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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
叡智の魔王皇編
160/229

145話

「……また、ですか」

 ブラックタワー内部、最奥にある常世の間。大きな台座に固定されたガラスの中に鎮座する1メートルはあろうかという巨大な脳。魔王皇が一人、策謀のサーベルグの本体は幾数ものチューブやコードに繋がれ様々な通信機器と情報をやり取りしていた。


 そのやり取りで得られた情報。


 それは増加傾向にある世界各地で行われるテロ活動だった。どれも規模が小さく散発的に起きている為に今の所は大きな犠牲は出ていない。しかし、日に日にその数は増えていく一方でありいずれサーベルグを中心とした国家連合の処理能力の限界を超えてしまう可能性があった。


 この個々のテロ活動に繋がりはなく裏で何らかの組織が暗躍している訳ではない。しかし、もしこれが一つの大きな集団となって共通の目的となって動き始めたら……魔族至上主義者と魔族と人の友好関係を望む者達との間に大きな戦が勃発するであろう事は予想に難くなかった。



「これが『真の敵』によってもたらされているのだとしたら、戦争は避けられない……」



 そしてサーベルグのその呟きは後日現実の物となる。






「我はベオルーフ=ヴァン=ザンツバルケル。北の機械帝国ザンツバルケルの指導者にして、人と魔族の歴史を変える者」


 その放送はマードリックが行ったクロの処刑中継と全く同じ手法で同時に全世界に放映された。ブラックタワー内部にいたクロ達もすぐさま外に出てその放送を目にした。


 無数の虫達が集まって作り出した映像に映し出されていたのは、黒いローブに身を包んだ魔族の男だった。邪悪な意匠が施された装飾品でローブを飾り手には機械で出来ていると思われる杖を持ち、ローブのフードに隠れた部分からは紅く冷たい瞳の輝きが煌めいていた。


 魔王ーー。


 ユータが頭に思い描いたのはそれだった。実際にこの世界に五人いると言われる魔族の王としての魔王ではなく、彼の故郷地球の日本のゲームや物語に登場する所謂ボスキャラとしての魔王である。

 このベオルーフと名乗る男からは正に典型的な魔王の雰囲気が色濃く醸しされていたのである。ベオルーフは滔々と己の目的を語り出す。



「我が望むのは矮小で愚かな人間共の支配から魔族を解き放ち、魔族を中心とした新たな理想郷をこの世界に打ち立てる事である。その為に……」


 この後ベオルーフが放った一言が世界を一変させる鍵となった。

「我はここに宣戦布告を告げる。人間と人間に協力する裏切り者共を全て粛正しこの世界から排除する。人間共よ。貴様らが積み重ねてきた罪をその命でもって清算してもらう。人間を庇う魔族も敵とみなし排除する。我の意志に賛同せし者は我が軍門となりて我の手に下るがよい」



 それはベオルーフ自身が宣言した通り宣戦布告であった。人間と、人間と共に生きる魔族達への。

 そして事はそれだけには留まらなかった。ベオルーフは宣戦布告と同時に世界各地への進行を開始したのである。ザカリクを始めとした女神信仰者達の国や、マガミネシアを始めとした人間に友好を示す魔族の国を中心に、世界各地へとザンツバルケルの兵達が送り込まれたのである。



 すぐさまサーベルグは各国の首脳と緊急通信を開き今後の対策を練るための会談を始めた。その席には先の大戦で魔族信仰者達を勝利に導いた救世の天子=女神の救い手、クロとその仲間達も同席していた。


「ザンツバルケルの侵略軍は量、スピード共に凄まじい勢いで各地に進軍しています。小さい村や町の中には既に犠牲の出はじめた所もある」

「うむむ……しかし奴らどうやってそれだけの大量の兵を……ザンツバルケルは技術大国だが資源に乏しく他国の輸入に頼らなければやっていけない程なのに」

 大きな髭を忙しなく掻きむしりながら疑問を口にしたのはダイダロス国王バルダ=ヴァン=ダイダロスだった。

「それに進軍の速度も異常です。世界各地に同時にだなんて」

 女性と見間違わんばかりの美少夫、ノルアドス国王ミレーネ=ヴァン=ノルアドスも何が何だか分からないといった顔で言う。



「これを見てください」



 そう言ってサーベルグが映し出させたのは、空中を浮かぶ巨大な戦艦とその内部から雨のように降り注ぐ無数の影達だった。マードリックが使っていた虫の技術を盗み魔導技術で再現させたのである。空中に浮かぶ対象を映像に写し出せたのはひとえにその技術のおかげであった。


「これは一体……!?」

 カルネデス国王キーラ=ヴァン=カルネデスが驚愕の声を上げる。

「何だこれ!? 馬鹿でかい船が宙に浮いてやがる!」

「飛行船て奴か……」

 唯一ユータだけはその正体について推測が立った。彼が故郷の物語やゲームの中で見てきた物と酷似していたからだ。

「そう、これは飛行船。巨大なエンジンとプロペラの推進力によって空を自由に行き来できる乗り物です。そしてそれに搭乗しているのは……」

 そういってサーベルグは画像の一部を拡大させる。小さな点にしか見えなかった無数の影の正体は全身をが硬質な鉄で構成された機械兵とも呼ぶべき物だった。


「「「………………」」」


 あまりの衝撃に一部を除いた全員が固まる。彼等のそれまでの文明水準では到底想像すら及ばぬ程の高度な科学技術によってもたらされた物だったからだ。

 平静を保っていたのはユータとサーベルグだけだった。彼等はとちらもそれぞれ高度な科学技術に慣れ親しんでいたからだ。メグロボリスで発展した文明に多少は耐性ができていたクロ達ですら受けた衝撃は大きかった。

 道具がまるで自らの意志をもったかのように動き行動するなど理解の外にある物だったのだ。



「飛行船に機械兵か……これなら確かに世界各地に喧嘩を売れるだろうな」

「しかし、それにしたってこれだけの兵器を多数産み出すには相当の資材が……」

 キーラの疑問に返すようにサーベルグが己の推測を語る。

「ザンツバルケルは長い間一部の国を除き他国との接触を控え自国の情報を秘匿してきました。彼等はずっと前から計画を企てていたのかも知れません」



「長い間蓄え続けてきた貯金を遂に降ろしたって事かよ……」



 例えを用いて皮肉毛に言うジュレスだったが、その体は僅かに震えていた。ユータは黙ってジュレスの手を握った。一瞬ぴくりと反応したがそれ以上反応する事はなかった。

 ただ、体の震えは止まっていた。



「……それで、どうするんだ?」

 片目が厳しい顔で問う。サーベルグが答えようとするのを遮ってクロが宣言する。

「勿論、戦うしかないよ。あのベオルーフって人はともかくとしても相手が機械なら説得なんてできないだろうから」



 それは、避けようのない新たな戦いの宣言であった。

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