表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

04.職権乱用

04.『職権乱用』



クロエが目を覚ましたのは午前5時くらい。本人は時間が分からないが、いつもの習慣で目が覚めたのなら大体その位だろうと予想していた。

前の世界ではこの後、軽く身体をほぐしてランニングなどの基礎トレーニングを行うのだが勝手知らぬ土地ゆえに今回は自嘲することにした。

考えが前の世界のままなことに苦笑しながら周囲を確認して首を傾げる。

ハンターギルドまで来てシャワーを浴びていたところまではおぼろげながら覚えてはいるが、今いる部屋に来た記憶がない。

誰かが連れてきてくれたのだろうかと思うと、対面のベッドから微かな寝息が聞こえてきた。布団を被っていて顔が見えないが、恩人なので一応目礼しておく。

恩人が起きないようにベッドから抜け出し、近くに自分の巫女服が畳まれていたので着替え静かに部屋を後にする。


「じっとしているのは性に合わないのも問題か」


二度寝する気にもならなかったので軽く散策でもしようと思ったのだ。ギルドの中を勝手に歩き回るのもどうかと思うので外周を見て回ろうと考えた。

そこまで考えたのだが、鍵を勝手に空けて外に出るのは不味いと思った。それで何かあったりしたら流石に責任なんて取れない。

仕方なくぶらぶらしていると外から何かが空を切るような音がしたので窓から様子を見ると一人の女性が鍛錬をしている。

木剣にて素振りを行い、次に型稽古。その姿は熟練の貫録が見て取れた。年齢は40代くらいだろうか。

やることがないので朝稽古を眺めていたら、クロエの視線に気づいたのだろう。女性は手招きをする。


「鍵勝手に空けて出ていけない」


「そこから出て構わないわよ」


そこというのは会話するために開けた窓のことだろう。それもまた不用心ではないだろうかと考えたが、外に出れる機会を逃したくないので指示に従う。

これで何か問題があったとしても共犯として目の前の人物も連帯責任となる。一人より二人の方が罪が軽くなるだろう。


「私の鍛錬がそんなに珍しいかしら」


「いや人里に下りてきたのがつい最近だったから興味があってね」


自称女神と話しながら二人で作った設定を思い出す。長らく巫女としての修行をしていて人里から離れた山の中で自給自足の生活をしていた。だから常識に疎くて何かあったら教えてほしいと。

正直な所この設定がどこまで通じるのかは分からない。それでも無いよりはいいかとクロエは気軽に考えていた。何よりこの世界で転移者という存在は今回が初めてのことらしい。

そしてやっぱりこの設定には不備があったようで女性は怪しんでいた。


「ふ~ん、なら不備を指摘してあげるわ。まず第一に山の中にいたのならレベル1という時点であり得ないわ。それだけ過酷な生活を送っていたのならもう少しレベルが上がっているはずよ。

次に着ているものが上等すぎる事。自給自足をしていたのならもっとボロくないとね」


「ごもっとも。だからといって正体を晒す気はサラサラ無いけどどうする?」


「うーん、なら私と立ち会ってくれないかしら。最近稽古に付き合ってくれる人がいなくて暇しているのよ」


「その位なら是非もなし」


近くに立て掛けてあった木剣を手に取り女性と向かい合う形を取る。恐らく始めの挨拶なんてない。実戦形式の戦いとなるはず。

正眼に木剣を構えつつ女性の立ち姿を観察する。それだけで相手が強者であることが見て取れた。レベル差もあるだろうがやはり経験の違いだろう。


「シッ!」


先手は女性。苛烈な踏み込みからクロエの頭を狙って剣を上段から振り下ろしてくる。それに対しまともに受けず力の流れをそらすように木剣を当てる程度に振るいつつ、足払いを仕掛けてきたので後方に跳んで躱す。

追撃をしてこない女性に訝しげな視線を送ると笑ってきた。それは久しぶりに戦いがいのある人物と出会えたといった感じだろう。それを見てクロエはうんざりした表情で返す。


「次はこちらから」


気負う訳でもなくゆったりとした動きでクロエが距離を詰める。相手の呼吸を盗み、相手の虚を付いて仕掛ける古武術の動き。先程の女性とは全く違う動きに女性の反応が遅れる。

それを狙っていたと下段から脇腹を切り上げる。しかし女性の木剣で受け止められ、空いている左の拳撃が振るわれたのでまた距離を離す。

対して頭部を狙う横薙ぎを放つものけぞるように避けられ、その不安定な姿勢から蹴りを放たれたので追撃できるクロエは更に下がる。

剣の腕、経験、体術までも使ってくる女性はクロエよりも実力が上だと感じていた。だからこそ自分の実力がどこまで通用するのかクロエは知りたかった。

もしこの女性の実力で並であるのなら異世界からの侵攻など自分には止められない。何よりこの世界の住人達の方が防ぐ手立てとなるのではないかと。

幾度かの応酬を重ねてクロエの背中が壁に付いてしまう。女性は勝負ありと感じたが、クロエの不敵な笑みが警戒心を与える。


「全力、行くよ!」


袴で見えなかったがクロエは両足を壁に付け、全力で蹴った。それは壁に罅が入るほど。壁に背を付けている状態からこれほどの加速が出るとは思わなかった女性は反射的に防御のために木剣を構えてしまう。

