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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
竜退治編
10/229

8話

 銀狼族と片目との壮絶な殺し合い(というよりは一方的な虐殺)から1日が経ち、片目は人里へと到着していた。そのままの姿では当然混乱が起こるので片目は久しぶりに人化の魔法を使い人間の姿に変身していた。


 歳の頃は20代後半程の野性味あふれる鋭い目をした、歴戦の戦士という出で立ちである。革の鎧の上から銀色の毛皮のマントを羽織り、右目には眼帯が着けられている。残った左目は金色で、じっと見ていると吸い込まれそうな深い瞳をしている。

革の鎧の上からも分かる豊かな胸は道行く男達の視線をいやがおうにも引き寄せる。

客観的に言っていわゆる「いい女」だった。歳は相当詐称しているが。


 背中に赤子を背負い街の大通りを歩いていると周囲からの視線を感じる。先程までの視線とは違い侮蔑的な感情が込められていた。

 その対象は片目ではなく背中に背負っている赤ん坊へ向けられたものだった。


 胸に刻まれた刻印は布で隠されてはいるが、赤ん坊の瞳を見れば忌み子である事はすぐに分かる。赤い瞳をしているからだ。

 この世界の人間の一般的な髪との色は黒と茶、瞳の色は黒、茶、青である。ごく稀に金の色を持った者も現れる。金色はこの世界ネバーエンドを作り出したと言われる創世神の祝福を受けた証と言われ敬われる。それ以外の色は人間と魔族の混血即ち忌み子しか持ちえない。

 赤い瞳は忌み子の証という訳である。因みに刻印を刻まれた人間もその魔族の影響を受けて瞳や髪の色が変化する事がある。



「悪魔め! 消え去ってしまえ!」

 叫び声と一緒に石が飛んできた。後ろから飛んできたそれを振り返らずに手で掴む。

そのまま力をいれるとバキ、という音がして粉々に砕け散って落ちた。

「ひっ」

 石を投げてきた老婆は腰を抜かしてその場にへたりこんだ。片目は老婆の方へ向き直るとズンズンと歩き始めた。

「~~~~~~っ!」

 老婆は顔を恐怖で歪ませて身をすくませた。片目は平然と全く表情を変えずに老婆の横を通り過ぎた。




               ◆




 歩きながら片目は考えていた。そろそろ水と食料を調達しなければ。片目は何日も飲まず食わずでも平気だが赤ん坊はそうはいかない。片目が赤子と出会ってから2日が経過しているがその間何も口にしていない。

 適当な店を選び店主に話しかける。

「素材を売りたいのだが買い取りはやっているか?」

 そう言って片目はあらかじめ自らの体から抜いていた銀色の体毛を店主の前に差し出した。最初は怪訝そうに見ていた店主だが、目の前に置かれた物が何であるか理解した瞬間目の色を変えた。


「こ、これは……銀色の体毛、もしかして銀狼族の毛か!?」

「買い取ってもらえるのか?」

「あ、ああ! もちろん! 願ってもないくらいだ!」

 改めて聞き直した片目に店主は興奮した様子で答えた。

 店主は小走りで店の奥にかけていくと金貨の入った袋をテーブルにどか、と置いた。


「随分と気前がいいな。こんなに貰っていいのか?」

「ああ。滅多に手に入らない最高級品だしな。それに先行投資ってヤツだ」

「?」

「あんた相当の手練だろ? いい素材が手に入ったらうちに回してくれ。割高で買取させてもらうから」

「また、といっても別にたまたま持ち合わせていただけだぞ」

「? あんた、冒険者じゃないのか? だったらオススメしとくぜ。銀狼族を仕留められる腕があるならすぐにトップに立てる。金もたんまり稼げるぜ」


「ほう」



 店主の稼げるという言葉に片目は反応した。赤子を育てていくには金が必要不可欠だ。片目だけなら金がなくても別に困らないが、この子には人間らしい生活をさせてやりたい。


「その冒険者とやらになるには何か手続きが必要なのか?」

「ああ、向こうの通りに大きい建物があるだろ。そこが冒険者ギルドだ。そこに行って登録すればなれる。冒険者になれば色々と特典もつくしお得だぜ。ランクに応じて素材を割高で買い取ってもらえたり安く品物を売ってもらえたりする」

「そうか、では行ってみる事にしよう。世話になったな」

「毎度あり~」


 上機嫌な店主の言葉に送られて片目は店を後にして冒険者ギルドへと向かった。



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