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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
ハーレム編
111/229

100話

 ジュレスが廊下を歩いていると、人目を気にするようにコソコソと全裸で移動するユータと出くわした。


「「………………」」


 互いに目が点になり、気まずい沈黙があたりを包んだ。

「何やってんだアンタ……」

「いや、朝風呂入ろうとしたらコーデリックも付いてきて、いくら言っても諦めないから仕方なく一緒に入る事にして、そんで入ろうとした瞬間にクロが来て、服を脱ぎ始めたから慌てて声をかけて、そしたら何かクロの様子がおかしくて声をかけようとしたらコーデリックに回し蹴りで外に追い出されて鍵かけられてるから中に入れなくて仕方なく部屋に備え付けの風呂に入ろうかと「長えよ!! もっと簡潔に言え!!」


「…………風呂を追い出されたから部屋に戻る所だ」

「ふーん」

 ジロジロと訝しげな視線を送られるユータ。間違った事は言っていないはずだが、何故だか全身から冷汗がダラダラと流れる。ここでの対応を間違ったら誰にも声をかけて貰えなくなるような気がしてならなかった。

「じゃあ、部屋に戻って備え付けの方の風呂に入り直すんだな?」

「ああ、そうだが……」

 ふと考える素振りを見せた後とんでもない事を言った。

「じゃあ俺も入るわ」



「………………はい?」



 数分後、部屋に戻ったユータは備え付けの風呂に入り直していた。ジュレスと一緒に。

(一体何が起こっているんだ? 訳が分からない……)

 ジュレスが一緒に風呂に入ると言う。この狭い、基本一人用の風呂にである。2人でも入れなくもないが、狭い為にほとんど隙間はないし、浴槽には身体を密着させないと二人同時には入れない。

 断ろうとすると不機嫌になり、

「コーデリックとは一緒に入れるくせに俺とじゃ一緒に入れねえってのか? ああん?」

 などと怒りだししまいには、

「断ったらここで大声を出して社会的に抹殺する」とまで言い出した。

 それは非常に困る。そんな事をされたらユータはどこにも居場所がなくなりパーティー内のカースト最下層へと転落してしまう。今でも十分下層に置かれている気もするが。


 とにかく逆らえないユータは仕方無くジュレスと風呂に入る事になった。いや、別にそれが嫌な訳ではない。むしろ嬉しい。だからこそ、一緒に入るような事はしたくなかった。それは別にジュレスに限った事ではなく、コーデリックやクロが相手でも同じ事である。コーデリックに関しては半分諦めが混じっているが。


 ただ、コーデリックに関してはどうにかなるだろうという思いもあった。本気で迷惑に思ったならコーデリックは何も言わずとも自ら去ってくれるだろうという確信がどこかにあった。今までなし崩し的に関係を持ってしまったのは、コーデリックに翻弄されたというのも勿論あるが、事態がそれほど差し迫ってはいなかったからだ。


(……まだ、しばらく時間はかかるだろう。それにコーデリックが本当に本気だとも思えない。だから、むしろ1番やっかいなのはジュレスの方だ。コーデリックのからかいを真に受けて本気になられてしまったら、オレは……)



「困った、って顔してやがんな」

 相変わらず不機嫌そうな声が響く。

「いや、そんな事は……」

「コーデリックやクロの裸には興奮する癖に、俺のは何とも思わないってか」

 その台詞にユータは耳を疑った。

(何を言っているんだ。それではまるで嫉妬していると言っているようなものではないか。だが、刺激するのはまずい。今のジュレスは明らかに普段とは違う。何とか穏便に済ませてくぐり抜けなければ……)

 そんな事を考えていると背中に温かい感触がした。ジュレスが密着して身体を寄せてきたのだ。


「~~~~~~っ!」


 声を出しそうになるのを何とか堪える。胸が、心臓が跳ね上がった。

「へえ、ちゃんと反応してくれんだな。俺なんかの身体でも」

 頬を染め嬉しそうにするジュレスに、ユータは激しく狼狽する。反応して、ユータの男の部分が立ち上がり始めてきてしまっている。それを見てもジュレスは嫌がるどころかむしろ喜んでいるように見えた。

「ジュレス……! お前、一体どうしたんだ? 今日のお前、おかしいぞ」

「コーデリックがさ……」

「コーデリックが、何だ?」

「挑発してくるから頭にきて、言ってやったんだ。『俺はユータ兄の事なんか好きじゃない』って」

 瞬間、ユータは背筋が凍えるのを感じた。その反応に自分自身で驚く。

(何をショックを受けている? これはむしろ俺が望んでいた事じゃないか)

「……それで?」

 心中の動揺を外に出さぬように落ち着いて続きを促した。



「コーデリックがいきなりキスをしてきて。唾液を口に送り込んできたんだ。『淫魔の唾液は媚薬の効果があるんだ。その中でもボクが今出したのは好きな人を見ると興奮して仕方なくなる媚薬だ』って。好きじゃないっていうなら証明してみせろ。証明できたらもうからかったりしないって。だから……」

 ユータはずっと恐れてきた事が現実のものになりつつある事に恐れおののいた。



「大丈夫だと思ったんだ。何とも思ってないから平気だって。だけど……だけど、俺……」

「やめろ」

 冷たい声がジュレスの言葉を、その思いを遮断する。



「それ以上言うな……! オレは、誰も好きになるつもりはないし、付き合うつもりもない」

 絞り出すように苦しげに言い放つ。その言葉を理解した時、ジュレスの顔が歪んだ。

「どうして……」

「オレは……オレはこの世界の人間じゃない。いずれ帰らなければならないんだ……!! 誰かを好きになっても、一緒にはいられない……! この世界に未練を持つ訳にはいかないんだ……!!」

「………………」

 ジュレスは、時が止まってしまったかのように硬直し、何の反応も返さなかった。それを見ているのが耐えられなくて、ユータは逃げ出した。

「……オレはもう出る」

 そういって浴室の外へ出る。追いかけてくる足音がしなかった事に、ユータは心底安堵した。



 1人浴室に取り残されたジュレスは自分の身体を両手で包み込むように丸まると小さな声で呟いた。

「そっか……そうだよな。元いた場所に帰りたいもんな……」

 それは、故郷を奪われずっと辛い思いをしてきたジュレスには痛いほど分かった。何も言い返す事が出来なかった。


 ぽた……と水音がする。どこかから水が漏れたかな、と辺りをしばらく見渡したあと、その水滴が自らの瞳から流れ出ている事に気が付いた。

「何だ……そっかあ」

 場違いに明るい声を出してアハハ、と笑う。




「俺……ユータ兄の事本気で好きだったんだ」




ーーかくして、ジュレスの恋はその気持ちに気付いたと同時に終焉を迎えた。


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