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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
竜退治編
16/229

13話

 赤竜とバレットは片目が来た時と同じように向かい合っていた。来た時と違うのは双方共にボロボロになっている所だ。バレットは両足を炎で焼かれているし、全身の骨にはヒビが入っている。赤竜はダメージこそ受けていないが片目との戦闘により体力を相当消耗していた。炎を吐くのも無償という訳にはいかない。魔力と体力を消耗するのだ。


 バレットはこの戦いに命を懸けていた。相当の重症を負っているしこのまま放置すればどうせ死ぬ。赤竜と刺し違えれば本望なのだ。だが赤竜の方はそうではない。

 赤竜が今にも死にそうなバレットの挑戦をわざわざ受けたのには理由がある。バレットは簡単に殺せる。だがその後に控えているのは片目との戦いだ。赤竜といえども片目が相手では万に一つの勝ち目もない。ならばどうするのか。



 まずは威力を抑えた火球でバレットを仕留める。次の瞬間に片目に奇襲し今度は全力で火球をぶつける。それでも片目にダメージは与えられないだろう。それで構わない。それでも全力の火球なら大爆発が起こる。それを目くらましにして逃げる。それが赤竜の立てた作戦だった。


(あの人間相手に余計な力はかけられねえ。必要最小の力で殺して体力を温存しておかなければ)


 一方バレットの方はこの一撃に全てを賭けるつもりのようだ。命を懸けた気迫と勢いが伝わってくる。

「ヒュージ……力を貸してくれ」

 バレットは呟いて集中力を高める。バレットの右手が輝き、刻印から光が溢れ出す。うっすらと人影がバレットの横に現れ、バレットの右手に手を添えて支える。


 あれは昔赤竜が殺した人間バレットの恋人だ。刻印に交換した魂の一部が宿っていたのか。面白い。今度こそ恋人と一緒に魂ごと消し去ってやろう。赤竜はニタリと笑った。



「グオオオオン!!」

「行くぞ赤竜!!」


 

 同時に2人は一撃を放った。



 バレットの放った弾丸と赤竜の放った炎球が激突する。

 次の瞬間火球が霧散する。


「!? バカな!」


 バレットの放った弾丸には魔力が込められていた。バレットの恋人の魂が弾丸に魔力を纏わせたのだ。

 弾丸はそのまま突き進み赤竜の胸にめり込んだ。

(いつもと違う所を狙ってきたか)

 いつも通り目玉を狙ってもかわされる可能性が高いと判断し心臓を狙ったのだ。その狙いは成功し、赤竜の胸に命中させた。


 だが、それだけだ。めり込んだだけでダメージには程遠い。だが次の瞬間バレットが叫んだ。




「まだ俺のターンは終わっちゃいないぜ!」




 バレットは残り5発の弾丸を1発目と全く同じ軌道で撃ち込んだ。1発、2発、3発、4発、5発。

 後から撃ち込まれた弾丸達が1発目の弾を押し出し奥へとめり込ませていく。そして全ての弾丸が撃ち込まれた時、最初に放たれた弾丸は赤竜の心臓に到達していた。



「ば、馬鹿な……こんな事が……」



 バレットを侮り力を温存した赤竜と全てを弾に込めたバレット。その時点で既に勝敗は決していたのだ。ゆっくりと赤竜は体を後ろに仰け反らせていきついには倒れた。そのまま起き上がってくる事はなかった。

 バレットの方も全てを出し尽くして地面に倒れこんだ。片目はバレットに駆け寄り介抱する。


「大丈夫か」

「ありがとう……アンタのおかげでヒュージの仇を討てた……」

 そう言うバレットの瞳には片目の姿は写っていなかった。

「ヒュージ…………今……そっちに行くぜ……」

 そう言ってバレットは目を閉じた。その目が開かれる事は2度となかった。


 しばし無言でバレットの死に顔を見つめた後片目は呟いた。

「お前の言う通りだ赤竜。人間は何をするのか分からない。……だから面白い」

 重傷を負っていたバレットが赤竜を倒せる可能性など万に一つもなかったのだ。だが現実は見ての通り。バレットは奇跡を起こしたのだ。片目はこの人間に、命を懸けて目的を果たした戦士に密かに敬服した。


「ほぎゃあ……ほぎゃああぁ……」

 背中に背負っていた赤ん坊が急に泣き出した。今まで全くと言っていい程泣かなかったあの赤ん坊が。それはまるでバレットの死を悲しんでいるかのようだった。

「泣くな、ネクロフィルツ……奴はきっと満足して逝っただろう。今頃恋人と再開を果たしているだろうさ」

 北の山に赤ん坊の泣き声がしばしの間響き続けたのだった。





               ◆





 冒険者ギルドに衝撃が走った。


 赤竜を倒しに行った片目が生還したのだ。左手にバレットの遺体を抱え込み背中には赤ん坊を背負い、そして右手には切断された赤竜の頭部を持って。

 あまりの光景に冒険者ギルドは静まり返る。片目はゆっくりと歩き出し受付に告げた。


「赤竜を退治した。報奨金はもらえるか」

「は、はい。もちろんです。Aランクの赤竜の報奨金は10万ゴールドです」

「私はその金はいらない」

「え?」と受付嬢が不思議な顔をして尋ねると

「赤竜を倒したのはこの男だ。その金でこの男に立派な墓を建ててやってくれ」


 片目はそう言い残すと赤竜とバレットの遺体を置いて去っていった。




 それからしばらくの間冒険者達の間でとある冒険者の噂が流れた。10年の歳月をかけて赤竜を討ち取った1人の男と風のように現れ去っていった子連れの女戦士の噂が。


 やがて片目は冒険者達の間でこう呼ばれるようになる。

「隻眼の銀狼」とーー

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