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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
神魔戦争編後編
141/229

128話

 ウルグエル達の先導によりザカリク首都キエヌルカへ侵入を果たした片目達はザカリク軍兵士の装備を着る事により無駄な戦闘を避けつつクロの捜索に当たっていた。

 が、しかし……


「誰もいないな」


 片目が口にした通り、誰にも出会うことが無かった。戦時中なので市民が外出していないのはまだ分かるのだがキエヌルカを守護している筈の防衛隊の姿も見えないのはおかしな事であった。せっかく変装した意味もこれではあまりない。


 人気の無い、極めて発展した街中の路地を進んでいく。何十メートルもの高さを誇るビルディングや自動で動く道、定期的に表示を変える標識や光り輝く看板など、マガミネシア首都で見た風景と似たような雰囲気を片目達一行は感じていた。恐らく、文明レベル的にネグロボリスとほぼ同じなのだろう。


 しかし今は風景を見て楽しんでいる余裕などなかった。敵の本拠地、しかもクロとクロを追いかけていったコーデリックがこのどこかにいるのだ。一刻も早く見つけ出さなければならない。

 その思いも虚しくクロ達はおろか人と出会うことすら出来ずに時間だけが過ぎていく。重苦しい沈黙の中ウルグエルが口を開いた。



「……こいつはまずいかも知れねえな」

「どういう事だ?」

 と片目が訝しげに尋ねる。

「あの救世の天子を連れ去った男から俺達が裏切った事お前らがここに侵入した事既に報告されていておかしくない筈だ。それなのに何も反応が無い。……という事は」

「私達に構っている余裕などない事態が起こっている……つまりクロ達が既に捕まっているかもしくは捕まえる為に総動員している、という事か?」

 恐らくは、とウルグエルは頷く。それは考えうる限り最悪の展開へ状況が転がりつつある事を示していた。ウルグエルは1度立ち止まりしばしの間熟考した後、おもむろに話し出した。


「救世の天子を搜索する事より既に捕まっていると仮定して動いた方が良さそうだ」

 ウルグエルの提案はこうだった。既に捕まっている可能性の高いクロ達を搜索する事に時間を費やしていたらその間に処刑されてしまうかもしれない。それよりはザカリク軍防衛隊やマードリックのいる場所に向かった方がいいだろうという物だった。


「もし救世の天子が捕まってしまっているとしたらその場ですぐ殺すという事は無い。マードリックなら必ず見せしめの為の舞台を用意する筈だ」

「ならばそこを先に抑えてしまった方が良さそうだな」

 ウルグエルはこくりと頷き、

「恐らくは大聖堂……女神信仰の施設の中でも最大の規模を誇る建物の内部に見通しのいい大広場がある。数万人もの人数が入れる大きさだ。そこを女神信仰者達の観客で埋め尽くした中で処刑を執り行うんじゃねえかな」

 数万人もの女神信仰者達の罵声を浴びながら磔にされ処刑されるクロの姿を想像してしまい、青ざめるジュレス。


「冗談じゃねえ、そんな事させてたまっかよ!」


 ジュレスが己に活を入れ、先に足を進めようとしたその時、どこからともなく音声が聞こえてきた。それは通信虫を利用した広範囲へと渡る音声放送だった。



『聞こえるかね? 親愛なる女神信仰者の友よ。そして魔族と魔族信仰者の諸君』


「これは……!?」

「マードリックだ……これは、やはり……」

 ウルグエルは沈痛の表情を浮かべる。マードリックをよく知る彼はこれから何が起こるのかを薄々感じ取っていた。そして、その予想通りの内容で放送が開始された。


『我等は、怨敵である魔族信仰者達の希望の象徴であり最大の敵でもある救世の天子を捕らえる事に成功した。午後1時にその救世の天子の処刑を執り行う事によってこの戦争の勝利を世界に知らしめようと思う。』


「なん……だと……?」

「クロが……」

「くそ、捕まってしまっていたのか」

 片目とジュレスとユータ、三者三様に反応を見せる中、ウルグエルは冷静に言った。

「わざわざ処刑の時間を知らせたという事は……奴は恐らく処刑の瞬間をリアルタイムで全世界に発信するつもりだな」

 腕を組み、しばし瞑目すると

「逆に言えばそれまでは絶対に殺される事は無い。それまでに何としても助け出すんだ」

 その場の全員が無言で頷いた。外の広間に立てかけられている時計の時間は正午を回った所だった。



 あと、1時間ーー


 タイムリミットは目前に迫っていた。


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