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05.救世主の実力

05.『救世主の実力』



最初のクエストから一週間が経過した。クロエのランクはギルド長「アリシア」の言ったとおりDランクに上がり当初よりも報酬のいいクエストを受けることが可能になった。

それでも初日のような金額をずっと稼げるわけもなくクエストや今の力に慣れるために淡々とこなす毎日。

自称女神との通信も再び繋がった。なにやら作業に没頭していて全く気づかなかったらしい。自称女神の作業に全く興味がないクロエが「へぇ」とだけ答え、それに文句を言う自称女神に折檻を行うという恒例の行事を行った。

それと初日に稼いだお金で装備もある程度揃えた。いつまでも巫女服だけというは格好が付かないと思ったのだろう。鋼の胸当てと剣を一本、ナイフを二本、コンバットブーツのような頑丈な靴を購入した。

ただ一週間クエストをこなしていてもレベルは一つしか上がらない。南の森に出現する魔物ではクロエにとって雑魚以下と成り下がってしまったからだろう。

段々とつまらなくなってきたと感じていたクロエだがお金を稼ぐためだと割り切って今日もクエストを受けようとギルドへと入った所でいつもの受付嬢「アイリ」に呼び止められた。


「クロエさん、ギルド長がお呼びですよ」


「何でまた?」


あの一件以降、色々と面倒を見てくれるようになったギルド長。宿の手配からハンターとしての心構え、こちらの世界についての常識など直々に教えてもらったことに対してクロエは感謝はしていた。

ただ余りにも干渉してくるので他のハンターからはあまりクロエのことを受け入れようとはしていない。だがギルド長であるアリシアと引き分けたという話が広まったために直接的な行動に出る輩もいなかった。

逆にアリシアに挑む馬鹿が増えた。どうやらクロエの見た目からアリシアが怪我を負っていたか病に掛かったか衰えたかと変な憶測で自分に有利だと周りが勘違いした結果の行動だったのだろう。

アリシアの性格からして不正はなかったというのが全員一致していることだが、挑戦した者達の結果は全敗。ただその行動自体は無駄ではなくアリシアは久しぶりに挑戦者が集まって満足していた。


「何でも急な案件だそうです。クロエさん担当の私にクエストの発行は控えるようにとお達しがありました」


アイリがクロエの専属担当者となったのはアリシアからの命令であった。今後何かしらの情報が必要になるだろうとクロエも自身の正体を明かした。といってもカードに表示されているステータスを見せただけなのだが。

人種の半神人を見た瞬間、アリシアは固まり、次には無礼な行いをしましたと頭を下げたりして周囲にいた人達を驚かせていた。流石にクロエもこんな反応されるのは予想外で急いでアリシアに頭を上げるように懇願した。

話を聞けば神様信仰はこの大陸に住まう者全員のものであり、立場的なもので言えば王様よりも偉いらしい。半分神様でもそれは変わらない。ただクロエにとってそんな反応をされるのは嫌であるから普通に接してくれと頼んだ。

その説得だけで三十分も掛かったのだからこの大陸の信仰は根深いものがあるのだろうと疲れた頭で考えていた。そしてそういう事情から専任担当者を付けるという話になったのだ。


「アリシア、急な案件って何?」


アイリを伴ってギルド長の部屋に入るなりクロエは用件を聞いた。もしかしたら緊急事態なのかもしれないと思ったからこそなのだが、呼び出した当人のアリシアは別段焦っている様子ではなかった。

ただ困ったような顔をしているだけ。それに困惑しながらもクロエはソファに座ってアリシアの言葉を待つ。


「救世主が現れたという話は聞いているわよね」


「街全体で今じゃその話題で持ちきりだからね」


救世主が現れた。それは王都から話が流れてきて、首都へ、更には方々の村にまで広まっていた。一年ほど前に災厄がこの世界に現れるという神様からのお告げが各教会の神父に降り、国王が救世主光臨の儀式を行ったのだ。

