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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
神魔戦争編後編
138/229

125話

「遊びは終わりだ」


 そう言ってマードリックはクロとの会話を打ち切り、傍らに控えていた兵士達にクロの捕縛を命じた。命を受けた兵士達はクロを捉えようと殺到する。が、それより早くクロは大魔法の詠唱を始めた。


 心身を蝕む邪悪なる戒めから全てを解き放ちたまえ 聖魔解除防壁セントリザーブウォール


 クロが張り直した結界が転送魔法陣の大結界による魔力喪失を補う。しかしこれはあくまでも体調コンディションを最適に整えるだけでありクロ自身は大魔法の詠唱により多大な魔力を消耗し続ける。



 倒れ付していたコーデリックを庇うようにクロは前に出る。殺到する兵士達をその銀狼族さながらの強靭な筋力と体術で跳ね飛ばしていく。大魔法を維持し続けながら襲い来る敵を薙ぎ倒していくその姿にマードリックは戦慄を覚える。


(大魔法を維持しながら戦闘だと……化物だな)

 大魔法はそれ単体を発動し維持し続けるだけでも莫大な魔力と集中力を要する。それだって普通は仁王立ちしたまま動かずにやるのが普通だ。あのように動き回りながら発動し続けるなどマードリックは聞いた事も無かった。マガミネシアに滞在していた時の厳しい鍛錬の賜物であった。

 こういう大魔法を維持し続けながら戦う場合を想定しての訓練も行われていたのだ。


(しかし……いかに大魔法を維持し続けられようとも魔力の消耗は抑えきれん。時間の問題だな)

 マードリックはそう判断した。今こちらの手勢は数百人。このまま救世の天使が魔力が尽きるまで攻撃しつづければいいだけの事だった。


 だがそこでマードリックの予想を覆す事態が起こる。



 深淵なる神の導きにおいて 邪悪なる魔の猛りを鎮め 我が糧とせん 聖魔吸演舞台セントマジックアブソーブ



「何だとっ!!?」


 思わずマードリックが声を上げた。

 クロは何と大魔法を発動させながら更にもう一つ大魔法を発動させたのだ。聖魔吸演舞台セントマジックアブソーブの結界が周囲を包み込みザカリク兵達から魔力を吸収していく。ザカリク軍兵士達は全て人間兵なので魔力が失われたからといって戦闘能力が無くなると言う訳でもない。が、状況は少しずつクロの側へと傾き初めていた。


 流石に二つの大魔法を行使しながら回復魔法までは使えない。コーデリックの治療は一旦は置いて、襲ってくる敵の対処に集中する。その顔は青色を通り越して土気色と化していた。明らかに無茶な事をしているのだ。魔力が尽きなくともクロが倒れるのは時間の問題と思われた。




 だがーー




「何故だ!!? 何故倒れん?」


 クロは倒れなかった。いくら時間が経過しようともその瞳に宿る強い意志と光は消えなかった。マードリックは戦慄した。完全に理解の範疇を超えていた。それはザカリク軍兵士も同様で、いくら攻め立てても怯まず全く歯が立たない相手に戦う意志がくじかれそうになっていた。


(二つの大魔法を同時に行使する者だと……)

 マードリックはその事実に驚嘆し、戦慄し、怯えた。何故なら二つの大魔法を同時に行使する事ができるという事は一つの可能性を示唆しているからだ。魔術を志す者にとって最早伝説とも言える魔法ーー超絶魔法。それは二つ以上の極大魔法を組み合わせる事によって生まれるという。


 使う魔法のランクこそ一つ落ちるし単純に二つの魔法を同時に放てばいいという訳でもないのだが、それでも恐れるには十分すぎる事だった。



 マードリックは焦りを感じていた。救世の天子を捕獲するにあたってわざわざ自らが出向いてやってきた訳だが、当然不足の事態に対してのそれなりの準備はしてきた。まだまだ打てる手はあるが……


(だが、今の奴にそれが通用するかといったら微妙だな)


 あの救世の天子には、人智を超えた特別な何かがある事を認めなければ危険だ。マードリックはそれを認め、その上でその特別な存在の敵に通用する手段を頭の中で練り始めたのだった。

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