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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
ハーレム編
110/229

99話

 暗闇の中でクロは気が付くと一人立ち尽くしていた。キョロキョロと辺りを見渡すと、仲間達の姿がそこにあった。

「皆……!」

 声をかけようとするとちょうどこちらを振り向いた彼等と目があった。しかし、彼等のクロを見る目は冷たい。

「ついてくるな、クロ」

 クロは自分の耳を疑った。片目がそんな事を言うなんて信じられなかった。

「お前に万が一の事があったら困る。後ろで待機していろ」

かけられた言葉の内容は優しかった。しかし……

「そうだぞ、クロ。お前が手を汚す必要はない。人殺しは俺等だけで充分だからな」

 ユータが言った言葉はクロには皮肉としか受け取れなかった。

「でも……!」

 尚も言い募ろうとすると、今度はジュレスが言う。

「心配するな。何があっても傍にいるって言っただろ?」

「そうそう、ボク等がクロを守るから、クロは何も危険な事をする必要はないんだ。救世の天子だからね」

 コーデリックがそう言う。


「そう、クロは救世の天子だから」

「俺達の希望だから」

「クロさえ生きていてくれれば俺達は何度でもやり直せる」

「だからボク達がクロを守るよ」

 そう言って仲間達はクロを中心に円陣を組む。クロをあらゆる外敵から守る為に。彼等の言い分は何も間違ってはいない。皆クロの為に命をかけて戦ってくれている。


 だが……誰もクロの方を見てはいない。


 片目とジュレスが、ユータとコーデリックが、仲睦まじく談笑している。ユータと、ジュレスと、コーデリックの三角関係に外から片目が茶々を入れる。否定したり、恥ずかしがったり、満更でもなさそうだったり。

 それは彼等の繋がりが強く尊い物だという事を示している。……だが、そこにクロは含まれていない。


「皆……」


 思わず仲間達の方へ駆け寄ろうとすると後ろから肩を掴まれた。振り替えると、サーベルグが立っていた。首を横に降り、

「クロ殿。貴方はトクベツな存在なのです。皆の希望の象徴、キュウセイノテンシなのです。彼等とは違う」

 サーベルグの手を振り払い前に進もうとすると今度は何と足を掴まれ、大司教が地面から這い出てきた。

「……!」

「キュウセイノテンシドノ、行ってはイケナイ。貴方はケッシテキズツイテハナラナイ。ケガサレテハナラナイ」

 まるでゾンビのように身体が崩れていき、喋りも片言になっていく。



「そうだよ、クロ。君は僕等を犠牲にして生き延びてきたんだから」

「お前はああ、もう勝手に死ねねええんだよ」

「グルルル……………」


 ルクス、山賊の頭、銀狼族。

 かつてクロと関わりその為に死んでいった者達が、クロを取り囲んでいた。無数の魔族信仰者達がクロに追い縋り、埋め尽くしていく。彼等に押し潰されながらクロは彼等の呪詛のごとき言葉を延々と聞かされ続けた。

「お前はキュウセイシュなんだ。ワタシタチノタメニイキツヅケナケレバナラナインダ」



「……………………!!!!」



 ガバッ、と跳ね起きた。上等なシーツに柔らかく温かい毛布。見渡すと上品に纏められた部屋の調度品が目に入ってくる。クロはやっと、ここが地下大神殿の一室だという事に気がついた。

