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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
流転編
155/229

141話

 二人はそのまましばらく無言で見つめあっていた。やがてその沈黙に耐え兼ねユータが口を開く。

「コーデリック……オレは…」

 しかしコーデリックは指先を伸ばしその唇を閉じさせた。

「いいんだ。キミの愛情を望んでる訳じゃない。気持ちを伝えられただけで十分だから」

「………………!」

「元々この気持ちは伝えずに黙っているつもりだった。言えばキミが困惑するのは分かっていたからね」

 事実コーデリックの言うとおりユータは困惑していた。

「キミが傍に居てくれて、体を重ねてくれる……それだけでボクは十分幸せだよ。これ以上を望んだらジュレスに申し訳が立たない」


 困惑しきりのユータを置き去りにしてコーデリックは去っていった。何も声をかけられなかった。コーデリックの気持ちにどう答えていいか分からないからだ。

 ユータは再び自分が独りになるのを感じていた。

「ん? どうしたそんな所で突っ立って」

「片目……」

 部屋から出てきてユータに声をかけてきたのは片目だった。片目はユータの顔を見ながら優しく語りかける。

「親に置いていかれた子供のような顔をしてるぞ。何かあったのか?」

「…………………」

「役に立てるかは分からんが、話を聞いてやる事ぐらいはできるぞ。話してみろ」

「……実は……」



「なるほどな……」

 場所を変え、個室に移り二人はソファーに座りながら紅茶を啜っていた。ティーカップをテーブルに置くと片目は自らの所感を語り出した。

「ユータ。ジュレスに全部話してしまえ」

 ユータは伏せていた顔を上げた。

「結論が出せないから一人で悩んでいたんだろう? だったら、一人で抱え込むな。事はお前だけの問題じゃないんだからな」

「そう……だな」

「お前が、ジュレスにもコーデリックにも誠実でいたいと思うならばそうするべきだ。3人の問題は、3人で考えて解決しろ」

 そう言って片目は紅茶を凡て飲み干して外へ出ていった。

「………………」

 またしても一人残されるユータだった。



「コーデリックが……」

「ああ……」

 ユータとジュレスが今いるのは先程の個室だった。図書室から出てきたジュレスに声をかけてここまで連れてきたのだ。

「そっか……やっと、自分の気持ちに気付けたんだな」

「ジュレス、お前気付いてたのか?」

「そりゃあ、ね……同じ人間を目で追ってるんだから嫌でも分かる」

「……………」

 ユータは絶句してしまう。

「良かったじゃないか。これで本当のハーレムが出来る」

 ジュレスの言葉に思わずジュレスは声を荒げてしまう。

「ジュレス!! お前本当にそれでいいのか!? オレが、他の奴を抱いて、付き合って、本当に何とも思わないのか!?」



 つつ、と涙が頬を伝い下に落ちる。

「いい訳ないだろ……」

「…………………ジュレス、だったら何で……」

「だって……仕方ないじゃないか。オレがユータ兄ちゃんと付き合えたのはコーデリックのおかげなんだ。コーデリックが自分の気持ちに気付かないまま兄ちゃんを一人で独占し続けたら、不公平じゃんかよ」

「……………」

「兄ちゃんが他の奴と付き合うなんて嫌だよ! 苦しいよ! でも、それはあいつだって一緒なんだ! 俺には、あいつの気持ちが痛いほど分かるんだ!」

 ユータは自分の愚かさを呪った。コーデリックの気持ちにも、ジュレスの想いにも、全く気付いてやれなかった。

(オレが、二人にしてやれる事は何だ? 何が出来る?)

 そして考えたユータが取った行動は……



 ユータはジュレスの唇に己の唇を重ね合わせた。

「!?」

 ジュレスは驚き身体を硬直させるが、抵抗せずユータに全てを委ねた。

「ん……………」

 切なげな吐息が漏れる。ユータはありったけの愛情を全て注ぎこむかのように熱烈な口付けをジュレスにした。唇を放す。トロンとした表情で頬を赤く染めこちらを見つめているジュレスが堪らなく愛しいとユータは感じた。

 ユータは改めてジュレスへの愛情を再確認し、決意と共に新たな行動に移る。



「話って?」

 部屋に連れてこられたのはコーデリックだった。ジュレスもいる事に驚き戸惑っている。

「改めて言っておく。……オレはジュレスが好きだ」

「………うん、知ってる」

 コデリックの表情が僅かに歪みジュレスの顔は喜びに赤みが差す。

「だけどな、コーデリック。お前も、オレにとってかけがえのない大切な存在なんだ」

「え?」

「それが恋愛感情なのか、今はまだ分からない。けれど、これだけは言える。オレは、残りの人生を『この世界で』お前達と過ごしたい」

 『この世界で』この言葉に込められた意味に気付き二人が驚愕する。



「ユータ……キミ……」

「ユータ兄ちゃん、まさか……」

「そうだ。オレは故郷を捨てる。この世界に骨を埋める。……それが、オレが二人にできる精一杯のお返しだ。オレみたいな情けない奴を好きになってくれた、な……」

 その時、コーデリックは未だかつて感じた事のない感情が胸から沸き上がってくるのを感じた。数百年もの間胸に空き続けていた穴が埋まっていくのを感じた。



 そして。


 眩いばかりの光がその場を包み込む。コーデリックの左太股に新たな刻印が刻まれた。右太股に刻まれた刻印と共に左右二対となって。

 同時にユータの左太股にも刻印が刻まれる。

 コーデリック=フォンデルフ=ツレフ。

 ツレフ。それは、「二人目」を意味する言葉だった。ここに史上初の、二人の人間と同時に契約を交わす魔族が誕生したのだ。


「刻印が……!」

「ユータ兄ちゃんとコーデリックが契約した?」

 ユータとジュレスが驚き声を上げる。

「まさか、そんな……あり得ない……二人目の契約者が出来るなんて……!だって契約は唯一無二の……」

 茫然自失となっているコーデリックにジュレスが声をかけた。

「いいじゃねえか。『二つ目』があったってさ。二つ目があるからって一つ目を蔑ろにする訳じゃねえんだから」

 そう言ってジュレスがユータの顔を見て、なあ? と同意を求めるように言う。

 ユータも同意するように頷いた。

「ひょっとしたら、上手くやっていけるかもしれないな。オレ達3人も……この二つ目の契約のように、さ」

 コーデリックは思わずユータとジュレスの顔を見る。二人がニコッと笑顔を返す。


 二人につられるようにコーデリックも、

「そう……なのかも知れないね」

 と笑った。

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