113話
サーベルグの作戦が功を奏しザカリク支援軍は抵抗らしい抵抗を一切せずに大人しく投降する事になった。ダイダロスやノルアドスへ向かった軍も同様の結末を迎え合計6000もの軍が捕虜として捕われる事になった。
サーベルグは直ちにこの事実を公表しザカリクとの交渉材料として提示したが案の定ザカリクからは何の返答も無かった。
ザカリクの無反応にますます非難が強まりマガミネシアへの賛同支援、ザカリクへの反対抗議を示す国は増えていくばかりだった。
「すごい……サーベルグの読み通りにどんどん進んでいく」
「今の所はな。だがえてして戦とは予想外の事が起こり思い通りにはなかなかいかないものだ」
油断は禁物、と釘を刺す片目にサーベルグも通信魔術で同意する。
「片目殿の言う通りです。戦は最後まで何が起こるか分からない物。どんな隠し玉を持っているか分かりませんからね」
前回のアルクエド制圧戦における反王政派過激派の残党による奇襲の事を言っているのだろう。全員の頭にあの魔獣合身によって生み出された魔獣の姿が思い浮かぶ。
「そんで、これからはどうすんだ？ 予定通りやんのか？」
「ええ、予定通りザカリクへの進軍を開始します。マガミネシア連合軍にできる限り敵を引き付けて貰いますから、クロ殿達の出番はそれからですね」
サーベルグの言葉を受けてクロは眉根を寄せた。
「歯がゆいね……見てるだけで何も行動に移せないのは」
ぽん、とクロの肩に手が置かれる。
「心配するな。今の所は全くの犠牲者なしで上手く行っているんだ。それが上手く行かなかったとしても充分勝算はあるんだ」
「うん、だけど……それでいいのかなって」
「？」
「ぼくにはまだ『答え』が見つかってないんだよ、ユータお兄さん。そんな状態で戦いを進めてしまっていいのかなって」
『答え』とは以前ユータがクロに訪ねた『違う道』とは何なのか、という質問に対してのものだろう。
「……確かに、クロ殿ではありませんが私も少し引っ掛かっている事はあります」
「引っ掛かってる事って？」
ジュレスが尋ねるがサーベルグは
「秘密です」
と言って答える事はしなかった。壁にへばりついていた蝿がぶーんと再び飛んでいく。
「なんだそりゃ。不安を煽るような事を言っておいて説明なしなんてありかよ」
ジュレスの抗議はもっともだったがサーベルグは何も言わなかった。ただ、
「それは申し訳ありません。勇猛果敢なジュレス殿が不安に陥るなどとは思いもよらなかったもので、と話を混ぜっかえした。
「ふーん、ジュレス怖いんだ？ ユータ君にベッドの中で勇気づけて貰ったら？」
「「だから何故話をそっちの方向に持ってく！！」」
と２人して赤面し話はそこで終わった。ふふ……とそんな２人の様子を微笑ましそうに見守るコーデリックにサーベルグは声には出さずに念話だけで礼を言った。
（助かりました）
（あれで良かったの？ ジュレスの疑問はもっともだと思うけど）
（……確証がある訳ではありません。それこそ勘、としか言えませんが）
コーデリックは無言で続きを促す。
（どうにも上手く行き過ぎているようにも思えるのです。ですが打てる手は打ち尽くしてしまった。後は敵の反応を見なければ何とも……ですね）
（なるほど。それこそ不安を煽る話にしかならないという事だね）
（理解が早くて助かりますよ）
フフッとコーデリックは笑って、
（どんだけ長い付き合いだと思ってるのさ。）
（……全く私はいい友人を持ったものです）
と、決して表立って動く事はないが裏で様々に暗躍しサーベルグやクロ達をサポートする淫魔族の王に心から感謝するのだった。
そうしてザカリクの無反応を受けてマガミネシア連合軍はザカリクへと侵攻を再び開始したのだった。
