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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
エスクエス奪還編
107/229

97話

 無事に反王政派過激派の残党を撃破した片目達は再び進軍を開始しアルクエドへと向かい始めた。最も、戦力的被害は軽微だったとはいえ、その戦闘が各々の心に与えた影響は大きかった。


 クロとの会話以降黙ったままで一言も発しないユータ。ジュレスはそんなユータを心配そうに見つめていた。意を決して声をかけようとするが、肩にかけられた片目の手によってそれは遮られた。

 目が合うと片目はゆっくりと顔を横に振った。

「放っておけ。今はユータもそっとしておいて欲しいだろう」

 そう言われてしまうと何もできず、気持ちも宙ぶらりんになってしまう。


(俺は、ユータ兄に何て声をかけるつもりだったんだ)


 ジュレスとて幼い頃から戦場の空気に触れ様々な悲劇をこの目にしてきた。人を殺した事も1度や2度の話ではなくもう戦争とはそういうものなんだと割り切ってしまっている。

 だがそう言った『経験者』の言葉がユータにとってどれだけ意味のある物なのか疑問である。彼はまだ理想を捨ててはおらず、現実に順応してしまったジュレスとは違うのだ。


 そう考えると、何故だか胸が傷んだ。これは仲間に対する思いなのか、それとも……

 ジュレスには区別がつかなかった。



 2日後、無事にマガミネシア軍は王都アルクエドへと到着し街を占拠した。市民達は特に反抗したり抵抗する事もなく大人しくそれを受け入れていた。

「意外だな。もっと抵抗なりなんなりしてくるものだと思ってたが」

 ジュレスがそう感想を述べるとコーデリックが説明し始める。

「今の国民達にそこまでできる心の余裕はないと思うよ。魔法庁と宮廷占星術師のトップが長い間ザカリクの手先として王を操っていた事が判明したばかりだから」

「ふん、ざまあねえな。魔族信仰者の犠牲の上に自分達の繁栄を享受していた報いだクソッタレ」

 ジュレスにとっては故郷を奪い取られ長年苦しい思いを自分達にさせてきた女神信仰者達の現状に胸のすく思いであった。


 アルクエドに着くと懐かしい面々がクロ達を出迎えてくれた。大司教にアンジュ、元女神信仰者のキンドロまでいた。

「救世の天子殿。皆さん、お久しぶりですね」

 大司教が先陣をきって再会の挨拶を交わす。

「久しぶりだなぁお嬢ちゃん。俺の事覚えてるか? しばらく見ねえうちにますます綺麗になったなあ、オイ」

「久しぶりね、皆。コーデリック様も」

 それぞれが思い思いの言葉を交わし再会を喜びあった。

「まあ立ち話も何ですし、久しぶりにの反王政派のアジトで再会を祝すパーティーでもどうですか。実はもう準備してあるのです」

「マジか! やったぜ!」

「パーティーかあ。楽しみだなあ」

 クロとジュレスは我慢出来ないのか揃って地下大神殿へと走っていってしまった。


「パーティーか。肉はあるな? 今日の私は食って食って食いまくるぞ」

「ええ、もちろん用意してありますよ」

 大司教がそう言うと満足したのかクロ達の後を追っていった。

「やあ、ジルバルド。元気にしてたかい?」

「ええ。貴方も元気のようで安心しました」

 大司教とコーデリックの間には勝手知ったる旧知の仲、という空気が流れていた。

「そう。良かった。ところでどうだい? 再会を祝して久しぶりに……♪」

 そう言って大司教の肩にしだれかかり甘えるように体重を乗せる。

「おやおや。最近は随分落ち着いたものだと思っていましたが……少し若返りましたか?」

「そうかもね。そこの彼にたっぷりと相手をして貰ったから」

 そう言ってコーデリックはユータへと視線を向けた。


 なんて紹介の仕方をしやがるんだ……と思いつつ居心地悪そうに佇むユータに大司教が声をかける。

「初めまして、女神の救い手殿。貴方も一緒にどうですか? パーティーへ」

 にこやかに告げる大司教にユータは困惑しながら

「いいのか? 俺は……」

 お前達の怨敵と言ってもいい存在、女神の救い手だった人間だぞ……その言葉は口に出す事は無かったが表情がそう語っていた。

「貴方は何もやっていないじゃないですか。魔族信仰者はそこまで懐が狭い集団ではありませんよ。肩書きがどうであれ貴方は私の契約者やクロ殿……救世の天子を命を懸けて守って下さった。感謝していますよ」

「そうそう。何だったらボクの食事も兼ねてベッドの上で3人仲良く親睦会を「「結構だ(です)」」

 2人の声が同時に響いた。

「何だよ~ジルバルド。君だって若い頃は散々……」

「それは貴方が教団の若い者を散々食い漁ったからでしょう」

 拗ねるようにいうコーデリックに大司教はあくまで淡々と返す。

「ちえ~ジルバルドは何を言っても動じないから面白くないや」

「貴方に散々鍛えられましたからね」



 昔を懐かしむように目を細めて言う大司教に、ああ、この人も若い頃は苦労させられたんだなと親近感が湧いてくるユータだった。

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