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06.ファーストコンタクト

06.『ファーストコンタクト』


森から戻ってきたクロエ達は真っ直ぐにギルドへと戻ってきていた。そのあまりにも早すぎる帰還にクエスト内容を知っている者達は驚きに固まっていた。

それは受付のアイリとて同じだった。もしかしたら緊急事態が発生したのではないかと内心では焦りまくっている。


「悪いけどクエストは終了。さっさとアリシアに報告してくる」


「分かりました。ギルド長は二階の執務室にいますので」


最悪の事態ではなかったとアイリは安堵するが、逆に自称救世主が暗い面持ちなのが気になった。時間から考えて森に行ってただ帰ってきただけだとしてか思えない。

つまり一回の戦闘で自称救世主の力量が分かったということなのだが、あの様子からだと最高でもクロエ以下とだとアイリは考えた。


「報告ー、最低以上」


「はい、お疲れ様でした」


「ちょっと待ってください!」


執務室の扉を開けると同時にクロエは軽く報告を行うと、ギルド長のアリシアも軽い調子で受けて全て終わったことにした。それに異を唱えたのがミリルであった。

それにクロエとアリシアは面倒臭そうな顔を向けてさっさと終わらせたいと訴えていた。


「あの、そこまで興味がないのですか?」


「「無い」」


同時に答える二人にミリルは頭を抱え、自称救世主は膝から崩れ落ちた。仮にも王国の最重要人物に関して興味がないと言い切る二人にミリルはもうどうしていいのか分からなくなっていた。

そしてこの二人に主導権を握らせたままだと何も進まないと考えたミリルが自身で報告を始める。


「救世主はこちらで改、鍛えます。今のままですと一般人に劣りますから」


「今、改造って言わなかったかな。俺を一体どうするつもりなんだよ……」


ミリルの言葉に自称救世主は王都に戻ってから何をさせられるのかと想像して恐怖していた。何か大切なものまで変えられるのではないかと。物理的な方法で。

実際そこまでやらないと役に立たないだろうと考えているのは三人とも同じであった。


『緊急事態!すぐに北の森に向かって!』


「もう出たの?ちょっと早すぎない」


『出たものは仕方ないでしょ。それに次元が開いたのは感知したけどどういったタイプなのか、それよりも敵対するのかどうかも分からないのよ』


「どういうこと?」


『つまり相手に対して何も分からないということ。それに侵攻なのか落ちてきたのか分からないのもあるのよ』


「落ちてきたっていうのは?」


『侵攻に合わせて他世界との次元境界線が曖昧になっていて不運にも穴に落ちてこの世界に現れたというとこかな』


それは本当に運がないなとクロエは考えていたが、よくよく考えれば自分も同じような境遇ではないだろうかと思ってしまった。それでも元の世界に戻りたいとそこまで考えていないのが救いなのだが。

未練が無いわけではないが、今はこちらの世界の住人なのだが割り切っている。


「アリシア、悪いけどちょっと北の森に行ってくる」


「危険な魔物が多いから気をつけてね」


一応危険区域に指定されているのに気軽に交わされる会話に北の森がどういった場所なのか知っているミリルは唖然としていた。Dランクのハンターが行くような場所ではないのも知っていたからこそ口を挟む。


「待ってください!あそこは常に冬という異常気象に加えて生息している魔物が特殊な場所ですよ。今のクロエさんでは入ることすら駄目なはずですよ」


「私が許可したからOK。責任は私が持つわよ。それに生きて帰ってくる気でしょう?」


「死ぬつもりで行くわけない」


「当然よね。それにクロエが特殊な場所というだけでやられるわけないと知っているからこそ許可を出すのよ」


「それじゃ急いでいるから」


これ以上会話していられないとクロエは颯爽と執務室を出て行く。それにアリシアはため息を吐きながら、ミリルはまだ納得していない様子で見送る。


「クロエさんは一体何者なんですか?」


「私達じゃ想像も及びつかない存在かしら」


クロエのことを知っているアリシアが言い得て妙な答えを返す。ミリルは怪訝そうな顔をするが、それ以上アリシアが答えないと分かると未だに蹲っている自称救世主を引き摺りながら執務室を後にする。

