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03.自称女神再び

03.『自称女神再び』



陽も落ち、夜へと切り替わった首都では露天が軒を連ねて仕事帰りの人達を誘っていた。

ハンターギルドもその例に漏れず締め作業の準備をしようと職員たちは帰れる時間は今か今かと待ちわびている。


「結局帰って来なかったわね」


「そうだなぁ。来ると思ったんだけどな」


クロエと会話した二人も書類の整理をしつつ会話をしていた。東洋の衣服だと推測できるものを着た言い知れぬ雰囲気を持っていた女性。

非武装でハンターギルドに現れるという非常識なクロエのことを心配していた。


「でも新人ハンターにはよくあることだけどね」


このハンターなら上位に上がっていくのではないかと勝手に思い込んで、結局帰らぬ人になった者など沢山いる。

クロエもそんな中の一人だったのだろうと思い、まとめた書類を机で叩き揃える。

そんな時にギルドのドアが開いた。


「あっ」


男性職員の言葉に彼女も入口を見れば、今話していた人物が入ってきたところだった。血濡れの状態で。

血はすでに乾いて、どす黒く変色しておりあの綺麗だった巫女服が台無しとなっている。髪も血の塊が付着していて固まり、全身を見れば敗残兵のようだ。

何より憂鬱そうな表情が悲惨な状況だったのではないかと想像させられる。


「あの、大丈夫ですか!?」


片付けた書類が散らばるのも構わずに女性はクロエに近寄り、どこか傷でも負っていないかと駆け寄る。

濃厚な血の匂いに表情を顰めつつも手が汚れるのも構わずに触れ、確認していく。


「別に傷はカスリ傷程度だから。それより精算をお願い。さっさと休みたい」


カードを出すとそれを女性に渡してフラフラとしながら近くの椅子に座る。その様子は今にも眠りそうなほど疲れきっていた。

受け取った女性はすぐにカードを男性に渡すと再びクロエの近くまで駆け寄る。


「一体何があったんですか。ただのゴブリン退治にしては時間も掛かっていますし、仮にそれが返り血だとしたら尋常な量ではないですよ」


殆どのゴブリンを首なし状態でなぎ払ったために血が雨の如く降り注ぐ中で戦っていたのだから血濡れなのは当然といえた。

だがそんな倒し方を本来はしないのだから、女性が心配するのも無理はない。戦いに負けて嬲られたのではないかと心配しているのだ。


「ちょっ、姉さん!」


「何よ!」


「その人、キング倒している」


苛立たしげに返事を返して男性からの言葉を聞いた瞬間に女性が固まる。キングとはその種の王であり、下級ランクのクエストよりも上のクエストでの討伐が推奨されている。

それを登録してたった1日、それもレベル1の人物が倒したなど信じられなかった。だがカードが不正防止をしているので嘘ではないことも理解する。


「どういうことか説明、……は今日は無理そうね。ともかくその格好から何とかしなくちゃ。シャワー室があるから案内するわ」


眠気で船を漕ぎ出しそうなクロエの腕を掴むと無理矢理立たせ引き摺るように連れて行く。シャワー室に着けば衣服を剥ぎ取るように脱がし、クロエを押し込みシャワーを浴びせる。


