を抱えていたんだ。弱小国に狙いを定めて戦力を集中させていれば簡単に落とせた筈だぜ」
「そうです。そうやってまずは小さな所から落としていけば確実に敵勢力を減らしていけますし制圧した国の人員や資源を使って更なる戦力の拡大に勤めていけばどんどん勢いを強めていく事が出来る。なのに何故それをしなかったのか……」
「なるほど……」
納得したように頷くユータに更にクロが言った。
「まだあるよ。何故ザンツバルケルは機械兵しか出さなかったんだろう? 何故生身の兵が一切出てこなかったんだろう?」
「確かにな……」
「機械兵は動きも単調で恐らく複雑な命令を実行できるような性能は無かったと思う。でも、ちゃんとした指揮官がいて作戦を立てて動かせば相当の脅威になってた筈だよ」
「う~ん……」
ユータが頭をポリポリとかく。
「人員が不足していた、とか?」
「それならそもそもそんな状態で戦争なんかしなければいいだけの事じゃない。それに、仮にザンツバルケルに人員が全然いなかったんだとしてもあの宣戦布告で各地でテロを起こしてた勢力を取り込む事だって出来たんだからさ。宣戦布告と同時に開戦する必要なんかどこにもなかった」
「考えれば考える程訳が分からんな。これではまるで最初から負けたがっているようではないか」
「……あるいは本当にそれが狙いなのかも知れません」
「「「え?」」」
サーベルグの発言に場の視線が集まる。
「私は、ザンツバルケルは最初から負ける事を想定して、というか負けるように戦略を立てているのでないかと考えています」
「なんでそんな事をするんだよ?」
「例えば……先の戦争でマードリックは自軍の兵士を自ら虐殺するという傍から見れば狂気としか思えないような暴挙に出ました。しかしそれは魔術という切り札を発動させるための言わば捨て石でした。今回も同じような事が起こっているのではないでしょうか?」
サーベルグの言葉に一同は静まり返った。皆、あの惨状を思い返してしまったのか表情が優れなかった。
暗くなってしまった空気を打ち破るように明るい声を出したのはコーデリックだった。
「とにかく、相手の狙いが分からない以上迂闊には動けない。しばらくは相手の出方を伺うしかないよね。ボクらはその間でも少しでもできる事をしようよ」
「できる事って……何があるんだよ」
ユータが疑問を投げかける。頭のいいサーベルグやクロやジュレスならば今回の件について色々調べたり考察したりして分かる事もあるのだろうが、ユータや片目にはできる事など何も無いように思えたのだ。
コーデリックは腕を組んでしばし考えた後、悪戯っぽく笑ってユータの肩に手を回し
、
「そうだね。とりあえず……精力の補給とか、かな?」
と言い放った。
「お、おい……」
慌てるユータを構わず引きずり外に向かっていく。出口の前で思い出したかのように振り返ると今度はこう言った。
「そうだ。たまにはジュレスも一緒に来るかい? いつも仲間外れは嫌でしょ?」
「い、一緒にって……」
見る見る内にジュレスの顔が真っ赤に染まっていく。
「ああ、勿論『参加』はさせられないよ? でも、見学するくらいはいいんじゃない? 何たってキミはユータの『恋人』なんだからさ」
それはコーデリックのジュレスに対する気遣いでもあり同時に挑発でもあった。ジュレスは顔を真っ赤にして体をもじもじさせながらも
「分かった。俺もいく」
と決意を固め席を立った。
「ちょっと待て! オレはまだやるとは一言も……!」
そう言いながら二人の恋人に引きずられながら部屋を退場していった。
「「「………………」」」
後に残された面々の間で微妙な空気が流れるのだった。
リア充滅ぶべし(゜Д゜)