響いたのは折れる鈍い音。ただし骨が折れたのとは違い、互いの木剣が半ばからへし折れた音だった。


「最後のあれは驚いたわ。まさかあそこからあの加速を生めるとは思わないもの」


「学んだ技よ。戦う場所を選べないんだから全てに対応しないといけない」


クロエの流派にとって劣悪な環境であろうと十全な結果を出せないようでは死を意味する。退魔師はチーム組まず妖怪を発見次第殲滅することになっている。

個人か家系でのみ戦い、勝てなければ撤退という考えはない。いかに相手を弱らせるかと決死の戦いとなるだけ。

足場が悪い、天候が悪い、木々が邪魔だ、見通しが悪いなどの悪条件の中でいかに戦うかを考えられた流派。

全ての悪条件を利用せよを理念に生まれた流派は様々な武器を用いるため多岐に枝分かれしてしまう結果となった。

中でもクロエが好んで使うのは刀と小太刀、あとは格闘術。


「でも何か貴方の動きがぎこちなく感じたのだけれど」


「こういった剣は扱ったことが無くてね。本来は反りのある片刃の刀という武器を扱う」


「なるほどね。でも疑問に思ったんだけど幾ら技量が高くてもその程度じゃキングは倒せないはずよ。まだ何か隠しているでしょう?」


「奥の手を軽々しく話すのもどうかと思う」


「確かに一理あるわね。ならいいわ、貴方をDランクへと昇格させます。キングを倒した方法が不明だとしてもその技量は高く買うわ」


その言葉に、何を言っているんだこの人と失礼なことを考えてからある可能性が出てきた。


「……もしかしてギルド長?」


「そうよ、分からなかった?基本的にランクなんて私の一存でどうにでもなるのよ。ランクとはただの安全弁であり、向上心を煽るための物なんだから」


「その前にランクについて教えてもらえない?」


「そういえばあの姉弟、説明してなかったといっていたわね。ランクというのはハンターの格付けよ。自分の実力に見合った仕事をしてもらうために自分のランク以上の依頼は受けることができないの。

そうしないと報酬に釣られて無謀なことをしようとする輩がかなりの数いるわね。あとAランク以上は名声と変わらないほど有名になるわ。ギルドからの直接依頼やハンター業以外からのオファーとか」


「ハンター業以外って、何かの宣伝とか」


「ラジオ出演、広告のモデル、果てはアイドルになったハンターもいたわね。すぐにアイドル業は辞めたけどね」


どこのスポーツ選手だとクロエは突っ込みかけた。ただ確かに収入面ではそういった仕事を受ければ安定しているだろう。クロエ自身は遠慮したいと思う。

クロエは目立つのが好きではない。元の世界でも普通の学生らしく過ごそうとしていたのが、出会ったしまった友人達により散々振り回されてしまっていた。

それから更にそういった思いが強くなっている。ただ本人は無自覚なまま目立ってしまっているという面もある。


「有名になりたくなくても実績を積んでいけば必然的に目立ってしまうのよ。その分見返りはあるけどね」


「悩みどころではあるけど仕方ないか。そういえば魔力の使い方について教えてもらえないだろうか」


「貴方、本当にどうやってキングを倒したのよ……。まぁいいわ。魔力はイメージよ、自分が何をしたいのか、そういう姿を頭の中で詳細にイメージすることで使えるのよ」


「いや、それでやると別の力が出るというか何というか。色とかは無いのか?ただの魔力を放出するとこんな色になるとか」


自称女神に折檻する際に魔力を使ってはいるが、あれは何故か使えている部類に入っている。暴力的なイメージが使えている原因かもしれないが、それで身体に纏うイメージなど出来ない。

暴力的なものを身体に纏うとかイメージできるわけがない。


「色ねぇ、各それぞれの得意な属性で色が変わるから分からないけど、私は身体強化しか使えないから。ちなみに纏うと青いかな」


神力が白だとイメージしているのに対して魔力を青としてイメージしてみる。そうすると心臓のある付近に二つの力が宿っているのがクロエに伝わってくる。

それが神力と魔力。感覚的に掴むことが出来た。やはり色という断片的なイメージだけでも特性を掴めるとクロエは感じた。


「なるほど。これで何とかなりそう」


「いや、それだけで感覚を掴めるのは異常だと思うわよ。低レベルでキングを倒せたのはそういったことが原因かしら」


「修行していたというのは本当だから。こういった力の感覚は概ね掴みやすい」


「なるほど」


退魔師として幼少の頃から鍛えられていたクロエにとって力の名前が変わっただけで流れを掴むのは造作もないこと。近接特化といっても精神修行もやらされていた。

滝に打たれたり、山籠もりなど作り話の中には真実も入っている。いつの時代の修行だと言われても昔から行われていた結果を残していると言われたらクロエだって何も言い返せなかったのだ。


「さていい時間になったみたいだし、朝食でもどう?どうせ食べる宛てもないのでしょ」


「それは助かる。御馳走になります」


「いいわよ。これから持ちつ持たれつの関係になるのだし」


ギルド長の言葉にクロエの表情が引き攣る。扱き使う気満々の台詞に逃げ出したい心情になるも、生きていくためにはお金が必要なのに変わらない。

先程の会話からも彼女の一存でクロエの仕事など簡単に無くなってしまうことも分かってしまった。職権乱用ともいえる横暴だろうとお金を稼ぐためには我慢も必要。

そこは元の世界と同じでまるで社会人になった気分にさえなってしまう。ただ協力体制は作られるかもしれないと考える。

持ちつ持たれつということはこちらの要望もある程度は鑑みるのだろう。そこでふと思ったのだが、起きてから一度も自称女神の声を聴いていない。

それに不思議がりながらもギルド長の後に続いて朝食があるであろう場所へと向かう。

この出会いがクロエにとって面倒の始まりであった。

構想は出来ているのにキーボードが叩けない日々が続いていました。

更新速度は不定期です。あしからず。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