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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
プロローグ
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プロローグ

「掃き溜め」という誰にも必要とされなくなったモノが集う空間に突如現れた赤子。強大な力を持つ魔神と一つの絆が生まれた時、一つの奇跡が起こり地上へと赤子は戻ってくる。胸に一つの刻印を残して。刻印-それは魔族の加護を得た者が体のどこかにつける人と魔族の絆の証。成長した赤子は少年となり保護者代わりの魔族とあてのない旅に出る。忌み子として数々の迫害と災難に襲われるも持ち前の聡明さと魅力で乗り切っていく。そして少年が自らの使命に目覚めた時から残酷な世界は少しずつその趣きを変化させていくーー争いごとが嫌いで心優しい少年の伝記にしていこうと思います。

ヒロインなし、ハーレムエロちょっとだけ、バトル多し。あとBLも含まれておりますので苦手な方はそっ閉じ推奨です。


 「掃き溜め」と呼ばれる、あらゆるものが捨てられ朽ち佇むだけの場所があった。無人の、音もろくにしない静寂が支配する空間であった。



 そんな空間に存在するものーーそれは古びた玩具であったり、壊れて使われなくなった家具であったり、着れなくなった衣服であったり。ようするに必要とされなくなったものーーゴミである。

 その中には巨大な魔物の骸であったり人間の骨などであったり動物の死骸であったり、この空間に引き寄せられた者の末路の姿もあった。


 そう、彼等はこの空間に引き寄せられたのだ。


 地上には重力というものがある。あらゆるものを地面に縫い止める力である。それと同じように全てを地上に縫い止めるもう一つの力が存在した。それにあえて名を付けるなら、引力、であろうか。人が人を、物を、形にならない何かを、必要とする時に生まれる力。互いを引き合わせる力。引力が鎖となって縛り付ける事によって地上に……否、この世界にあらゆるモノを縛り付けていた。

 では、その力が無くなったらどうなるのか。その答えがこの空間に屯するゴミと屍の山であった。掃き溜めとはこの世界の引力ーー絆や縁というものを失って誰からも必要とされなくなったものが引き寄せられ集まる場所なのだ。




 何もない、静寂だけが支配するはずの場所にかすかな泣き声が響いていた。それは人間の赤子であり、産まれたばかりだという事が見て取れる。何しろへその緒をぶらさげているのだから。産まれたばかりの赤子がここにいるという事は、一つの事実を差し示している。捨てられた、という事である。名前も、愛情も、母乳も与えられず、産まれた世界からも追い出された孤独な存在だった。



「これは……何だったか…………遠い遠い昔に聞いた事があったような……」



 赤子とは全く違う異質な声があたりに響いた。それと同時にとてつもなく凄まじい瘴気と強大な魔力が吹き荒れ始めた。しかし声の主はそんな恐ろしい状況を作り出した事には全く頓着せずただひたすら記憶の海を漕ぎ出していた。

 そしてようやく何かに思いたったのか、口を動かした。

「そうだ……声……これは声だ。意思を己の外に伝うための手段……」

 ブツブツと出したその声にはどんな意思が込められているのか。それは分からないが少なくとも声の主は赤子に危害を加えようとする様子は一切見られなかった。やがて少しずつ声に力と明瞭さが現れ始め、虚ろで何も映していなかった瞳に光が灯り始めた。

「これは……赤子。人間の、赤子。か弱きモノ。庇護が、必要なもの」

 守らなければならない、と手を伸ばそうとした。だがーー



「寄るな、この化物!!」

「恐ろしい……コイツは周りに災厄を振り撒く存在だ。殺さなくてはならない」

「お前のせいで、私達一族はーー!」



 その者の脳裏にかつて彼を忌み嫌い迫害しようとした者達の姿が蘇った。今はもう存在しない者達。彼が摘み取ってきてしまった命。

「そうだ。私はーー」

 彼は思い出した。自分が地上で誰よりも忌み嫌われ、恐れられてきた存在だという事を。そしてその為にこの空間に閉じ込められた事を。何故忘れてしまっていたのか。孤独に、心が耐えられなかったからだ。数百年もの孤独は彼から感情を奪い去ってしまった。それが、赤子との出合いにより甦ってきてしまった。




ーー怖い。




 拒絶される事が、傷つけてしまう事が、居なくなってしまう事が、再び独りぼっちになってしまう事が。

 身体が、ガクガクと震えていた。恐怖と、そしてもう一つ彼の心を占める感情で揺れ動いていた。



ーー寂しい。



 触れたい、話したい、側にいて欲しい、もう2度と独りになりたくない、誰かに愛されたい。彼がそんな葛藤に心を、身体を震わせていたその時。

 この時、初めて二人の目が合った。

 そして、その時赤子が笑った。笑いかけた。

「私に、笑いかけてくれるのか……! 私を、必要としてくれるのか……! お前は……!」

 彼の瞳から一筋の涙がこぼれ落ち、そして赤子の頬に当たって散った。その瞬間、稲妻のような衝撃が駆け抜けた。心にも、身体にも。



 気が付いた時には赤子はもうその場にいなかった。

 胸を手で抑えると赤い液体が付着していた。傷口を指先でなぞるとある事に気が付いた。




 名が刻まれているーー




 それは、赤子の真名。実の両親に付けられなかった名前ではない、魂に刻まれた存在の証。

 今ここに、確かに二人の絆は結ばれた。






2015 10/16プロローグを書き直しました。

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