その儀式のやり方もお告げとして降ってきたというのだからクロエは自称女神が根回しをしたのだと考え、一応確認した。結果は予想通り。

そしてその救世主こそが自称女神が選定して異世界から招いた者達のこと。


「その救世主がこの首都でハンターを行いたいと言ったのよ。クロエにはその護衛をお願いしたい」


「騎士くらい付いてくるんじゃないの?」


「一人は来るらしいんだけど、それだと不安らしいのよ。それに条件もあって女性で同い年くらいの子を指定しているの」


『ハーレム願望でもあるんじゃない。良かったね、行き遅れにならなくて』


前半部分は同じことを考えたが後半部分にイラついて拳骨を落としておいた。頭部陥没するくらいのイメージだったからなのか悲鳴すら聞こえてこない。

正直なところクロエはこの依頼を断りたかった。理由は簡単、その救世主のイメージが悪いから。会いたくもないというのが正解だろう。


『あいたた、でも私にとっては会ってほしいかな。現状の戦力確認と今後の戦略に組み込めるかどうか知りたいから』


自称女神の言うとおり今後どんな化け物クラスの敵と戦うのか分からない現状では少しでも戦力が欲しい。クロエだって自分一人でこれから先、戦っていけるとは思っていない。

何より多面攻撃などされたらどうやったって防ぎようがない状態になってしまう。だからこその戦力確認なのだろう。


「分かった、引き受ける。それでその救世主はいつ来るの?」


「急で悪いんだけど今日の正午よ。予定ではその後南の森に行って適当に狩りを行ってくれればいいわ」


「随分アバウトね。それに南の森なんてほぼ雑魚じゃない。別のキングがいるわけでもないし」


「実戦出たこともない素人を最初から危険な場所に放り込めるわけもないでしょう。クロエには救世主が一対一になる状況を作ってもらって危なくなったら手助けするくらいのことをやってもらうわ」


「うわぁ、面倒臭い」


「クロエや騎士が倒しても救世主には経験地入らないのだから仕方ないのよ。これも仕事だと思って諦めて」


仕事と言われれば面倒だと匙を投げるわけにもいかない。ため息を吐きつつ、了承の意味で頷くとアリシアはすまなそうな顔で頷き返した。その後はアイリにクエストの受理を頼み、今の時間からクエストを行うわけにもいかないクロエは軽く店舗を覗く事にした。

自称女神と店舗にある品について会話をしつつ、早めに昼食を取ってギルドに戻ると、アイリの受付に女性の騎士と黒髪の男性が話し合っていた。それが目的の人物だろうと当たりをつけたクロエはそのままアイリの元へと向かう。


「あっ、クロエさん。この方々が護衛対象です」


「だろうと思ったよ。私はクロエ、Dランクのハンター。短い間だけどよろしく」


「私は王都第4騎士団所属ミリルです。こちらこそよろしくお願いいたします」


「救世主のオカベ・ケイだ、ケイって呼んでくれ。しかし黒髪巫女さんとかこっちの世界にもいるんだな。しかも美人だしグッジョブ!」


『自分で救世主とか言う人を見ると凄く胡散臭く思えるね』


自称女神の言葉にクロエも同意する。もしかするとこのケイという人物は今の状況に酔っているのかもしれない。自分は選ばれた存在でこの世界の本当の救世主に自動的に成れるのだと。

だが実際は殺さなければ自分が殺されるという状況。何もしなければのたれ死ぬ。元の世界に逃げ出すこともできないというある意味で地獄のような状況だというのに。

現実をすぐに受け入れるのは異常であるが、少し自分のことを客観的に見れば何かしら思うところはあるはず。


「それで予定通り南の森に行くの?」


「おう!俺の勇姿を見せてやるよ。もしかしたら惚れるかもしれないぞ」


それはないとクロエは口に出そうとしたが思い止まった。どうせ短い付き合いであるだろうし、機嫌を損ねて面倒になるのも考え物だと思ったのだ。

隣の騎士を見れば億劫そうな表情をしているので、自称救世主の力量は大体想像がついてしまう。


「なら行こう。今からなら夕方には戻って来れる」


いつまでも自称救世主に構っていられない。それに長時間一緒にいると異世界からクロエも来た事が何らかの形でバレる可能性だってある。面倒なのでそれは防ぎたいと思っている。