残されたアリシアは何事も無かったかのように書類仕事を再開した。




「で到着したのはいいけどどこに行けばいいの?」


『すぐに分かるわよ』


自称女神の言葉とともに森の奥から爆発音が轟く。音の振動によって木々に積もっていた雪が一気に落ちて粉雪が舞う。


「それにしても南の森は春らしかったのに、何でこっちは今の季節で冬らしいのかな」


『精霊の影響ね。ここは氷の精霊のテリトリーだから。ちなみに奥に見える山には竜も住んでいるわよ』


「本当に危険区域ね。ならとっとと終わらせましょうか」


爆発が起きたであろう地点に向けてまた駆け出す。森に入る前に神力を纏わせて速度と防御力を上げているのでまともなら問題ないのだが、如何せんここは危険区域。

今のクロエのレベルだと到底相手することなど出来ないのだが、神力で無理矢理押し通していく。


「到着っていうか、あれが相手?」


『どう見てもロボットよね。生身だと厳しいかな』


「というかそのロボットと素手で戦っているあれは何?」


『氷の大精霊ね。というか何で戦っているか私も分からないんだけど』


「というか見ていて大丈夫じゃない。大精霊がどう見ても押しているんだし」


5メートル級の敵を相手にしているというのに氷柱と氷塊を上手く使いながら的確に相手の行動を阻害しつつ、素手とは思えない打撃を叩き込んでいた。

それにより間接部に負担が掛かったのか明らかにロボットの動きが悪くなっている。


「強そうなのは見た目だけか!」


「そんなこと言われても私はまだADに乗って日が浅いんですよ!」


笑いながら声を掛ける氷の大精霊に対して、必死な声がロボットのほうから返される。それにこれだけ騒いでいるというのにロボットのほうに増援が無いというのもおかしい。

侵攻だとしたら相手が一体というのもおかしい。この一体で超絶的な力を持っているのなら納得できるのだが、氷の大精霊に押されている時点でその可能性もない。


「自称女神の言ったとおり落ちたっていうことかな」


『みたいね。むしろ可哀想に見えてきたわ』


多分何も分からないまま氷の大精霊に喧嘩を吹っかけられたのだろう。どんどんボロボロになっていくロボットにクロエでさえ憐憫な目を向け始めた。

ロボット操縦者はその視線に気づいたのか氷の大精霊から声を掛ける相手を変えた。


「そこの人、助けてください!」


「無理」


「即答はないでしょう!」


規模から言って割って入ったら偉い事になることは分かりきっている。先ほどの戦闘だけで森の中だというのに周囲の木々は薙ぎ倒されてこの一帯は広場と成り果てている。

そこにクロエまで入ったら更に被害は広がるだろう。だがこのままだと操縦者ごと死にそうなのも理解している。


「そろそろ休んだらどう?一応私はそっちのロボットに用があるんだけど」


「私の庭にいきなり珍妙なものが現れたのだから、このロボット?というのは私の獲物だ」


「戦意がない相手を嬲ってもつまらないでしょ。だから止めてあげれば」


「ならばそちらが相手をしてくれるというのか?この程度の戦いでは不完全燃焼だからな」


「氷の大精霊の割に随分と燃えているね」


氷というイメージからクールな人物だと思っていたものが意外と戦闘ジャンキーではないとか思えてしまう。それに殺気を向けられて黙っているクロエでもない。

ロボットを置き去りにして二人は立ち会うとお互いの拳をぶつけ合う。


「何この疎外感……」


今まで散々殴られたり、氷塊をぶつけられたりしていたのに急に自分をほっぽり出して戦いだした事に操縦者は愕然とする。今までの攻防は一体なんだったのか。

虚しくなりつつも二人の戦いを観察しつつ、有り得ない光景を眺めていく。

最初の拳の打ち合いでお互いに弾かれながらも大精霊は弾かれた勢いを利用して後ろ回し蹴りを放つ。それを予測していたクロエは体制を伏せさせる位下げながら下段蹴り放つ。

片足で跳ぶという有り得ない動きをして下段を避けると氷を鉄槌の形に作り大精霊は振り下ろし、クロエは危険域からすぐに退避する。

凄まじい爆音と共に氷の鉄槌が落ちた場所にはクレーターが出来上がっていた。