「換えの衣服は置いておくからそれを使って」


「は~い」


自分の着替えを置きクロエに声を掛けると気の抜ける返事が返ってきた。これで大丈夫だろう、幾らなんでもシャワーを浴びながら寝ないと彼女は思っていた。

クロエが脱いだ血濡れの巫女服を取ると魔力を流して魔術を行使する。便利魔法『クリニング』衣服に付いた汚れを落とし、清潔にするだけの魔術。

生活に密着した魔術もこの世界には存在する。逆に機械系の技術は未発達だといえる。

綺麗になったのを確認するとクロエの精算を任せている男性の元へと戻り、クロエが何を倒してきたのか確認作業を行う。


「この人、凄いな。ゴブリン89匹狩ってきているぞ」


「むしろボス6匹にキング1匹狩っていることに驚きね」


もう少しで100匹に届きそうな数を狩っていることに驚きを禁じえない。確かに戻ってくると予感はしていたがこの戦果は予想外もいいところ。

一体どんな技術を用いればレベル1でこれだけの数を狩り、あまつさえキングを狩れるのか。


「しかもレベルが19まで上がっている。ここまで上がれば急激な成長でまともに歩けないはずなんだが」


「しっかりと自分の足で帰ってきていたわね。何か色々と規格外過ぎない」


クロエの披露は何も神力を使って無理をしただけではない。レベルが上がれば身体能力も上がる。それ一気に10以上も上がっているのだから体調を崩すのも当然と言えた。

並みの者なら昏倒してもおかしくないはずなのに、クロエは疲れきっているとはいえ自力で帰ってきたのだ。それ自体も異常と言える。


「これ精算したら幾らなんだ?」


「クエスト報酬で3万、ボスが1匹1万、キングが30万といったところだから39万イルといったところね」


「初クエストでその金額は破格だな。キング討伐で当然ランクも上がるだろうし」


「そうねFからE。もう少し実績を積めばあっという間にDに上がるでしょうね。所でクロエさんにランクの話はしたんでしょうね?」


「えっ?姉さんがしたんじゃなかったのか?」


弟の答えに姉は額に手をやった。ランクの説明は必須事項となっているのにお互いにそれぞれが説明したと思い込んでしまったため失念してしまったのだ。

これだけでも減給扱いの失態に頭が痛くなったのだろう。相手を命の危険に駆り出すのだからギルド職員の規律は厳しい。

そこまで話していて気づいたが、あれから20分くらい経ったというの一向にクロエが姿を見せない。まさかと思い姉の方が駆け出した。


「本当に寝ているとは……」


温水を浴びながらあられもない姿で眠っているクロエの姿を見て、彼女は更に頭が痛くなった気がした。最初に見たときはクールで格好いい女性だと思っていたのだが、今はだらしない女性まで評価が落ちていた。

温水を止め、脱衣所まで連れ出すと体を拭き、髪を乾かしと甲斐甲斐しく介護を行う。あとは服を着せればいいだけということろで手が止まってしまう。


「しかし綺麗な肌ね。それにスタイルもいいし、胸だって……」


自分の胸に手を当てて溜息を吐きながら止まっていた手を動かす。替えの服、ジャージを着せている最中に一瞬胸の所でつっかえてしまったことに軽く殺意を覚える。

あとは巫女服を手に取り、背中にクロエをおぶると宿直室へと向かう。

この状態のクロエを流石に宿へと連れて行くわけにもいかない。今のクロエだとあまりにも無防備過ぎると感じたからこそ世話を焼こうと考えてしまったのだ。


「姉さん、今日は泊まっていくのか?」


「流石にこの状態でほっぽり出すわけにもいかないからね。ギルド長には私から説明しておくから貴方は帰りなさい」


「オッケー。両親には俺から説明しておく。しかしこうやって改めて見ると美人だよなぁ」


「そうなのよ。これで放置なんてしたらどんな目に会うか想像できるでしょう」


「俺なら迷わず頂きます」


そんな返答をする弟に冷たい目を向けながら宿直室のドアを開き、備え付けのベッドにクロエを寝かせる。基本的にギルド職員以外は立入禁止となっているのだが、緊急処置などの場合により部外者も利用することができる。