 全身が冷たい汗でびっしょりと濡れていた。


「大丈夫か、クロ? 随分うなされていたが」

 いきなりかけられた声にクロはギョッとして周りを見渡す。だが片目の姿が見当たらない。

 暫くするとなんとベッドの下から片目が這い出てきた。

「か、片目、何でそんな所に……!」

「無論、クロの体温を近くで感じる為だ」

 普段のクロならここで呆れつつも一声かけるだけで終わっただろう。


「だったら、ベッドに入ってくれば良かったのに」

「いや、それは……」

 クロからそんな返事が返ってくるとは思わなかった片目は、上手く返事を返す事が出来なかった。

「……お風呂入ってくる」

 クロは片目を置いて部屋を出た。



 まだ早朝なのでこの時間は誰も入っていない筈。部屋に備え付けの風呂に入っても良かったのだが、今は片目の近くに居たくなかった。

 共同浴場の入口まで行くと、人の声が聞こえた。

「なんで風呂にまでついてくるんだ!」

「たまたまボクも同じタイミングで入りたかっただけです~」

 ぶつぶつと文句を言ってはいるが結局追い出そうとはしなかったらしい。

 クロが中に入るとユータとコーデリックが服を脱ぎ終わり風呂場に入ろうとする途中だった。

「く、クロか……!」

「おはよークロ♪ キミも朝風呂かい?」

 慌てて前を隠すユータといつも通りのほほんと声をかけてくるコーデリック。いつもと変わらないコーデリックの態度がクロには有り難かった。


「うん」

 そう言ってクロは服を脱ぎ出す。クロの透き通った白い肌が目に飛び込んできて、ユータは慌て出した。

「お、おい、クロ……」

「何?」

「ここで全裸になるつもりか?」

「? 服を着たまま風呂に入れと?」

「あ、いや……」

 クロの言い分は至極当然のもので何も文句を言われる筋合いはない。たが、ユータにとってはたまったものではない。

 ただでさえ、コーデリックによって新しい性癖に目覚めさせられてしまったというのに、この上クロにまで手を出すような事があったら人として完全に終わってしまう。


 困っているユータにコーデリックは助け船を出す。

「ユータ君はねえ、クロの身体を見て興奮しちゃうのが怖いんだよ♪」

「おい!」

 ストレートすぎて全くフォローになっていない。

「……別にいいよ? 興奮しても」

「「えっ」」

 ユータとコーデリックの声がハモる。コーデリックにとっても驚きの発言だったからだ。だが、すぐに悪戯っぽく微笑んでユータに挑発的な声を投げ掛ける。

「だってさ。どうする? ユータ君。クロにも手を出して酒池肉林のハーレムパラダイスに突入しちゃう?」

「ば、バカ野郎! そんな事出来るか!」

 ユータは即座に否定する。



「やっぱり、ぼくとは風呂に入れないんだね。コーデリックとは入れるのに」

 クロの言葉を聞いた瞬間コーデリックの顔色が変わる。

「クロ……?」

 クロの様子が少しおかしい事に気付いたユータだったが、次の瞬間コーデリックの回し蹴りによって外へと吹っ飛ばされていった。全裸のままで。

「ユータ君、邪魔。あっちいってて」

 そう言い放った後に中から鍵をかけた。

 突然のコーデリックの行動にぽかんとした表情を浮かべるクロ。


 そんなクロにコーデリックはニッコリと笑って

「じゃあ、一緒にお風呂入ろうか、クロ」

 と声をかけた。

「…………うん」


 浴場に入り身体を洗い、湯で流す。一通り身体を洗い終えると二人は浴場へ浸かった。コーデリックは何も言わない。何も聞かない。

 ただ黙って傍に居てくれる。それが、何より有り難かった。

「…………コーデリック」

「なーに?」

「ありがとう」

「どういたしまして」



 また、居心地のいい無言の時間が過ぎる。

「……クロ」

「…………なに?」

「…………キミがどうしても寂しいっていうなら、繋がりが欲しいっていうなら。ボクはキミを抱ける。あるいは、抱かれてあげるよ。…………淫魔の王だからね」

「………………」

 クロは黙ってコーデリックを見つめる。本気の目だった。

「………………じゃあ、キスして」

 しばし逡巡した後にクロはそう言った。

 次の瞬間、コーデリックは躊躇う事なくクロの唇に自らのそれを重ねた。

「ん………………」

 クロの口から吐息が漏れる。たっぷり10秒程も口付けを交わしてからコーデリックは口を離す。唾液の糸がいやらしく二人の唇を繋ぐ。コーデリックはそれを舌で舐めとると妖艶に笑った。



「……で、どうする? 続き、する?」

 コーデリックが訪ねるとクロは苦笑して、

「ううん、もういいや。やっぱり何か違う気がするから」

「そう」

 そう言うと何事もなかったかのように元の位置に戻り湯に浸かった。



「…………コーデリック」

「なーに?」

「ありがとう」

「どういたしまして」



 こうして何気なく二人の会話は終わった。

ユータ君……(合掌

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