表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
ハーレム編
112/229

101話

 ユータは急いで服に着替え逃げるように部屋を後にし廊下を走り抜ける。いや、事実、逃げたのだ。ジュレスの思いから。己の心の奥底にある本当の気持ちから。何故あんな言い方しか出来なかったのか。もっと上手い言い回しがあったのではないか。


 色んな思いがごちゃ混ぜになりながら全てから逃げ出そうと走り続けると、目の前にはジュレスの次に顔を合わせたくない相手がクロと共に風呂から出てきた。目を合わせずにそのまま前を通り過ぎようとしたその時、



「ジュレスとの逢瀬は楽しめたかい? 楽しめなかったみたいだね。その顔だと」

「………………!!」



 気が付くとコーデリックの胸倉を掴み、壁に叩きつけていた。怒りが、どうしようもない思いが口から声となって溢れ出た。

「何故だ!! 何故ジュレスを焚きつけるような事をした!?」

「ゆ、ユータお兄さん!?」

 クロが仰天していたがそんな事は関係ない。今回ばかりは、どうしても問いたださなければ気が済まなかった。

「お前は、少し前からオレとジュレスをくっつけようと散々工作してきたな。だが、ここまで酷いのは初めてだ! なんでこんな事をする!?」

「ふうん……気付いてたんだ。思っていたよりも鈍くはないんだね。それなのに、何故ボクがこんな行動に出たかは分からないんだ。ふーん…………?」

 ユータの目を見据えるコーデリックの目は普段とは比べ物にならない程に鋭く、冷たい。ユータはそれだけで怯んでしまいそうになる。コーデリックはそんなユータの挙動をせせら笑うと、悪魔の笑みを浮かべて言った。



「嘘つき」



 耳元で囁く。ゾッとする程に冷たい声だった。

「キミは本当は気付いてる。でも、認めたくないから逃げてる」

 全てを見透かしたような声だった。

「逃げてなんか……」

「じゃあ、キミはちゃんとジュレスの思いに応えてあげたのかな? 違うよね? じゃなきゃそんな情けない顔はしてない筈だよ」

 まるでユータの答えが決まっているかのように断定するコーデリックにユータは苛付きを隠せない。

「オレは……誰も好きにはならない! 誰とも付き合わない! たとえ、あいつがオレを好きなんだとしてもだ!」



「嘘つき」



 また同じ台詞を吐いた。だが、その鋭さ冷たさは更に増していた。

「いや、卑怯者と言った方がいいのかな? キミは肝心な事を話してないよね?……キミがジュレスの事をどう思っているのか」

 明らかにコーデリックの言葉にユータは怯んだ。だが、それでも言い返す。

「オレは……オレは、いつまでもこの世界に居られないんだ! 帰らなきゃ行けないんだ! 好きになったってどうしようもないじゃないか!」



「そんな事は聞いてない」



 今度は怒気を孕んだ声で言い放つ。明らかにコーデリックは怒っていた。

「ボクが聞きたいのは付き合える付き合えないの結果じゃない。キミが今、ジュレスに対して何を思っているかだ。ジュレスは勇気を出してキミに思いを伝えたんだろう? ならキミもキミの素直な思いを彼に伝えてあげるべきなんじゃないのかい? 自分の気持ちを伝えないままで、付き合えないという結果だけ渡して逃げようとするのは、卑怯者のやる事だ」

「………………」

「ジュレスとは付き合えないと言うならそれでもいい。だけど、自分の気持ちに正面から向き合って、キミを好きなんだと認めたジュレスの勇気を踏みにじるような事は許さない」

