95話
「さて、ここからだ。まずは組み合わせを変える」
ジュレスは立ち上がると仲間に指示を飛ばす。
「片目は合成魔獣と、ユータ兄さんは漆黒の鎧の魔獣とやりあってくれ」
「ふむ」
「相手を交換という事か」
「そうだ。合成魔獣の攻撃力はとてつもなく高い。ユータ兄の防御を突き破るくらいだからな。だから、ただ防御力が高いだけじゃなくて相手の攻撃をかわす機動力も必要なんだ」
ユータの戦闘力は防御力攻撃力共に片目に決してひけを取らない。だが、機動力だけは片目に大きく劣る。片目の柔軟かつ強靭な脚による驚異的なスピードは簡単に真似できる物ではないのだ。
「そして漆黒の鎧の魔獣は逆に防御力がとてつもなく高い。単純な防御力だけじゃなくて相手の攻撃をいなす高い戦闘技術があるからだ。ユータ兄の電撃なら触れあうだけでダメージを与えられるから相性がいいんだ。金属の鎧を着ている以上電気も通りやすいだろうしな」
片目の攻撃力はとてつもなく高いが軌道が単純で読みやすい。攻撃をかわしたりいなしたりする高い戦闘技術を持つ相手には相性が悪いのだ。
「ふむ、成程な。それで、他には」
「それだけだ」
「それだけだって、おい……」
ジュレスの言葉に不安を覚える二人だが、ジュレスは自信満々に言い切った。
「それだけで十分勝てるさ。やってみれば分かる」
「作戦は決まったの?」
周囲の魔獣達をまとめて引き受けていたコーデリックが待ちかねたように声をかけた。
「ああ。コーデリックは悪いがこのまましばらく残りの魔獣達を引き受けてくれ」
「しばらくっていつまで? ボクの魔力だっていつまでも続く訳じゃないんだよ? 四聖獣はとにかく燃費が悪いんだ」
とぼやくように言った。元々聖属性である四聖獣を魔に属するコーデリックが扱うのは無理があるのだ。元の状態よりも力は落ちるし消費する魔力も桁違いに多い。
コーデリックが今まで多数の魔獣を相手に出来ていたのは四聖獣の圧倒的な火力でごり押していたからであり、その力が使えなくなればいかなパワーアップしたコーデリックといえども旗色が悪い。
「心配すんな。すぐに二人が厄介な奴を片付けて援護についてくれるさ」
釈然としないメンバーだったが、とにかくジュレスに言われた通りの布陣で再び戦闘に向かっていった。
片目は合成魔獣と、ユータは漆黒の鎧の魔獣と、そしてコーデリックが残りの魔獣全てを。
「やれやれ、損な役回りだね~今回は。さて、行くよ! 白虎!!」
そうして再び白虎を呼び出すと背の上に跨がり、ジュレスに手を伸ばす。
「?」
「乗って。キミを庇いながら戦うよりこっちの方が安全で手っ取り早い」
そりゃ有り難いとばかりにジュレスも白虎の背に乗り込む。因みに四聖獣はどれも大きさが10メートル以上はあり、二人を乗せて走るなど余裕だった。
襲いかかる魔獣の間をすり抜けながら飛び回る白虎。その上からジュレスが隙を見て手榴弾を投げ込むという戦法を取る事にした。
白虎が走り回るだけなのでコーデリックは魔力を温存できるしジュレスは安全な場所から攻撃に専念できる一石二鳥の手だった。
「さて、今度は私が相手になるぞ、ツギハギ野郎」
「待たせたな。今度はオレが相手になろう」
片目とユータがそれぞれ自分の相手に向き合い声をかけた。
「ギギイイイィィィ……」
「グオオオオ……!!」
相手も鳴き声を鳴らし戦闘準備は整ったようだ。そうして二組の怪物同士の戦いが始まった。
変化はすぐに分かりやすい形で訪れる事になった。合成魔獣と漆黒の鎧の魔獣は息を切らせ、全身を激しく傷付けていた。
先程までの劣勢が嘘のように形勢がひっくり返ったのだ。
合成魔獣が片目へと突進しその強力な爪で薙ぎ払おうと前足を振るう。が、攻撃が当たるどころか相手の姿すらそこにはない。相手の姿を探して首を振る合成魔獣に真後ろから凄まじい突進を受け前に吹っ飛ぶ。反撃をしようと振り向いた時には今度は横から爪の一撃を喰らう。
「ギギイイイィィィ……!」
頬に爪痕が刻まれ苦悶の声を上げる。いかに力があろうと速さは大した事かない合成魔獣は片目の攻撃に全く追い付けておらず、どんどん手傷が増えていく。
「合成魔獣の弱点、それはいくつもの身体いくつもの精神を繋ぎ合わせたせいで動きが雑で鈍いって事だ。力はあってもコントロールが出来てねえって事だな」
片目の攻撃がどんどん速さと威力を増していき、ツギハギされた身体の部位がどんどん分断されていき、最後に悲鳴を上げる間もなく頭ごと鋭い牙でむしり取られ、地面に転がった。
「ギャアアアア……!!」
邂逅の度に流れる悲鳴が漆黒の鎧の魔獣の劣勢を暗に示していた。いくら攻撃をいなそうとしても触れられただけで電撃が流されるのではどうしようもない。否、ユータとの直接の接触を避けても空気中を伝い電撃が流されてくるのだ。
しかもこちらから攻撃する事は電撃をわざわざ自分から喰らいにいくに等しく、防戦一方だった。
そして金属の鎧は電撃をよく通し、鎧に宿る魂は『魔』そのものといってもいい存在であり聖属性の魔力によってどんどん削られていく。電撃が流される度にどんどん力が無くなっていき、動きも鈍くなっていく。そしてやがてゼンマイの切れた人形のように動かなくなった。
「「よしっ!」」
同時に二人の声が上がり、同時に二匹は散った。
「ようし、一番厄介な奴等は倒した。後は掃討戦だ!」
こうして、四聖獣を操るコーデリックに片目とユータが加わった3人は怖いもの知らずでいかに強力な魔獣といえども統率も取れていないバラバラなままでは烏合の集でしかなかった。
ジュレスは戦局が決定的に有利になったのを見ると一足先に離脱しクロの喪とへ戻って治療を承けていた。完全勝利の報告をうけるかのはそれから間もなくであった。
こうして、反王政派過激派の残党は一人残らずこの世から消えたのだった。




