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プロローグ

・プロローグ



眩しい閃光で視界が焼かれ、気づけば真っ白な世界の中にいた。

何もない真っ白な場所、地平線まで白で染まり、空も真っ白。

彼女はそんな中に立ち尽くし、周りを見渡した。


「ふむ」


一つ頷くとそのまま横になり、目を閉じると眠りだす。


「ちょっと待てー!」


その眠りを妨げるように甲高い声が白い世界に響き渡る。

不快そうに瞼を上げると目の前には幼女が仁王立ちしていた。


「普通寝る!?こんな場所に来て最初にすることが寝る事なの!?」


「いや、さっぱり状況が分からないから寝る以外にないかと」


「そうだけどさ!慌てたりとか虚空に叫ぶとかないの?」


「それこそ無駄じゃない。それに眠いし」


大きく欠伸して再び横になろうとする彼女に幼女が慌てる。

本当なら立場が逆で彼女が慌てているところに神秘的な演出で現れる予定だった。

それが彼女の行動で全てが崩れてしまった。


「いや寝ないで!状況の説明とかするから」


「別に後でいいんだけど。眠らせて」


「居座ろうとするなー!ぐがっ!?」


安眠妨害で不機嫌になった彼女のアイアンクローが幼女の顔面を鷲掴みにする。

ギリギリと嫌な音を立てながら幼女を持ち上げて不機嫌さを隠そうともしない。

そのまま振り被ると、力任せにぶん投げる。


「これで静かになる」


「あり得ない!女神を投げるとか何なのよ!」


「早い戻りね。それにしても女神ねぇ」


「何よ、何か言いたいわけ」


「そんな幼い容姿で女神とか言われても説得力がね」


「容姿は関係ないでしょ!ならこれでどうだ!」


何もない場所にテーブルとティーセットが現れる。お茶請けも完備。

こんな不思議な現象でも彼女は少し表情が動いただけでそれ以上の反応はなかった。

それが自称女神は気に入らない。


「何で反応が薄いのよ」


「いや、この世界の方が不思議だから」


「確かにそうだけど。……何かもう疲れた」


グデーとテーブルに突っ伏すと諦めたように自称女神が呟く。

それを見つつ彼女は勝手にティーポットから紅茶を入れて飲む。

ポリポリと備え付けのクッキーを食べ始め、紅茶で流し込む。


「私、紅茶より珈琲派なんだけど」


「飲んでから言うな!」


「それで何か私に言うことあったんじゃないの?」


「うぐっ」


正直彼女はあまり自称女神の話に興味はなかった。ありのままを受け止めるなら自分が死んだ可能性だってある。

ただ最後に覚えている光景は妹と一緒にいたこと。事故とかではないと思う。

だけどなら何でこんな場所にいるのか分からない。


「えっと、こちらの手違いで異世界に呼んじゃいました」


「へぇ」


「えっ!?それだけ?もっとこう文句を言ったり驚いたりする場面じゃない?」


「それで状況が変わるのならやるけど、そうじゃないんでしょ?」


何もなかったようにすることだって出来たはずなのにそれをやらないということは、出来ないという事。

つまりここで幾ら文句を言ったところで無駄なのだ。戻れないということに変わりはないだろう。


「うーん、本当は貴方の妹を召喚するつもりだったんだけど、魂が似ているからかな。貴方も一緒に引っ張られたみたい」


「それで私は帰れるの?」


「無理♪おぼぉ!?」


軽い調子で答える自称女神の側頭部にティーポットを叩き付ける。熱湯と打撃によるダブルパンチでのた打ち回る自称女神を尻目に彼女は溜息を吐く。

これからどうしたものかと。そしてこの自称女神が凄いムカつくこと。


「それで私に何をさせたいの?」


「どういうことかな?」


キョトンとしている自称女神。だけど彼女は勘づいている。彼女自身を邪魔だと判断しているのであればすぐに彼女を消すことができることを。

それをせずに接触してきたということは彼女に何か役目を与えようとしている。


「気づいているならいいや。ちょっと地上の様子を探ってほしいのよ。転移者の様子とか世界の実情とか」


「言うなれば自由に過ごせということね。世界さえ回れば」


「そういうこと。でも今の身体能力じゃ世界を回るのは無理ね。しばらくはレベルアップに勤しんだ方がいいね」


「まるでゲームね」


「貴方達の世界のゲームをモチーフにしているからね。レベル有、スキル有、称号有とシステムはほぼ同じかな」


魔法も精霊もゲームに存在しているファンタジー物は網羅していると目の前の自称女神は零していくが、彼女は頭を抱えている。

異世界だというのは想像していたが、その原点がまさかゲームだとは思わなかったのだろう。


