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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
叡智の魔王皇編
159/229

144話

 クロが目を覚ましたという一報はすぐに片目達に伝えられ、ブラックタワーの一室、クロが眠り続けていた一室へと皆駆け込んでくる。

「クロッ!」

 片目が叫びながら乱暴にドアを開けると中にはベッドに腰掛けたクロの姿があった。クロは物音に反応してドアの方へ視線を向けて片目と目があった。

「……そんな乱暴に開けたらドアが壊れちゃうよ?」

 ちょっと困ったような顔をしてそう言った。片目は見る見るうちに目に涙を溜め、次の瞬間3メートル程あった距離を瞬時に詰めてクロに抱き着いた。


「クロォ~~~~~~!! …………良かった……目を覚まして」

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら嗚咽する片目にクロはよしよしと頭を優しく撫でさすっていた。これではどちらが保護者なのか分からない。

「ようやくお目覚めか。待ちくたびれたぜ、クロ」

 ジュレスがほっとして息を吐く。

「ごめんね。皆に心配かけちゃったみたいで」

「元はと言えばそこまでお前に負担をかけさせてしまった俺達の責任でもあるんだ。気にするな」

「そうそう。これからはボク達がもっと頑張るから。クロ一人に全てを背負わせたりはしないよ。もう二度と」

 そういってコーデリックは他の三人に目線を送り、それぞれが頷いた。その様子を見てクロが不思議そうな顔で言った。

「何か……皆、変わった? 前と違うような……」

「お前が寝てる間に俺達にも色々あったんだよ」

 そう言ってジュレスはユータの手を握った。ユータも手を握り返す。反対の手ではコーデリックの手を握っていた。




「そっか……そんな事が。ぼくが寝てる間に本当に、色々あったんだね」

 クロは一ヶ月ぶりのまともな食事を取りながらしみじみと言った。

「それで、クロ……大丈夫なのか? 身体の方は……」

 片目は心配そうに言う。

「髪の色も大分変わってきちまってるし……やっぱり魔神化がだいぶ進行してるんじや」

 ジュレスも不安そうにクロを見ている。神魔戦争が起こる前はほとんど髪の色に変化はなくうっすらと青みがかっている程度だったが、今はもう遠目からでも色みが増してきているのが分かる程に青く変色していた。

 クロは悩んだ。自分の現状を正直に言うか否か。しばし瞑目するがやがて覚悟を決めて言った。



「このまま今まで通りに力を使っていけば長くないって言われたよ」

「「「………………!!!」」」

 その場のクロを除く全員の顔が真っ青に染まる。クロは安心させるように笑って言った。

「大丈夫。きっと何とかなるよ。要は回復魔法と魔神の力を使わなければいいんだからさ」

「…………ああ、そうだな。俺達が、クロにそんな事をさせないように上手くやってけばいいんだ。もうクロに戦いはさせねえよ」

「私も魔神化を解く方法が無いか探ってみますよ」

 皆が笑顔で励ましあってその場は一旦解散になった。たが、クロの部屋を出ていく片目達の表情は皆重く、暗かった。



「どうして……」

 ジュレスが堪えきれない、といった感じで涙を零れさせる。

「何であいつばっかりこんなひでえ目に会わなきゃ行けねえんだ……何であいつだけが苦しまなくちゃなんねえんだよ」

「ジュレス……」

 ジュレスの涙は止まらなかった。後から後からポロボロと涙がこぼれ落ちていく。ユータはジュレスが自分の為に涙を流した時の事を思い出していた。あの時もジュレスはこうやって泣いていた。自分以外の者を思って泣いていたのだ。この少年はそうやって他人の為に泣ける人間なのだ。


「ずっと迫害されて生きてきて、やっと自分の仲間と出会えたと思ったら救世主なんて重いもんを背負わされちまってよ……俺達がふがいないばかりにあいつばかりに負担をかけさせて……奇跡まで起こしてやっと助かったいうのに、何で……」

 ユータがジュレスの肩に手を置く。

「強くなろう」

 ジュレスがユータを見る。

「もっと強くなろう。クロに負担をかけさせないように、クロをもっと支えてやれるように。オレ達が成長した分だけ、あいつの負担も減らせるんだから」


 残念ながら今の状況では新たな戦が起こらないとは言いきれない。それどころか『真の敵』が未だ存在している以上戦いは避けられないだろう。ならば、彼等にできるのは少しでも強くなってクロへの負担を減らす事だ。

 新たに全員が決意を固め直したのだった。




 一方、自室に独り残ったクロも暗い顔をしていた。

「結局、言えなかったなぁ……」

 ぼそり、と呟いた。このまま力を使えば自分の命が長くないという事実は伝えた。だが、もう一つの事実、自分が死んだら第二の魔神が誕生するという事を遂に口に出す事が出来なかった。眠りから覚めたクロを迎える仲間達の反応で自分がどれだけ仲間達に心配をかけてしまったのか痛い程に理解してしまったのだ。

 その上で更にもしもの時には自分を殺してくれ、とは言えなかった。このタイミングで言うのはあまりに酷に思えたのだ。



 クロはもう最後まで己の道を貫き通すと決めている。死ぬのは怖くない。ただ、残される者の気持ちを考えると苦しかった。クロ自身、先立たれる事の辛さは見に染みる程によく理解していたからだ。


 クロはただ、仲間の事を思った。『真の敵』との戦いが終わっても皆が笑顔でいてくれる事を願うばかりだった。

 ーーそこにクロの姿が無かったとしても。

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