「………………」



 しばしユータはその場に立ち尽くしていた。だがやがて意を決したように、元来た道を引き返して行った。その背を見送りながらコーデリックは笑っていった。

「やれやれ、世話の焼ける奴だよ全く」

 そう言ったコーデリックにクロが苦笑を浮かべて、

「嫌われ役も大変だね。本当は大好きで心配で堪らないのを隠さなきゃならない」

 と全てを見透かしたように言うと、コーデリックはため息をついて、

「キミには叶わないよ、クロ」

 そう言って苦々しく笑う。



「………………」

 湯に浸かりながら温まり続けるジュレス。だが心は寒々しいままだった。あの時言われた言葉が、苦しげなユータの顔が、頭から離れようとしない。ジュレスは後悔していた。あんな事を言わなければ、媚薬など飲まなければ。だが、全ては後の祭りである。

 ずっと長い事湯に浸かっていて、いい加減のぼせてきた。立ち上がり、湯から出ようとした時、勢いよく中に飛び込んできたユータと鉢合わせした。


「ジュレス……!」

「ユータ兄……」

 不思議そうに自分を見るジュレスに、ユータは深呼吸をして言った。

「お前に伝えてない事がまだある」

「え?」

「誰も好きになるつもりはないと言ったな。確かに、好きになるつもりはなかった。だけど……もう手遅れだったみたいだ」

 そう言って熱の篭った視線でジュレスを見据える。その真剣な表情に射すくめられ、ジュレスは動けなくなってしまった。



「オレは…………好きになっちまってたみたいだ。お前の事を」

「な…………」



 何を言っていいのかジュレスは分からない。何が起きているのかも分からない。先程自分を振った男が、今度は同じ口で自分を好きだと言ってくる。


「な、に言ってんだよ。付き合えないんだろ? 故郷に帰りたいんだろ?」

「そうだ。故郷に帰りたい。だけどな、思ったんだ」

 一歩近寄りジュレスの手を握る。

「いずれ別れる時が来るかもしれないからって、今付き合っちゃいけないなんて誰が決めたんだ? そもそも、本当に帰れるかどうかもまだ分からないんだ。今全てを決めつけて全部捨てる必要なんてどこにもないんじゃないか?」

「でも、それで結局別れる事になったら……」

「別れる時は来るのかも知れない。でもオレは不確かな未来より今お前とのこの時を大切にしたいんだ」

「………………」

「先がどうなるかなんて分からないじゃないか。ひょっとしたら帰れないのかもしれないし、逆にこの世界と故郷とを自由に行き来出来るかもしれない。まだ、オレとお前が一緒にいられるその未来は存在しているかもしれないんだ。その可能性が少しでも残っているなら、オレはお前と一緒にいたいんだ!」



 ジュレスは返事を返さない。当然か、とユータは思う。あまりに勝手すぎた。自分の勝手な都合で付き合えないと振り、今度はまた自分の勝手な都合で付き合おうという。

(我ながら何て自分勝手なんだか……)

 だけど、逃げない。自分の気持ちに正直に向き合うと決めたのだ。ジュレスがそうしてくれたように。



「……いいのか? 本当に」

 ジュレスがボソリと呟く。

「ああ、勿論だ」

 そう言うとユータはギュッと強くジュレスを抱きしめた。ジュレスもまた、強くユータを抱き締める。

「………………なあ」

「………………なに?」

 抱き締めあったまま言葉を交わす。

「もう我慢しなくてもいいのかな? 正直、どこまでやっていいのかよく分からないんだが」

「なっ//////」

 身も蓋もない言葉に顔が真っ赤になるジュレス。そして実はさっきから大きくなったユータのユータがジュレスの身体に当たっているのだ。

「何言ってんだ馬鹿! 変態! ドスケベ!!」

 そしてジュレスのコークスクリューがユータをノックアウトする。油断していたのか、はたまた打ち所が悪かったのか、ユータはそのまま倒れて気を失った。



 ハアと溜め息をつき、ふと思いたったかのように周りをキョロキョロ見渡して人気が無い事を確認すると、倒れているユータにそっと寄り添い、その唇に自らのそれを重ね合わせるジュレス。





 実はコーデリックの通信魔法によって一部始終を全部見られていたとはつゆとも知らない2人は、見事に恥ずかしいシーンをさらけ出す事になったのだった。

ジュレス、ユータ……(合掌

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