「喰らったら死ぬだろうが!」


「殺すつもりで放ったのだから当然だろう!」


あまりの出来事に口調が変わってしまったクロエだったが、本当にそれを気にしている場合ではなかった。力試しだと思っていたら本気の殺し合いに発展していたのだから。

異世界の侵攻を食い止めにきたはずなのに何故同じ世界の精霊と殺し合わないといけないのか理解できなかった。


「ぶっ飛ばして落ち着かせるしかないか」


「やれるものならやってみろ」


「降りようにも降りられない」


三つ巴の戦いですら無くなっているがロボットの操縦者を気にしている場合でもなかった。放たれた氷柱を掻い潜りながら再びお互いの拳が届く位置に辿り着く。

顔面を狙った拳が避けられ、氷の爪を纏わせた手刀が腹を掠める。神力を纏っていてもそれを切り裂く一撃に驚きつつも、そのお陰で砕かれた氷爪を纏っていた腕を掴んで一本背負い。

激しく背中から地面に激突した大精霊は咳き込みながら、すぐにクロエから離れようとしたがその前にクロエの拳が腹部にめり込むほうが早かった。

激突した地面がさらに拳打によってへこむ様子を操縦席から眺めていた操縦者は恐怖した。とてもではないが同じ人間には見えない。


「よし、何とか勝った」


『殺していないでしょうね。大精霊が消えると世界の均衡が崩れて私が大変なことになるんだけど』


「この程度で消滅しないでしょ。それに本気でやらないと私が危なかったんだから」


事実、大精霊は動きはしないが消滅もしていない。それに掠った一撃は傷口を凍らせていて周囲の皮膚が凍傷を起こしている。放っておくと細胞が死滅していくだろう。

まともに喰らっていたら本当に危なかった一撃であった。取り合えず物理的に氷を砕いて、神力を傷口に集める。それだけで自然治癒力が高まる。


「さてそろそろ降りてきてくれないかな。一応危害は加えないと言っておくけど」


「降りますから殺さないでください」


どうやら先ほどの戦闘で大いに警戒されているようであった。だがあの氷の鉄槌などがロボットに直撃していたら流石にあのロボットといえど無事とはいえなかっただろう。

そんな存在と互角以上に戦って最後に勝ってしまったのだから警戒されないほうがおかしい。

ロボットの胸部が開くとその中から青髪の少女が姿を現した。体格的にクロエとそれほど年齢は離れていないと思うが、先ほどの声から結構焦っていると思っていたのだが、少女の表情は意外と無表情であった。


「アルトと言います。どうか殺さないでください」


やはり無表情で自己紹介と一緒に懇願してきた。その反応にクロエはどう対処すればいいのか悩んでしまう。殺す気は全く無いのだが、だからといってこの少女をどうすればいいのかも悩んでしまう。

明らかにあのロボットはこの世界では異物であろうし、こんな技術が広まるのも困ってしまう。あとはどうしてこの世界に来たのかも気にはなるのだが。


『仲間にしちゃえば?そうすれば色々と解決すると思うんだけど』


「それでいいのか、自称女神」


あまりにも無責任な自称女神の発言にクロエは頭を抱えた。確かに仲間になればあのロボットも秘匿できるし事情も聞ける。だが仮にも他世界の者をそう簡単に仲間にしてもいいのかと考えてしまう。

ただ考えても他にいい方法もないし、自分自身も他世界の人間だと思い出したので深く考えることを止めた。


「えっと、一緒に旅する?」


「殺さないでくれるのなら仲間になります」


事情も何もすっ飛ばした誘い文句に、嬉しさも何も無い返答。こんな勧誘も返答も有り得ないと自称女神は思ってしまったが、他世界同士の交流を考えればこれでいいとも思ってしまった。

投げやりな自称女神であったが、この後の大精霊の対処をどうしようかと悩んでしまう。いっそのこと大精霊も仲間に入れてしまおうかと無責任な考えが脳裏をよぎる。


『それはそれで面白そう』


「お前はもう少し私のことを考えろ」


一発拳骨を落としておいた。

またUSB無くした。どこに消えたんだろう。

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