表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
神魔戦争編前編
122/229

110話

 ザカリクの東、アクアドールの西、つまり両国のほぼ真ん中に位置する国、カルネデス。北西に位置するダイダロス、南西に位置するノルアドスとは同盟関係にあり、かつての暗黒時代では転送魔法陣を使用し暴れ回った強国である。しかし今はかつての勢いはなく三国とも小国としてザカリクの支配下に置かれている。


 カルネデス国王キーラ=ヴァン=カルネデスは宮殿から覗く眼下の風景を見下ろしながら物思いにふけっていた。ぶーん、と耳障りな音を立てて飛び回る蝿をうっとしそうに手で払いキーラに話しかけたのは后のカルラであった。

 大きい輪っかに小さい輪を3つ通したイヤリングをつけていて、カルラが動くとしゃらん、という音が鳴る。その音でキーラは自分の妻が来た事を知った。


 このイヤリングは同盟を結んだ三国を象徴したもので、一つの輪(国)は小さくとも3つ繋がれば世界という大きな輪も手に収めることが出来るという「三つの輪」の逸話に基づいて作られた装飾品であり、三国の后はそれぞれが皆このイヤリングを身に付けている。



「カルラか……」

「ザカリクに本気で逆らうおつもりですか?」

「お前は先の所信表明、どう思った?」

 質問に質問で返す。カルラはしばし考えて率直な感想を口にした。

「感動を覚えました。同時に、恥ずかしさも」

 目線を送り続きを促すとつらつらと続きを語り始める。

「ザカリクの強引で独善的なやり方に反抗心を覚えていた国は多いでしょう。しかし表立って対立した国は今までありませんでした。ザカリクの力が強すぎるからです。私達は無意識のうちにザカリクと並び称される超大国マガミネシアの決起を待ち望んでおりました」

「うむ……」

「マガミネシアが強行的とも取れる行動に踏み切ったのは救世の天子の存在があるからでしょう。あの演説は心が震えました。魔族信仰を捨てた私ですら、です。魔族信仰者達は歓喜し立ち上がるでしょう」


 でも、と形のいい眉を歪ませカルラは憂慮する。

「私達は一体今まで何をしてきたのでしょうか。暗黒時代が終わり平和な時代を迎えると共に私達は魔族と和解し助け合ってきました。無論マガミネシアとも。それがいつしか台頭してきたザカリクに自由を奪われ魔族信仰を捨てて下僕へと成り下がった」

「………………」

「自らの意思で立ち上がる事もできず、裏切ったマガミネシアに何とかしてもらおうと勝手な期待を寄せる。他力本願とは正にこの事です。一体いつから私達は腑抜けに成り下がってしまったのでしょう。小国なれど誇りだけは誰にも負けないとやってきた筈なのに……」

 そこまで言ってようやくキーラが口を挟んだ。

「ダイダロスとノルアドスも同じ事を言っていた」

 キーラの言葉にカルアは息を飲み込んだ。



「我ら三国、暗黒時代から続く同盟……ミノス(3つのスの意)同盟はこのような事態に立ち上がる為に交わされた物であって保身の為のものではない。だからこそマガミネシアに協力する。……悔しいが今の我等の力では単身で歯向かうだけの力が無い」

 カルラは夫の言葉を受けて体を寄せる。

「ですが、マガミネシアの力となる事はできましょう。転送魔法陣は彼等にとって大きな助けになる筈です」

 妻の言葉を受けて今度はキーラが肩に手を置く。

「私の言いたい事を理解し代弁してくれる伴侶がいるというのは何とも頼もしい事だ」

 そう言って笑顔を向ける。

「陛下……」

 カルラは顔を赤く染め寄り添う。2人は口付けを交わしお互いの心が通じあっている事を確認しあう。

 顔を離し、晴れ晴れとした顔でキーラはカルラに告げた。

「勝とう。この戦。そして真の平和とかつての誇りを取り戻すのだ」

「はい。陛下の御心のままに……」



 夫であるキーラがそうであるように、カルラもまたこの聡明で誇り高き夫と結ばれた事を深く感謝し誇りに思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