アイリに軽く用件を済ませ、3人は南の森を目指す。向かっている最中もケイはクロエに対して馴れ馴れしく接してくる。自分が元いた世界について、自分の力について、クロエはどういった所から来たのかと煩わしいほどに。

それに対して適当に相槌を打ち、自身のことについては黙秘を貫く。なるほど寡黙キャラかと自称女神が訳の分からないことを呟いているが無視。


『それにしても予想以上に駄目そうね。覚悟というか信念みたいなものがない。まぁ元いた世界が平和すぎたんだね』


「そうね。一般人は本当に争いとは無関係だったから仕方ない。でもこの世界は違う。戦う気がないと死ぬんでしょ」


『当然ね。私は戦わせるために呼んだんだから。それでも私の都合で呼んだんだからある程度は融通するけど、さてどうしようか』


どうやら自称女神も性格までは選んでいなかったみたいだ。ただ能力のみで抽出したためにこういった平和ボケした自称救世主を呼んでしまったのだろう。

正直戦力としては見られない。肝心な場面で役に立たなかったら意味などない以前にこちらが不利になってしまう。そして現状扱いに困ってしまう。


『とりあえずゴブリンと戦わせてみて様子を見ようか。能力的には問題ないはずだから』


「力を使いこなせていたらの話だけどね」


鍛錬も何もしていないのであれば下手をしたらゴブリンにですら殺される可能性だってある。クロエ達召還された者たちだって無敵ではない。斬られれば怪我をするし、急所を突かれれば死にもする。

それが例え最弱な魔物だったとしても例外ではない。

南の森に到着すると三人はゴブリンを探し始める。クロエがキングを倒してしまったためにばったり出くわす可能性が下がってしまった。今ではこうやって捜索しないと会えなくなってしまったのだ。

といってもゴブリンが死滅するわけでもないことをアリシアから聞いている。1ヶ月もすれば元に戻ると。自称女神からもゴブリンの生態系ではキングを殺した程度では全滅することはないと確認も取れていた。


「いた。それじゃ私が左を、ミリルさんが右を、ケイが真ん中を担当で」


声を掛けてクロエが駆け出す。それに少し遅れてから騎士のミリルが続き、それから大分遅れてからケイが行動を開始する。

クロエはゴブリンに近づくと足払いをし転ばすと頭部を踏み抜く。ゴキャッと異音が森の中に響き死亡を確認。ミリルは走りながら剣を抜刀しゴブリンを袈裟斬り、肩口から斜めに斬られたゴブリンは絶命。

発見から数秒で二匹を討伐した二人はすぐにもう一匹から離れて自称救世主に場を譲る。もちろんゴブリンが逃げ出さないように警戒しながら。

ケイがゴブリンにある程度近づいて止まり、腰の剣を抜く。ケイが所持しているのは聖剣とかではないが、名剣と呼ばれる業物。当たればゴブリン程度など簡単に切り裂くことができるものなのだが、なぜ途中で止まったのかクロエには理解できなかった。

ゴブリンは仲間が倒され、自分も逃げ出すことができないことを理解して目の前のケイに対して死に物狂いで襲い掛かる。それにケイは顔色を青くして若干腰が引けていた。


「飲まれているね、完全に」


「演技とかではないんですか?相手はゴブリンですよ」


「生き死にの掛かった戦いをしたことがないんでしょ。だから決死の威圧に簡単に飲まれる」


現に錆だらけのゴブリンの剣を必死な表情で受け止め反撃しようとしない。錆びていて切れ味など皆無だから当たっても打撲か悪くて骨折程度。がむしゃらに振るわれる剣を腰を引けながら受けるので手一杯の様子。

