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02.初クエスト

02.『初クエスト』



特に急ぐわけでもないとクロエは東の森へと歩いていた。森までは首都からそれほど離れていないために歩いて1時間もすれば着くだろう。

自称女神にあれこれと確認しつつ、素手でどうやって討伐していくのか考えている。何よりゴブリンといっても人間に近い姿をしていると思う。

それをクロエは平然と殺せるのかと考えていた。


「確認するけど私にはアイテムボックスとか所持品管理のスキルとかはあるの?」


『あるよ。というかこの世界の住人は大なり小なりアイテムボックスを持っているから。ちなみクロエ達転移者の所持数上限は無限に設定されているよ』


「それはありがたいけどね。もう一つ、素手で魔物と戦うことはできる?」


『格闘を主として戦うハンターもいるから不可とは言えない。でも特殊な格闘スキルを持っているから出来ているかな』


「特殊?」


『身体強化とか魔闘技とか。魔力を使って殺傷力を上げているという事』


「それは私にもできる?」


『魔力の扱いに慣れてさえいればいけるはず。取り敢えずステータスと念じてみて』


言われた通りに念じてみると視界の中にゲーム風の一覧が表示される。HP、MP、SP、スキル、称号と事細かに。

アイテムボックスの一覧も出てきたので何が入っているのか確認するのも簡単。今は何も入っていない状態だが。


『MPが魔力、SPが神力を表しているの。まぁ神力なんて簡単に扱えないだろうけど』


話を無視しながら魔力か神力なのか分からないが力を身体の中に流してみる。力の流し方は前の世界で修練を積んでいたので感覚的に分かっている。

全身に行き渡った力を今度は部分的な場所へと移していく。まずは腕へ流し、次に脚へ。一通り循環してから力を抜き、ステータス画面を確認する。


「減っているのがSPということは今は神力を使ったということかな」


『いや、何で魔力じゃなくてそっちの方を使いこなしているのよ!?』


小さい頃から神社が遊び場で大きくなってからは巫女として境内の掃除や祈祷なんかもやっていて、長くそういった場所にいたからかもしれない。

それにしても神力は燃費がいいと思う。身体に循環させただけとはいえ1ドットくらいしか減っていない。

これなら長期戦でも大丈夫だろう。魔力の方はどうだか分からないけど。


「それじゃ討伐にレッツゴー」


『私は納得していないんだけど!というか凄い棒読みでやる気が感じられないよ!』


ギャーギャー喚く自称女神をいつも通り無視して森の中に踏み入る。魔物が出ると聞いていて魔性の森かと思ったが、意外と澄んだ空気が満ちていて木々の隙間から日光が照らしてくれる。

