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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
エスクエス奪還編
103/229

93話

 目の前に立つ3000の軍勢に全く怯む事なくコーデリックは炎鳥の背に再び乗り空に飛び立った。遥か上空から大軍を見下ろす。有翼の魔族達が撃墜しようと飛び立つが、コーデリックが声をかけると炎鳥が翼を羽ばたかせ、炎が巻き起こる。炎鳥の巻き起こした炎に焼かれ魔族達は次々と撃墜されていく。


 ひと通り向かってくる敵を撃墜し終わると今度は攻撃に転じる。ジェット機のように衝撃波と炎を撒き散らしながら炎鳥が敵陣の真っ只中を突っ切っていく。炎鳥がまたたく度に悲鳴と炎が巻き起こり、大混乱に陥った敵陣は統制を失い散り散りになっていく。


「よし、そろそろかな……」

 機を伺うとコーデリックは高度を下げ敵から自分の全身像が見える距離まで接近する。そしてしなだれてポーズを作ると妖しげに微笑んだ。



「我が妖艶なる魔力 妖艶なる魅力にて 仇なす敵を地獄へと誘わん 魅了地獄招待ヘルズチャーム



 コーデリックの全身から妖しい魔力が解き放たれその魔力に当てられた者は正気を失い同士打ちを始めた。味方同士で争いあい血を流す光景は正しく地獄そのものだった。


「うわあ、コーデリックの奴やりたい放題だな」

 若干引きつつジュレスが呟いた。

「だが攻め込むのにはチャンスだな。先に行かせてもらうぞ」

 そう言うと瞬時に片目の姿が消え次の瞬間には魔獣の姿となって敵陣で暴れ回る片目の姿があった。

「じゃあオレも行かせてもらうかな」

 そう言うとユータは全身に雷を纏い片目に続いて敵陣へと突入していった。サーベルグとの2度目の模擬戦で使った聖雷鳴流動剣セイントサンダーブレードの上級魔法版、それを全身に纏わせたヴァージョンである。修行の成果により同じ技魔法でも状況に応じて最適な状態に自在に操れるようになったのだった。


 ユータを迎撃しようと向かっていった者は触れた瞬間電撃に身体を焼かれ痺れさせられて戦闘不能に陥っていく。遠距離攻撃で攻めた者もいたが動き回るユータにはなかなか攻撃が当たらず、味方に誤射して同士討ちになっていたりした。

 時たま攻撃が命中するのだが、そもそもユータの防御力は片目とやりあえるレベルで高い為ほぼ効果がない。流石は女神の救い手と言える強さだった。


「とんでもねえな……」

 1人遅れて取り残されているジュレスに目をつけた敵兵が向かってくる。ジュレスはまともに彼等と相対する事はせず、片目との契約によって得た高い俊敏性を持ってスルスルと敵の攻撃を躱していく。

 そして頃合を見測ると懐から手榴弾を取り出し放り投げる。爆発が次々と起こり敵兵が吹き飛ばされていく。


「クソ、何て奴等だ!」

「たった4人に……!」


 情勢は明らかに片目達に傾いている。陣の後方に待機する反王制派過激派軍大将のエルギウス=フォンデルフはその情勢を静かにじっと見据えている。全身を漆黒の鎧に包んだ寡黙な男だった。フルフェイスの兜から覗く瞳には鋭く重い怨嗟と怨念が込められていた。


「やはりまともに勝負しては話にならんな」

「例の策を投入するのか?」

 どこからともなく声が響く。男の着ている漆黒の鎧から声は出ていた。それは鎧に意識が宿ったリビングアーマーと呼ばれる魔族だった。冒険者であった男が曰く付きの武具として手に入れたのがエルギウスだったのだ。以来2人は戦場を共に駆ける相棒として長年共に過ごしてきた。

「ああ、他に道はあるまい」

「………………」

『あのお方』から授かった力は強大で、戦況を覆すには充分な力がある。だが力の代償として2度と元には戻れず理性を失って暴れる魔獣と化す。

 それは2人の別れを意味していた。

「どの道我等には未来などない。ならば、共に果てるのもまた一興」

 そう言い切った男にエルギウスは諦めたような、ただどこかスッキリしたような声で相棒の決断に応えた。

「そうだな。お前と一つになって果てるなら、それも良かろう」



 やがて、銅鑼が叩き鳴らされ、一つの作戦の指令が全軍に通達された。敵軍に緊張が走った。だが、一瞬の逡巡の後、全てを振り切るように魔族が左手を、人間が右手を挙げた。その手には赤い禍々しい髑髏の指輪が装着されていた。


「?何だ? 奴等何を始める気だ?」

 片目は動きを止めて突然の敵軍の行動に目を瞬かせる。




「ああああああああっ!!!!」


 突然全身を震わせながらクロが叫び出した。周囲にいた魔族は慌ててクロに駆け寄る。

「どうしました!?」

「救世の天使様、大丈夫ですか!?」

 苦悶に顔を歪めながらクロが呟く。

「災厄がやってくる……! 皆、気を付けて……」



 弱々しい声が戦場に響くのだった。

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