146話
各国との協議の結果、とにかくまず各地に侵攻している機械兵への対応のために連合国軍の兵が派遣される事となり、クロ達もその対応へと追われる事となった。
転送魔法陣を用いてすぐに兵を送れる所から中心に軍を送り対処していく事となる。魔法陣から離れた位置にある国には周辺諸国との連携により何とか対応して貰う他はない。多数の犠牲が予想されたが敵の規模が規模なのでやむを得なかった。
クロ達は一人一人が一騎当千の強者なのでひとかたまりとなって動くよりも分散させて事に当たった方が効率がいいだろうという話になった。ただ、契約を結んでいる者同士で組んだ方がより力を発揮できるという事で三つのパーティーに分かれる事となった。
片目とジュレス、ユータとコーデリック、そしてクロ。クロに関しては防御と回復担当なので直接戦闘は出来ないのだが救世の天子が居るというだけで兵の士気は格段に上がるので得に問題はないだろうという事になった。
片目とジュレスはアクアドール、ユータとコーデリックはザカリク、クロはミロス連合国各国へとそれぞれ向かう事となり短い挨拶を交わした後順次転送魔法陣により現場へと散っていったのだった。
「まさかこんな事でここに戻ってくるとはなぁ……」
久しぶりに戻ってきた故郷に感慨深くジュレスは呟いた。
「ジュレス、片目殿お久しぶりです」
二人に声をかけてきたのは元反王政派(王制は既に廃止された為この肩書きになっている)穏健派のトップ、大司教である。隣には神官長であるゼロもいた。
「おお、久しぶりだな二人とも」
「俺もいるぜ」
そう声をかけてきたのは女神信仰から魔族信仰へと鞍変えした男、キンデロだった。
「ああ、あんたも久しぶり。アンジュはいないのか?」
幼なじみの姿が無かったのでジュレスはそう聞いた。
「彼女ならコルネリデア城の方に向かいましたよ。コリーネの力になりたいと言う事で」
「健気だねえ。恋する乙女は」
ヒュウ、とジュレスが口笛を吹いた。
「さて、敵の侵攻は間近です。早く作戦を立てて迎え撃つ準備を整えれなければ」
既に戦えない一般市民の避難誘導は終えており、後は戦闘員の配置と実践時の動きをどうするか決めるだけだった。
流石に長年反王制派として活動していただけの事はあり行動は的確で早い。改めて片目達は大司教のその優れた手腕を再確認させられたのだった。
戦の場となるエスクエスには元反王制派のメンバー達、聖十字騎士団、そして片目達が集結していた。
あらかたの作戦は決まり、後は敵を迎え撃つだけである。
「久しぶりの戦だ。ボクちんワクワクしてきちゃったよ」
「あくまでも街と住民が優先です。我を忘れて敵陣に突っ込むような真似は控えて下さいよ」
「勿論分かってるって」
聖十字騎士団第一部隊隊長ロウナルドとその部下のやり取りを見ながら
「相変わらずだなあの二人も」
と片目は呟いた。
「さて、お喋りはここまでだ。お客さんがおいでなすったよ」
ロウナルドの言葉通り彼等の頭上には全長500メートルはあろうかという巨大な飛行船が間近に迫ってきていた。
飛行船に積まれていた大砲が火を噴き、街の建物を粉砕した。それが開戦の合図となり次々と機械兵達が地上へと送り込まれてきた。
その様子を確認すると大司教は目くばせし、
「では、手筈通りに」
と作戦の合図を送った。
飛行船を取り囲むように円状に配置された人員が一斉に呪文を唱え始める。彼等の足元には巨大な魔法陣が描かれており、魔力を増幅させていく。
それは、魔法が使えるメンバー全員で執り行う対飛行船の切り札だった。
大いなる大地と精霊の御名において 我等の平和を脅かす邪悪なる使徒に 聖なる鎖をもって神罰を与えん
それは、大掛かりな準備と多数の人員がいて始めて成立する、複合聖魔術。聖属性の極大魔法であった。その魔法名を大司教が言い放つ。
「極大聖鎖縛術!!!!」
大地に描かれた巨大な魔法陣からいくつもの鎖が跳びだし、宙に浮かぶ飛行船へと絡み付きその動きを封じる。飛行船の動きが止まった事を確認すると片目がジュレスを背中に乗せ鎖を伝って上へと駆け登っていった。
勢いよく飛行船の上まで到達した二人は大砲を次々と破壊していく。全てを破壊し終わると地上で待機している聖十字騎士団を中心とした近接戦闘部隊へと発煙筒で合図を送る。
「聖十字騎士団、今こそその真価を発揮せよ!!進めぇーーーーーー!!」
普段のおちゃらけた態度は何処へやら、ロウナルドの号令により鎖を伝ってどんどん兵達が飛行船へと乗り込んでいく。
勿論その間にも飛行船からは機械兵達が次々と送られてくる。 大司教達は極大魔法を維持し続けなければならない為逃げる事も戦う事もできない。元反王制派を中心としたメンバーがそれらの護衛迎撃を受け持ち統率された動きで機械兵を撃破していった。
「オラオラ!!ぺしゃんこにしてやるぜ!!」
自身の身長を遥かに上回る得物を振り回しキンデロが機械兵達を薙ぎ倒していく。機械兵は二足歩行の人型の姿をしており、甲冑のような胴体に盾と槍を構え向かって来る。それはブリキの人形の玩具を人間大まで大きくしたような印象を見る者に与えた。
機械兵はその動きもブリキの人形のように遅くてたどたどしく、数だけは多いがよく訓練され統率された歴戦の戦士達の相手では無かった。皆の奮闘と作戦の成功によりエスクエスの町並みにもさほど大きな被害は出ず、日が暮れる頃には飛行船は落ち機械兵達は沈黙し物言わぬただの鉄屑と化したのだった。