今のクロエを緊急措置で利用させていいのかは判断に迷うところであるが、前途有望なハンターを囲むことは悪いことではないだろうと判断してのこと。

何よりこれから事情を説明しに行くギルド長も了承するだろうと彼女は確信していた。


「借り一つですよ」


眠っているクロエに一声掛けて彼女は扉を閉める。ギルド長へと説明を行い、晩御飯をどこで食べるのか考える。

流石にギルドの中で強姦行為に及ぶような不貞な輩はいないだろうと思い、クロエのことはあまり心配していない。

それどころか明日、何を聞こうかと考えているほど。どんな返答があるかと楽しみに考えながらギルド長のいる部屋に向かう。



真っ白な世界。何故かクロエは再び自称女神が存在している空間にやってきていた。

テンプレ的なことを考えれば死ななければここには再び帰ってこないだろうと思っていたがどうやら違うらしい。


「それじゃ説明してもらおうか」


「偉そうにいえる立場だと思っているの?」


拳を握り締めて近づいてくるクロエに先程までの強気はどこへやらといった感じに後ずさりする自称女神。

半分神様にされたことも規格外の力を持たされたこともクロエは全く納得していない。だからこれからする折檻も意味のあること。


「いやいや、クロエの戦闘技術について説明するといったのはそっちのほうでしょ!」


「そういえばそんなことを言ったっけ」


ゴブリンを殲滅している時に確かに説明するといった気はする。でもここで素直に喋るのも面白くはない。それにまだ自称女神の目的も聞いていない。

遊び半分でこの世界に連れて来られたのであればすぐにでも殺してやると考えながら何を質問しようかと考える。

「ねぇ答えてよ」と駄々っ子のように喚く自称女神を放置しているが、段々と煩わしくなってきたので直球で聞くことにした。


「何で私達を呼んだの?貴方が世界に干渉すれば全て片が付くんじゃないの」


「そう簡単なものじゃないの。今この世界に襲ってきているのは異世界のなのよ」


「干渉とかじゃなくて?」


「侵略の方よ。最初はこの空間に狙いを定めてきたんだけどプロテクトを突破できなくて下層に狙いを変えてきたの」


「それが私達を呼んだ理由?」


「この世界の住人達じゃ異世界と戦うだけの力はない。でも貴方達召喚者達は専用スキルを持てるだけのスペックがあるの」


「つまりこの世界の住人達よりも潜在的能力が高いという事?」


「貴方の世界の人達全員という訳じゃないわ。そこは選ばせてもらったんだけど」


自称女神にとってのメリットはある程度の強さを持った手駒を未確認の敵に当てることが出来るという事。だがそれでも自称女神が直接手を下せばいいのではないか。

一々言うことを聞くかどうかも分からない手駒など当てにはならないはず。


「ちなみに私にも制約があって、下層への干渉はあまり許されていないの。誰にって聞かれても困るんだけど貴方達に分かると言ったら宇宙意思といったところかな」


「だけど異世界に干渉することは出来たんだ」


「私も駄目元だったんだけどね。それが許されたんだから私にも分からないわよ」


その宇宙意思というのは自称女神よりも権限が上であり、何をするのかは全く分からないということ。それだけ聞けば迷惑極まりない。

どうやら自称女神自体もまだどういった敵が攻め込んでくるのか分かっていないようだ。変なロボットとかは勘弁してほしい。

せめて生身で戦える相手を希望する。


「それで召喚できるんならスペック高い方がいいから選んでいたんだけど、クロエは妹より潜在能力低かったはずなんだけどなぁ」


「頭の出来なら負けていたわよ。私の取り柄なんて武術位なものだし」


「あっ、やっと話が戻った。それで一体前の世界では何をやっていたのよ」


「家系が特殊なだけよ。俗にいう退魔師を輩出していたから先祖伝来の技を継承しただけ。私は近距離担当、妹は遠距離担当てね」


「へぇ、じゃあ妖怪と戦ったこともあるの?」


「私はない。妹は両親に連れられて偶に行っているみたいだけど」


そう言葉を漏らすクロエは何処となく寂しそうな表情をしていた。優秀な妹に期待が集まり、それと比べられる不出来な姉。そういった関係だったのだろうと自称女神は考えていた。


「やっぱり親父を叩きのめしたのが悪かったかな」


「前言撤回。クロエも十分すぎるほど優秀だわ。というか仮にも師匠でしょお父さんは」


「本気で立ち会えって言われたから実戦形式の何でもありでやったら2週間位入院が必要になったんだよね」


逆にクロエの才能を怖がって無闇に実戦に連れていけなかったのではないだろうか。父親の威厳を保つためにも。

これなら姉妹揃って召喚した方が良かったのかもしれないと思ったが、クロエが自称女神が考えるような行動をしてくれるとも思えない。

やっぱりこういう繋がりの方がクロエとは協力体勢を結べそうだと考えた。


「そういえばシロエはどこにいるの?」


「妹ちゃんならエルフの所にいるわよ。事情は神託という形で伝えてあるから無碍に扱うことはないはずよ」


「ならいいけど。そういえば結局私がやることって何なの?ただ世界を歩き回ればいいだけじゃないでしょう」


「次元の歪を見つける事かな。私が見つけた場合は現場に急行してほしい」


「それだけ?」


「そこから敵が出てきた場合は対応してもらうから、その時は結構ハードかな。でもクロエなら性に合っている気がするんだけど」


確かに何の確認もせずにキングに突っ込むようなクロエである。正体不明の敵であろうとも一戦交えてくれると自称女神は期待しているのだ。

正直な所、前の世界で妖怪とか幽霊とかと関わっている所為で未知の敵と戦うことにクロエは躊躇がない。

それまではのんびりと異世界を満喫するのも悪くないかなと気軽に考えていた。


「何というか考え方も逸脱している気がする。普通は驚いたり拒否したり錯乱したりするもんだと思うんだけど」


「そういうのが好きなの?」


「もっと女神様を頼ってほしいというか、畏敬の念を送ってほしいというか」


「なら刀頂戴、刀。やっぱりあれがないと落ち着かないのよね」


「だから干渉は駄目だって言っているでしょう。でも置いてある場所を教えるのは有りかな」


「なら探しておいて。それじゃいい加減もういいでしょう。幾ら本体が眠っているといっても精神的に休みたいんだから」


「偶にまた呼ぶかもしれないから。やっぱり直接話をしてみるのもいいものね。暴力が無ければ」


「はいはい、いいからさっさと戻して」


「私の遠回しのお願いが。……それじゃお休み」


自称女神の言葉と同時にクロエの姿が白い世界から消える。それを寂しそうに自称女神は見ていたが途端に苦虫を噛み潰したかのような表情に変わる。


「何が刀位ならOKよ、クソ意思が」


自分よりも高位存在に悪態を吐きながら、なら最高の逸品を作ってやると決意した。正直な所、今の世界の武器で異世界の敵に対抗できるかどうか不安ではあったのだ。

聖剣や魔剣といった伝説の武器みたいな物は過去に作ってはいたが、それをクロエに取って来てもらうとなると時間が掛かってしまう。それにクロエがそういった武器を使いこなせるのかどうかも分からない。

なら本人の希望する通りの武器を用意した方がいいと考えたのだ。


「さてそうなると参考資料とか用意しないと」


こうして女神はまた異世界にアクセスして刀についての知識を探していく。クロエのいた世界からデータの抽出を行うが、やはり機械文明が発達しているため容易に資料を集めることができた。

あとはファンタジー的な要素を組み込んでクロエが驚くような刀を創り出すだけ。それを楽しみに自称女神は作業を開始する。


書いていてよく分からなくなってきた。

いややる方向は決まっているんだけど、予定と違ってきているのがちょっと。

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