先ほどのクロエとミリルの戦闘とは大違いの無様な様子。ただ幕切れも呆気なかった。錆びていて耐久力もない剣は折れ、その隙に大声を上げながらゴブリンに剣を叩き付ける。業物なだけあり腰が入っていなくても簡単にゴブリンを両断した。

その場にへたり込むケイに二人は近づきつつ憂鬱な思いであった。ゴブリン程度にこれでは更に上の魔物に対して役に立てないと考えたからだ。


『正直これはないわぁて感じね。強力なスキルを持っていても使わないし、これが力の強い魔物だったら最初の一撃で潰されているじゃない』


これが腕力重視の魔物だった場合、剣でガードしたとしてもそのまま潰されているのは目に見える。敵の動きが見える見えない以前に意識から変えていかないと戦場では生き残れない。

ただ一般人にこれを強いるのは過酷だが、この世界ではそれがないと生き残れないのも事実。


「ちなみに彼のスキルって何?」


『光系統の魔術を操る技能特化、武術特化、あと光剣を作り出すスキルよ。このどれかでも使っていればゴブリンなんて一瞬で消し炭なのに』


「恐怖でそれどころじゃなかったということか。大いに問題ありね、この自称救世主は」


『う~ん、どうしたものか。意識改変なんてやったら流石に不味いだろうし』


「それやったら私が敵に回るからね。勝手に呼び出しておいて性格まで変えるならそれは私達にとって明確な敵となるから」


『分かっているわよ、それ位。私だって一応は良心があるんだから』


「一応なのね。取りあえずミリルに頼んで一番厳しい騎士団の訓練にでも参加させるのはどうかな。それなら根性も付くだろうし、ある程度は動けるようになるはず」


『世界に合わせるとなるそれが妥当かもね。いつ来るか分からないけど、本格的な侵攻が始まる前までにある程度は役立つくらいになってほしい』


自称女神との打ち合わせを終えると今度はミリルに相談する。話してみてミリルもそれが妥当だと判断して即決で自称救世主の今後を決めた。

やはり彼女にとっても今のケイは救世主とは呼べないだけの情けなさなのだろう。これでは噂が広まっていてもおいそれと一般市民に大々的に発表などできない。

ゴブリンにすら苦戦する救世主など以ての外だろう。レベルや技術の前に根性を叩き直さないといけないというのが3人の共通認識であった。


「それじゃ早いけど戻ろうか。どうせこれ以上ここにいても無駄だしね」


「いや、俺はまだやれる」


「馬鹿言うな。そんな震えた状態で戦えるなんて笑わせる。まともに戦えるようになってから大口を叩きな」


ケイの発言を鼻で笑いながらクロエは一蹴する。虚勢を張れるだけの元気があるのなら何故戦いで役に立てないのか。正直クロエは内心イラついていた。

ケイという人物があまりにも微温湯につかった生活を送っていたことは分かるのだが、ここまで情けないとは思ってもいなかったからだろう。

足手纏いを連れて森の中でまた戦いを見るだけでも不快になる。それが嫌だからこそ帰ることを決めたのだ。


「それじゃミリルさん。さっきの件、お願いします」


「了承しました。正直私も見ていて不快ですので厳しく鍛えてもらうようにお願いしておきます」


お互いにケイに構ってられないばかりに街に向かって歩き出す。その様子を見たケイは項垂れながら二人の後を追おうと立ち上がり駆け出す。それは自分一人では生きていけないと初めて実感したのだろう。

二人のように心が強くなく、安易に考えていた自分自身が情けなく感じ、せめてスキルくらいは使えるようになろうと思ったのがこの時であった。

ただ彼にとっての地獄はこれからということを本人だけが知らないでいた。


只今旅に出ています。そして新しく買った靴で靴擦れが痛い。

ちなみにケイは一般人代表です。他の方々は色々と難が有りにする予定ですが、予定ですからどうなるか。

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