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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
神魔戦争編後編
142/229

129話

 マードリックが行った救世の天子の捕獲と処刑の発表はザカリク首都キエヌルカだけではなく全世界のあらゆる主要国家都市に及んでいた。


「そんな……!」

「救世の天子様が……」

「ああ、何て事だ」


 マガミネシア連合国軍の兵達の士気低下は著しく、サーベルグは軍の立て直しに奔走していた。ただでさえ転送魔法陣を逆手に取って発動された大結界によって魔族の力は半減され苦しい戦いを強いられているというのに、このタイミングでの敵の音声放送は致命的とも言えた。


(ここで折れてしまえば戦の趨勢が決してしまう。そう、たとえクロ殿が救出されたとしても)


 ならば自分の仕事はクロが戻ってくるまで戦線を維持する事である。クロの救出はきっと仲間が何とかしてくれる。

(コーちゃん、クロ殿の救出は頼みましたよ)

 コーデリックが囚われているとはつゆとも知らずサーベルグは大親友に希望を託して自らが行うべき仕事に没頭していた。


 大結界が作動してからというもの、通信魔術が通らなくなり機械による通信のやり取りしか出来なくなっていたのだった。従ってコーデリックとは連絡が取れないままだ。また、万が一の事を考えてクロに渡していた通信装置も500メートルの上空からの落下の衝撃により故障してしまっていた。


 マガミネシア連合国軍の中核とも言えるこの2人と連絡が取れなくなってしまった事は大いに痛手だった。サーベルグは己の力の無さ見通しの無さを悔やまずにはいられなかった。

 謀略のサーベルグなどと呼ばれていてもこういう予想外の展開には何も対応できないのだ。それに悪巧みに関しては敵の方が一枚も二枚も上を言っている。


(悔やんでいる場合ではありませんね)


 サーベルグは首を振ると気を取り直し、連合国軍へと指示を飛ばし始めたのだった。





 一方、片目達はウルグエルの手引きにより大聖堂の前まで来ていた。いくつもの尖塔が立ち並び一つの塊となってそびえ立っていた。大聖堂と名はついているがむしろ城や塔と言った方が合っている。


「さて、ここで二手に別れよう。俺達が囮となって正面から突入し防衛軍をできるだけ引きつける。あんたらはその間に内部に侵入して救世の天子を助け出すんだ」

「………………」

 当たり前のように言い放つウルグエルに片目はしばし言葉を失う。正面から突入して敵を引きつけるという事はかつての仲間と戦うという事に他ならない。クロ達のおかげで命を救われたとはいえ、ほんの少し前まで殺し合っていた相手の為にそこまでしてくれるのか、と思ってしまったのだ。

 ウルグエルは片目の表情から大体何を考えているのかを悟ったらしく、自嘲げに笑いながら言った。


「……ついさっきまで殺し合ってた相手を信じて任せるのは抵抗があるかもしれんが、ここは信用してくれとしか言えねえ。今の所それしか助け出せる手段がねえんだ」

「分かった。信じよう」

 片目は迷いを捨てキッパリと言い切った。

(クロが、彼等を信じたのだ。私はそれを尊重し従うのみだ)



 こうしてウルグエルと元ザカリク軍兵士達は鬨の声を上げて真正面から大聖堂へと突き進んでいった。それに呼応するかにように奥から防衛隊の兵士達が次々と姿を現したちまち戦闘状態へと陥った。


 この戦闘の混乱に乗じて片目達は大きく迂回し裏手側からこっそりと大聖堂へと侵入した。この道は所謂『秘密の通路』であり防衛隊もその存在を知らない。なので戦闘を最小限に抑えながら先に進める筈だった。

 内部は恐ろしく複雑な構造をしており、正面側はもっと分かりやすく進みやすい構造になっているのだろうが裏手側のこちらは逆に迷路のように入り組んでいた。それでもウルグエルに提供してもらった情報を元にどんどん上へと進んでいく。やがて長く複雑な道を抜けるとある程度開けた空間に躍り出た。



 片目達が進もうとすると行く手を阻むように十人ばかりの兵士達が立ち塞がった。戦闘は避けられまいと覚悟を決めて飛びかかろうとした時、予想外の事態が起こった。兵士達が持っている武器を捨てて両手を上に上げてこう言ったのだ。



「待ってくれ。オレ達は戦うつもりはない」



ーークロの処刑の時刻まで、残り40分。


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