隠れるのには不向きではあるが、今回の場合は好都合だろう。さっさと獲物を見つけて狩れるのだから。


「まずは採取から始めようかな。何かそこら中に生えているし」


ギザギザの草と表現すればいいだろうか。雑草の如く森の中に生えている。一応鑑定で確認してはいるが今の所外れの薬草は確認できない。


「それにしてもどう見てもアロエだな」


草を採取していけばトロリとした透明な液を垂らしている。これが薬の元となるのだろう。20束なんてあっという間に採取完了してしまうが、更に採取を行う。

一応自分用にも取っておこう思ったのだ。そして一段落してみれば。


「見事に囲まれた」


姿を現してはいないが敵意がそこかしこから感じられる。それがゴブリンなのかは分からないが、結構な数だと感じられる。

どちらにせよ探す手間が省けたのだから好都合。何より今の戦闘能力がどれほどあるかの把握することもできる。

死んだらそれまでだと考え、どちらにせよここで躓いているようではこの世界で生き残ることは出来ないと思っていた。


『先手必勝!』


「それは私のセリフだ!」


神力を身体に纏わせて一番近い茂みに隠れている魔物に突撃する。茂みを突破して確認してみれば子供くらいの体躯で醜悪な外見の魔物がいた。

ゲームのテンプレのような姿だから、これがゴブリンで間違いないだろう。

確認を終えるとそのままゴブリンの顎を蹴り上げ、追撃しようとしたところで足が止まってしまう。


「どれだけ飛んで行くのよ」


『ふっふっふ、神力を舐めないほうがいいわよ』


クロエは追撃を想定していたので全力で蹴り上げたわけではない。それなのにゴブリンは10mくらいの高さまで吹っ飛んでいた。

今更ながらに出鱈目な力だなと思いながら周囲を確認する。総数は12匹、だがどのゴブリンも吹っ飛んでいる仲間を呆然と見上げていた。

蹴り上げただけで上空に吹っ飛ぶなど初めて見たのだろう。そして自分達がとんでもない怪物を襲おうとしていたことを認識してしまう。


『もう少し力を入れていたら頭だけ飛んでっただろうね』


「グロい。でもいいや、それじゃ狩りの時間だ」


それから始ったのはただの殺戮劇。クロエの姿を見失ったゴブリンの頭部が次々と飛び、木々に当たって頭の中身を飛び散らしていく。

それに不快な表情を見せるもクロエは淡々と作業をこなすように頭部を蹴り、肘打ちを行い、殴り飛ばす。

とてもではないがレベル1の戦いではない。普通なら殴り隙を作って急所を踏み抜くなり、武器を奪って攻撃するはずなのだが、クロエの攻撃はどれもが致命傷となる一撃。

ものの数分で11匹のゴブリンを始末して、ワザと一匹を残しておいた。


『アイテムボックスの自動取得をONにしておいたから解体する必要はないよ。というか何で一匹残したの?』


「巣でもあれば潰しておこうかと。レベルアップの意味で」


12匹倒してレベルは4まで上がった。成長が早いのかどうかの判断はできないが、これからのことを考えるともっとレベルは上げておくべきだろう考える。

なにせ世界を旅するのだからドラゴンとか馬鹿みたいな強さの敵と相対することも想定しないといけない。


『思うんだけど、神力を使える時点でレベル関係ないような気がしてきた』


「でも人前でおいそれと使える力でもないでしょ。そうなれば自力を上げる方がいい」


こんな馬鹿げた力を人前で使ったら騒ぎになるのは目に見えている。極力使わないことに越したことはない。

魔力の扱い方は首都に戻ってから誰かに聞けば分かるだろうし、その為にもレベルを上げておいて損はないはず。

ある程度の距離をおいてゴブリンを追走しながら自称女神と話していく。神力については自称女神にとっても想定外なのだろう。

クロエ自身もこの力はチートだと思う。奇しくも自称女神が言っていていた俺TUEE状態になってしまったことに軽く後悔している。


「あの巣穴かな」


『ゴブリンって地面の中に住んでいるんだ。私も初めて知った』


「おい自称女神。自分で作っておいてそれはないんじゃないか」


『生態系まで構っていられないわよ。この世界に何万種の個体がいると思っているのよ』


確かに一々全部を管理していたらキリがないだろう。そんなことを考えながら巣穴を観察していると逃がしたゴブリンが巣穴から吹っ飛んできた。

その後に他のゴブリンよりも体躯がよく、鎧を着込んだ一匹が姿を現した。


『ゴブリンキングだね。さっき逃げ込んだゴブリンの報告を聞いて憤怒状態かな』


「どんな状態だろうとやることは変わらない」


キングの後から続々と普通のゴブリンが出てくるが、その手には短剣や剣を持っていた。どうやら油断せずに蹂躙した輩を殺すつもりのようだ。

だがそれはクロエにとって好都合。武器は奪って使えばいいし、売ってお金にすることも出来るだろう。正直これだけの数を殲滅するのは骨が折れるだろうが生活の為にも刈り取るしかない。

