109話
クロの所信表明から1週間が経ち、様々な国が賛同支援を申し出てくれた。勿論反対を表明しザカリク側についた国もあった。ただそれは地理的にザカリクに近く影響を受けやすい国が殆どだった。
「これらの国はザカリクの実質的支配下に置かれ逆らえないのでしょう。ですが、内在的にはザカリクからの開放を望んでいる国も多いはず。こちらが優勢に立てば無理してまでザカリクの側につくとは考えにくいでしょう」
「つまり実質的にはザカリクさえ叩いてしまえば後は烏合の集となるって事だね」
クロ達はアルクエドの城の一角にある会議室に集まり作戦会議をしていた。世界地図が立てかけられた壁には、コーデリックが魔術でつけた印やメモが注釈として書かれていた。
室内には、法王を始め、ロウナルドや聖十字騎士団総隊長イーグルを始めとした法王庁幹部達に大司教、コーデリック、神官長ゼロにクロ達を加えた元半王政派メンバーが集結していた。
「そうです。ですが、問題なのはどうやってザカリクを叩くか、です」
そう言うとサーベルグの意志を受けてコーデリックが地図を指さす。大陸西に位置するザカリクは周囲を広大な砂漠に覆われている。
「このザカリクの周囲を覆う大砂漠が最大のネックとなります」
ザカリクを打つには当然進軍させなければならない。だが灼熱の太陽に足を取られる砂地、加えて水も食料も現地調達は難しい。何百キロにも及ぶ広大な砂漠を横断するだけでも多大な労力を消耗してしまうのだ。
「それに比べて相手は砂漠育ち。環境に適応しているし支配下国から支援も受けれる。まともにぶつかればこちらが不利です」
「まともにぶつかれば、でしょ?」
クロの言葉を受けてサーベルグは満足そうに呟く。
「そう。だったらまともにぶつからなければいいのです」
コーデリックは地図に魔力で新たに印をつける。ザカリクを円状に覆う砂漠。その外周部に位置する三箇所が丸で覆われた。
ぞれぞれザカリクの北東、東、南東につけられたそれはザカリクの支配下国の位置である。
「この三つの国はザカリクに支配されていますが、心の底ではザカリクからの開放を望んでいます。表向きは今回の所信表明に対して反対という立場にいますが秘密裏にマガミネシアへの協力を要請してきました」
「こっそり力を貸すからザカリクを倒してくれって事か」
ジュレスの言葉にサーベルグは頷いた。元々この3国はマガミネシアとの親交も厚く魔族信仰国家であった。が、ザカリクが力をつけ女神信仰国家として台頭するようになるとその支配下に置かれ女神信仰国家へと鞍替えさせられてしまったのである。
「その3国が協力してくれるなら砂漠の入り口で補給を受けられるという事だな。それなら持ち込む兵糧の量も減らせる」
「そうです。ですがそれだけではありません。彼等を味方につける事によって転送魔法陣が使えるのです」
「転送魔法陣……聞いた事があるな。確かまだ大陸が戦乱状態で殆ど統一されてなかった時代に使われた技術だと聞いているが」
400歳を越える片目がその長い生の中で聞き及んだ昔話の一つである。
昔、まだ人と魔族が殆ど交流しておらず大陸の覇権を求めて戦乱に明け暮れる暗黒の時代があったという。やがて1人の英雄が現れ大陸を統一して一つの国家にまとめ上げた。その大帝国もやがては滅亡の道を辿るのだが、転送魔法陣はその時代に開発され使われた技術である。
「そうです。この魔法陣は今もまだ世界各地に点々と散らばり残されています。元々戦乱の世に作られたものですから、侵略のために各国の近くに一つは配置されているのです。それを利用すれば……」
「おいおい、まさかザカリクまでひとっ飛びだっていうのか?」
信じられないと言った様子でユータが呟く。
「そのまさかです。しかも、転送魔法陣はかつての強国であった3国が協力しあって作り上げたもの。3国が合意に至らなければ使えないのです。誰もそんなものを引っ張り出してくるとは思わないし止める手段もない」
「そりゃすげえな。そんなものがあるなら使わない手はねえ」
「そうです。この魔法陣こそが今回の戦争の切り札であり要となるでしょう。ザカリクの首都、キエヌルカへ部隊を送り込み制圧する。そうすれば犠牲も最小限に抑えられます」
「当然その制圧部隊には私達も入れて貰えるんだよな?」
「勿論です。各国からよりすぐった精鋭部隊の中心として動いてもらう事になります」
サーベルグの言葉にクロ達は戦意を高揚させていくのだった。




