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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
エスクエス奪還編
104/229

94話

人間と魔族、二つの種族が身に付けた二つの髑髏の指輪が妖しく輝き、膨大な魔力を放ち始める。


「「「魔獣合身!!」」」


人間と魔族、それぞれの身体に刻まれた刻印が重なり合い、一つになる。二つの身体、二つの心は一つになる。但し、無理矢理に合わせられた事によって理性は崩壊し、暴れ狂う魔獣と化す。


強大化した魔獣達があちこちから誕生し、叫び声が響き渡る。但し敵味方の区別すらついておらず、同士討ちをし始めている。目に付いた者に誰これ構わず襲いかかる危険極まりない存在と化していた。

魔獣化した敵兵が数十体。その1匹1匹が少なくとも上級魔族以上の魔力を放っている。流石の片目達も驚きと焦りを隠せない。


「人間と魔族が合体だと……!」

「力も倍増してるようだな。代わりに理性が崩壊しているようだが」


「グオオオオッ!!」

会話も束の間、瞬時に2人の間に身体を割り込ませてきた全身漆黒の鎧の魔獣が力の限り斧を古い回す。金属と金属が衝突する甲高い音が響き片目が跳ね飛ばされた。

「グッ やるな!」

空中で姿勢を制御し着地と共にひと飛びで襲撃者の元へ舞い戻る。片目の全力の爪の一閃を小手で受け止め、両足を引き摺りながらも耐える。返す腕で斧を振るい、再び斬撃を放とうとするが瞬時に片目は敵を足場として離脱する。反動で体制を崩した漆黒の鎧の魔獣に電撃が落とされる。

「ウガアアアッ!!」

苦悶の声を上げ後ずさる敵に追撃を放とうとするが横から飛び出してきた別の魔獣に吹き飛ばされて地面を転がった。


「ギイイイイイオオオオオ……」

ガラスを爪で引っ掻いたような不協和音の鳴き声を轟かせるのは獅子の身体に蛇の尻尾、蝙蝠の羽根を持つ魔獣だった。この作戦の為に魔道技術によって産み出された合成魔獣キメラだった。攻撃を受けたユータの身体からは血が滲んでいた。

ユータの防御魔法を突き破ってダメージを与えたのだ。恐ろしいまでの攻撃力だった。

当然である。3体の魔族と3人に人間が合身した特性の魔獣だったからだ。今回の作戦の切り札だった。

自身の腕から流れる血を見てニヤリと笑うユータ。

「やるじゃねえか。やっぱ戦はこうじゃねえとな」

実力の劣る相手に殺さないように気を付けながら戦うよりも同等以上の敵と命を掛けて戦う方がずっと気が楽だった。殺さなければ殺られる、という状況は皮肉にもユータの力を最大限に引き出した。

「うおらあああっ!!」

先程の攻撃で散らされてしまった電撃を再び纏い直し合成魔獣キメラに突っ込んでいく。


激闘を始めるユータと合成魔獣キメラを他所に、こちらでも死闘が繰り広げられていた。

「グオオオオッ!!」

「おおおおおっ!!」

互いに叫び声を上げやり合うのは片目と漆黒の鎧だった。目にも止まらぬ速さで離脱と攻撃を繰り返す片目と、その攻撃を絶妙に受け流しつつ隙を見て反撃に転じる漆黒の鎧。片目の防御力の高さ故に大したダメージには至っていないが、少しずつ片目が押されつつあった。膨大な魔力を纏った鎧の防御力に攻撃をいなす凄腕の技量が成せる技だった。



「あいつら何やってんだ。戦う相手を間違えやがって!」

魔獣の攻撃の隙間を縫って味方の状況を確認するジュレス。声をかけたいが戦闘に没頭している2人には届かないだろうし、大声を上げれば自分が大勢の魔獣の的になってしまう。ジュレスだけでは魔獣1匹とすらまともに相手に出来ないのだ。相手は衰えを知らぬ数と勢いだ。この場を離脱できれば同士打ちで自滅してくれるのかもしれないが既に相手のターゲットにされている以上は難しい事だった。


助言さえ出来れば……作戦さえ伝えられれば……!

焦りがジュレスの判断を鈍らせる。気が付くと目の前にはゴーレムの魔獣が立っていた。普段なら絶対に喰らわないであろう鈍重な攻撃をまともに受けて吹っ飛ぶ。

「がっ……!!」

口から血を吐き転がり回る。加護の力で増加された防御力がなければ即死だっただろう。体制を立て直そうと力を入れるが、激痛が走るばかりで上手く動けない。ゆっくりとゴーレムが腕を振りかぶる。


死を覚悟したその時、ジュレスの目の前に巨大な甲羅でできた盾が現れ攻撃を跳ね返す。跳ね返した攻撃に更に聖なる魔力が上乗せされゴーレムの身体に亀裂が入る。

直後真上から急降下したコーデリックの蹴りがゴーレムの身体を二つに割った。

「ジュレス!大丈夫!?」

「コーデリック!助かったぜ……ゴホッ」

礼を告げながらも咳き込むジュレスを見て顔を曇らせるコーデリック。

「残念だけどボクには回復は出来ない。クロの所まで離脱するかユータ君に治してもらうしかないね」

そう言うとコーデリックは甲羅を引っ込めると、

「青龍!!」

嵐と風を司る四聖獣、青龍を召喚する。

青龍がひと鳴きするとどこからともなく雨雲が集まり始め地面が影で暗くなる。異変に気付いた片目とユータが上を見ると青龍に跨ったコーデリックが右手を振り下ろす。

爆音と雷鳴が轟き、凄まじい威力の雷が2人が相対していた魔獣を周囲にいた魔獣ごと薙ぎ払った。

かつてユータが使った聖雷鳴流動剣セイントサンダーブレードを遥かに上回る威力で弱い魔獣はそれだけで黒炭化した。合成魔獣キメラと漆黒の鎧の魔獣は流石にそれで死ぬ事は無かったが大きなダメージを受け、たたらを踏む。片目とユータは攻撃の一瞬前にその場を離れていた為巻き添えになる事は無かった。



「片目、ユータ君!ジュレスが負傷した!一旦戻ってきて」

「分かった」

「了解!」

片目とユータがそれぞれ返事をしてコーデリックの元へ集まる。コーデリックはユータにジュレスの治療を任せると片目と共に治療の時間稼ぎの為に2人で大暴れする。

「白虎!!」

青龍を引っ込めると大地を司る四聖獣白虎を呼び出しその背に跨る。

「どっちが速いか競争しよっか?」

「フン、望む所だ」

コーデリックの挑発に片目が乗り、二人して走り出す。どちらも尋常じゃないスピードでジュレスに群がろうとする魔獣たちを跳ね飛ばしていく。


「よし、これで大体は治ったぞ」

そう言って微笑むユータに若干顔を赤らめて逸らしつつジュレスは礼を言った。

「あくまで応急処置だからな。後でクロにきちんと治してもらえ」

ユータが手を離すとジュレスは立ち上がり、

「ようし、こっから反撃開始だぜ」


瞳に静かに闘志を漲らせて呟くのだった。

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