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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
竜退治編
14/229

12話

 はたして赤竜と片目の戦闘が始まった。否、それは戦闘と呼べるものではなかった。両者の間には実力差が開きすぎていた。

「クソッ! 何故当たらねえ! 当たりさえ……当たりさえすれば貴様なんか!」

 片目は無言で黙々と赤竜の攻撃を避け続ける。しかもその場からほとんど動いていない。最小の動きでかわし続けていた。完全に動きを見切っているのだ。それだけではない。僅かな挙動や視線、威圧などで赤竜の動きをコントロールしているのだ。


「な、なんつー化物だ……あの赤竜が手玉に取られてやがる」


 バレットは冒険者ギルドで片目に声をかけた自分の目利きが間違ってなかった事を知った。いや、ここまで強いとは思っていなかったのだが。

「どうした? 誇り高き竜族の、しかもその中でも上位のレッドドラゴンともあろう者がたかが人間の女如きに傷一つつけられないのか?」

 分かりやすい挑発ではあった。だが分かっていても無視できるものでもなかった。

「野郎! ぶっ殺してやる!!」

「来いよ赤竜。プライドなんか捨ててかかってこい」



「グオオオオオオオオン!!!!」



 赤竜が吠えた。凄まじい咆哮が辺りを震わせる。全力を出すつもりなのだ。バレットは体の震えを抑える事が出来なかった。

 あの女はとてつもなく強い。負けるとは思わないが……

 赤竜から発せられる威圧感も半端ではない。どうなるのかバレットには予想がつかなかった。

 赤竜は大きく息を吸い込み、限界まで肺を膨らませた。赤竜の最大の特徴でもある炎のブレスを吐き出そうとしているのだ。片目はその場から全く動こうとはせずただじっと待ち構えている。


「余裕ぶっこいて避けなかった事を後悔させてやる! 死ねえ!!」


 そしてついに大火球が赤竜の口から発射された。真正面から片目に命中した。

 ドオオオオン! という爆音と共に凄まじい爆発が巻き起こる。


 だが……



「「ば、馬鹿な…………!!」」



 赤竜とバレットの声が綺麗にハモった。

開いた口が塞がらない。

 片目は何事もなかったようにその場に立っていた。全くの無傷で。

「な、何故だ……! いくらあの女が強くても、着ている服まで無傷だなんて」

 だがすぐに赤竜は片目が自身を包むようにひらめかせている毛皮のマントに気が付く。

「まさか、そのマント、いや毛皮は……! 我等竜族の宿敵、銀狼族の毛皮か!」

 そして見る見るうちに顔を青ざめさせていく。

 銀狼族の毛皮にはミスリル銀が含まれており対物理においても対魔法においても非常に高い防御力を誇る。銀狼族が恐れられる所以である。


「あの女、人間じゃねえ。銀狼族……片目に傷……人間に化ける……まさか、まさか…………」

 ガチガチと体を震わせる。純然たる恐怖のために。今自分が相対しているのは、銀狼族の中でも歴代最強と名高い、あの……


「銀狼族の長、片目……!!」


 赤竜の言葉にバレットは驚愕する。銀狼族の噂は聞いたことがある。刃の森に住み、侵入した者を確実に葬り去る死神の使い……その中でも最強と呼ばれる、Sクラスの化物。

 自分はなんという奴に声をかけてしまったのか。バレットは自分が運が良いのか悪いのか分からなくなった。

 完全に勝敗は決していた。もはや後は赤竜がやられるだけと思われた。

 しかし、片目は反転すると赤竜から距離を取り草むらに腰掛けてしまった。



「「!?」」



 赤竜とバレットには何が何だか分からない。

「赤竜を、倒さないのか?」

 バレットの問いに片目はお前は何を言ってるんだ? とでも言いたげなおかしそうな顔をした。

「何故私が赤竜を倒さなければならないんだ? 私はただコイツとちょっと遊んでやっただけだ。さっきそう言っただろう?」

 バレットは何も言い返す事ができない。

「お前は食事処で私に何て言った? ここに来た私に何て言った? お前が、奴を倒すんだろう?」


 (……そうだ。俺は奴に何て言った? 「俺1人で奴をやる」と言ったんだ。それなのに、片目が奴を倒す事に期待していた。他人任せにしようとしていた)

 バレットは自分の中にあった甘えに気付かされた。さっき、俺は片目が奴に止めをささない事を疑問に感じるべきじゃなかった。怒るべきだった。止めるべきだった。俺が止めを刺すんだから余計な事をするなと怒鳴りつけなければならなかったのだ。



 バレットは立ち上がった。全身に激痛が走り体中の骨にヒビが入っていたが無理矢理立った。

 ここで立たなければ、男じゃない。

「勝負だ、赤竜。長きに渡る因縁に決着をつけようぜ」

 バレットは赤竜に決闘を申し込む。赤竜はしばし考え込んでいたようだがやがて、

「いいだろう。その勝負、受けてやる」

 そう答えた。



 最後の死闘が始まろうとしていたーー

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