すでに殺すことに対して戸惑いも拒絶感もない。クロエはやっぱり私はこういう人間だったと納得していた。


『流石にこの数は無理なんじゃない?軽く50匹くらいはいるよ。負ければ殺されるか犯されるか、どちらにせよ最悪な未来かな』


「それでも行く。この程度の障害で躓いていたら駄目だと思う」


隠れていた場所から飛び出し再び殺戮を開始する。これだけの数だから止まった瞬間に囲まれてしまう。そうならないために動き続けながら首を飛ばしていく。

集団の中を突っ切り、反転して更に突っ切る。通常のゴブリンはクロエの動きについていけずに右往左往するだけだが、何体かは動きを見られていた。

2回目の反転時に嫌な感じを受けて、突っ込まずに横に跳んだ。先程までいた場所に火球が着弾、地面が炎上していた。


「魔術?」


『そうね、初歩的な火魔術。キングの後ろにいる数匹が魔術特性でもあるんだろうね』


確かに3匹ほど掌に火球を創り出して、クロエに狙いを定めている。狙われないために群れの中に突っ込むが火球は構わず投げ込まれた。

同士討ちも構わないその行動に舌打ちをしつつ地面に着く前に火球を蹴り飛ばす。それだけで火球は消し飛び、蹴りに巻き込まれたゴブリンは胴体を捩じ切られたかのように内臓を飛ばす。

今度は突っ切らずに嵐のように駆け回り、通常のゴブリンを駆逐し、放たれる魔術は全て消し飛ばしていく。


『いや出鱈目すぎでしょう。動きが明らかに素人のそれじゃないんだけど』


「あとで説明する!今はボスを倒すよ!」


雑魚の掃討は粗方終わり、残るはキングとその後ろに魔術タイプのみ。キングを倒さないと後ろにいけそうにないのでクロエは一撃を加えるために剣を拾い上げて地面が爆ぜるのを構わずに踏み込む。

それだけの速度を出したのだがキングは明らかにクロエの動きを追うことができていた。正面から突っ込んでくるクロエに上段から振り被った剣を叩き付ける。

それはクロエの予想通りの動き。だからさらに踏み込み速度を上げ、懐に入り込む。


「残念」


一言を残して鎧の覆われていない首に剣を叩き付ける。刀ならば一刀両断する自信がクロエにはあったのだが、手入れもされていない剣は首を断ち切った時点で折れてしまった。

使い物にならなくなった剣を放り棄てて魔術タイプを狩る。キングが倒されたことに驚いている間に頭を吹っ飛ばしたので対した手間も掛からなかった。

周囲を確認し骸しか残っていないことを見たクロエは纏っていた神気を解く。その瞬間、ドッと疲労感が押し寄せてきた。


「これはキツイ」


『そりゃ低レベルであれだけ動けば身体に悪いわよ。増援も出て来ないようだし、首都に戻ったらいいんじゃない。どうせ魔核とか戦利品は全部回収済みなんだし』


「そうする。凄い気持ち悪い」


手に残っている感触も、返り血も周囲に漂う濃厚な血の匂い全てが不快感として襲ってきて、クロエは溜まらず胃の中のものを吐き出した。

殺している最中には何も感じなかったのに、終わった瞬間に精神的にくるとは都合が良すぎると自嘲気味に笑ってしまう。

やっぱり自分は最低な人間だと思いながら。


『それじゃちゃっちゃと戻ろう!』


「無駄に元気がいいのがムカつく」


流石に折檻する気にもならないので放置することにした。気分的に沈んでいるのもあるが、動くのが億劫なほど疲労が溜まっている。

これはおいそれと神力を使って無茶は出来ないなと考えながら来た道を戻る。

お風呂に入りたい、そのまま寝たいと考えながら疲れ切った身体を引き摺りながら首都へと向かう。

自称女神はそんなクロエの姿をあの空間から眺めながら思わぬ拾い物をしたとほくそ笑んでいた。

アロエヨーグルト食べたくなりました。

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