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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
神魔戦争編前編
129/229

117話

 戦闘が始まってから約1時間が経過しようとしていた。4000程もいた敵の数は3000程にまで減り、1000人程も倒した事になる。


だが……


 誰の目にもどちらが有利なのかは明らかだった。クロ達制圧部隊の残り人数は50人をきっていた。驚きべき戦いぶりだが、全員が肩で息をしていた。ぶっ通しで1時間戦い続け、技量や実力で相手を上回っていても体力が持たないのだ。それだけではない。


「クソ……何なんだよ、コイツら……斬っても斬っても湧いて出てきやがって。死ぬのが怖くないのかよ」


 1人の兵がボヤいた瞬間隙をつこうと新たな敵が現れたが、冷静に対処し斬って捨てる。だが、その顔色は悪く、明らかに士気が低下していた。それを見て取った辺りの敵が殺到し、まるで獲物に群がるゾンビのように兵に襲いかかる。

 しばらくの間は何とか持ち応えていたが、ついには数の暴力に負け、物言わぬ骸と化した。


 その様を一部始終見ていた辺りの兵達に恐怖の色が見え始めた時、周辺に群がっていた敵を蹴散らし、叫ぶ影があった。



「怯むな! 怯んだらその瞬間に死ぬと思え!! 戦いはまず何よりも心でするものだ! 何があっても希望を捨てるな!」

「おお、何と勇ましき姿……」

「あれが元銀狼族の長、片目か。噂に違わぬ戦いぶりよ」


 味方兵達は片目の戦いぶりを目にして大いに勇気付けられる。片目の動きは全く衰えておらずむしろその力強さを増していくかのようだった。片目は理屈で理解できずとも本能で理解していた。心が折れたらその瞬間に押し切られてしまう。


 鷹のような目でこちらを睨みつけ観察している男は一見何もしていないように見える。だがこちらが隙を見せた瞬間一斉に部下を引き連れ襲い掛かってくるに違いないのだ。奴が出てこない間ならまだ持ち堪えられる。だが奴を引き摺り降ろさなければ勝利もまたないのも事実だった。



 しばらくの間見物に専念しひたすら消耗戦を仕掛け続けていた赤毛の男が溜め息をつき、何かを諦めたかのように首を振った後に姿勢を整え構えた。

「しゃーねえな。このままやり続けても敵さんは崩れそうにねえ。まあ、今のまま続けても勝てるだろうが、兵を無駄死にさせるのもな……」

 そう言った赤毛の男に周囲の兵達が歓喜の声を上げた。

「おお、将軍が」

「将軍が出陣なされるぞ!」



 その様子を見ていたクロが呟いた。

「彼だ。彼がこの戦いの鍵になる」

「え? どういう事ですか」

 近くにいた兵が疑問の声をあげそれに答えるようにクロは語り始める。

「彼が敵軍の総大将、リーダー格だ。いくらザカリク軍が死を恐れず戦いを続けられるんだしても、人間なんだ。無意識のうちに頼り心の支えとするものがなきゃ戦えないよ。そして彼等にとってそれがあの将軍と呼ばれた赤毛の人なんだ」

 今まで命を懸けた死闘を続けていながら殆ど人間らしい感情を出してこなかったザカリク軍兵達が初めて歓喜の色を見せた。それに懸けるしかない。


 あの赤毛の将軍を倒す事ができれば、もしかしたら逆転の目も出てくるかもしれない。


 だけど……


 それでもクロは悩む。彼がこの戦いの鍵を握っているのは確かだ。だが、それだけか? 本当に、それだけでいいのか? 敵の大将を狙い、討ち取り、士気低下を狙う。有効な作戦だろう。しかしそんな事は誰でも考えるごく当たり前のものだ。敵側とて分かっていない筈もない。


 そんな教科書通りの、敵を殲滅しようとする戦いが「新しい道」なのか? そのような戦いでこの恐るべき悪辣で頭の切れる強敵を打ち破れるのだろうか?

……だが、いくら考えても今は他に方法が見つけられない。


 後はもう、あの赤毛の将軍との戦いの中で見つけていく他はないだろう。クロがそう判断し覚悟を決めた頃、敵側にも動きがあった。こちらを取り囲んでいたザカリク兵達が後ろに下がり、道を開けたのだ。そうして空いた道を悠々と赤毛の将軍がこちらに向かって歩いてくる。ある程度距離を詰めると、大声で叫んだ。



「戦う前に、1つ聞いておきたい。……降伏するつもりはないか?」



 赤毛の大男は予想だにしない事を言い出したのだった。



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