「この程度で驚いていちゃいかんよ。数多の世界には想像もできないものだってあるんだから」


「いやそんな情報はいらない。取り敢えずスキルとか貰えるの?こういうのでは定番でしょ」


「転移者たちに渡しておいて貴方に渡さないというのも不公平だからね。希望を言ってみて。それを反映させるから」


そこで彼女がニヤリと笑ったのを自称女神は気づけずにいた。頭を抱えた状態だったから見えなかったのだろうが、彼女はとんでもないことを考えていた。


「武術と魔術と神殺しと鑑定は必須で、あとは鍛冶に興味があるかな。それに精霊系統で何かある?」


「武術はそのままでいいかな、魔術は全属性魔術素養で神殺しもそのままで、鑑定もそのままだね。鍛冶は武器や防具の作成。精霊に関しては……、今凄い物騒なスキルなかった!?」


「何のことか分からないな」


「いや、ステータス確認すれば分かることだから。うわぁ、自分で付加しておいて何だけど本当にスキル有効化されてるよ」


「別に自称女神を殺すつもりはない。ただの保険よ」


仮に目の前の自称女神と対立した場合における保険。これがあるかないかで状況は大分変わるだろう。効くかどうかは分からないが。

それでも一瞬で消されることはないだろうと思う。


「付けたものは仕方ないか。精霊に関しては精霊の加護を付けておくよ。これで精霊との交信もできるから」


「あとは自分なりに交渉して契約しろということね。最初から精霊を貰えるとは思っていなかったからいいけど」


「最初から俺最強!とかなってもつまらないでしょう。他の転移者たちはそれを望んでいたけど」


そうなってしまえばゲームとしてはクソゲーになること間違いない。麦を刈るように敵が死んでいくのに楽しさはないだろう。

ただしゲームならばだ。現実となればクソゲー万歳だと思う。


「私の妹も?」


「凄い真面目っ子ちゃんだったね。合理的なスキルを選んだから俺最強!という構成ではなかったかな」


「だろうね。それじゃ貰うもの貰ったし、ちゃっちゃと地上に下ろしてくれるかな」


「最後に私のサポートはいらないかな。あると便利よ」


「いらない。喧しいだけだと思うし」


「そこを何とか!女神の加護という特殊スキルも付くからさ。土下座でも何でもしますから」


有言実行かすぐに自称女神は地面に頭を擦り付ける勢いで土下座していた。同情を引くつもりなのだろうが相手が悪かった。

徐に椅子から立ち上がると足を自称女神の後頭部に置くと踏みつける。それには自称女神も引いた。


「目的は?」


「だってここ何もなくてつまらないのよ。私にも娯楽を提供してよ」


段々と踏みつける力が強くなってくることに自称女神も焦るが、これだけは譲るつもりはないのか全く弱気を見せない。

それに覚悟を見たのか彼女は溜息を吐きつつ、足を退ける。


「邪魔だと思ったら契約破棄するわよ」


「呪いのように張り付いてやるから大丈夫!おぶっ!?」


物騒なことを喋るので拳骨一発食らわしておく。頭を押さえて蹲る自称女神にもう一発食らわせておくかと拳を構えると四つん這いになりつつ自称女神が距離を取る。

仕方なく拳を下ろしておいでおいでをすると自称女神は怖がりながらも近づいてくる。


「大丈夫、怖くないよう」


「いきなり暴力振るう人が怖くないわけないでしょう!」


「自分の言動を鑑みなさい。誰だって殴るわよ」


「普通は言葉攻めだと思うんだけど、直接暴力はちょっと違うと思う」


「いいからさっさと地上に下ろしなさいよ。いい加減ここにいるのも飽きてきたんだから」


「それじゃこれを付けて。それが貴方と私を繋ぐ魔導具みたいなものだから」


渡されたのは青い宝石が嵌ったイヤリング。それを彼女は左耳に着けると確認の意味を込めて自称女神を見る。

それを確認した自称女神はにんまりと笑うとあることを忘れていたことを思い出した。


「そういえば名前を聞いていなかったね。世界録に登録しないといけないから教えてくれないかな」


「会津 黒江。こちらだとクロエ・アイズになるかな」


「ならクロエ、ようこそ異世界クロルエルへ」


「来たくて来たわけじゃないけど、楽しませてもらうよ」


こうして巻き込まれた彼女、クロエは異世界への旅を決める。これからクロエが何をしていくのかは歴史の中に刻まれていく。

数々の呼び名を与えられ、最終的にはクロエの名を知らない人はいないが逆にクロエの姿に関しては憶測が飛び交っていた。

それが何故か、自称女神が暗躍しているからだろう。

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