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借り物学園祭!

恋愛要素は薄いです





 楽しげな音楽。行き交う人々。

 烏が丘学園は本日学園祭です。学校の人口密度はいつもの倍以上に跳ね上がり、テンションは天井知らずで上がりまくりです。

 そんな日に、難儀なこともあったもんです。


【人探しと、参りますカー!】





1 ハーゲンダッツ





 学園祭2ヶ月前。バスケ部は学園祭の出し物について、教室で話し合っていた。


「意見がある人ー!」


 勢いよく手を挙げながら大教室中の部員たちを見渡す鴎崎部長。呼びかけに応じ、次々を手が上がる。


「模擬店!」


「コスプレ喫茶!」


「執事喫茶!」


「お化け屋敷!」


「バンド!」


「招待試合してー!」


「無難に公開練習!」


「ともかくモテる奴!」


「帰りたい!」


「部長のヘタレ!」


「……なんか本音も混じってたろ、今」


 ホワイトボードに書き留めていた駒鳥副部長が、部長のヘタレも書きながら苦笑混じりに言う。


「みんなまじめに考えてくれよ!!!うちの文化祭は、毎年まだ部活に入っていない中1が部活を品定めする場でもあるんだ!一人でも多くの部」


「エクソシスト村」


 はい、と手を挙げて鴎崎の話をぶったぎった声に、駒鳥も思わずエクソで書くのを止める。


「誰だ……?」


「女の子の声が……」


「幻聴か…………!?」


「男だらけの空間に精神が異常をきたし……!!」


「それに部長もヘタレだから……………(笑)」


「それに副部長も彼女にフラれたから…………(哀)」


「……お前等それ以上言ったら、俺人間やめっからな」


「こ、駒鳥!おちゅちゅけ!」


 部員たちがざわつく中、発言したのはいつの間にか紛れ込んだ赤菜その人で、黒夜は青ざめながら彼女を引っ張って部屋の外に出ようとする。


「イヤーーーー!乱暴シナイデー!」


「ああ!燕が少女に暴力を振るってるぞ!」


「マタハラだ!」


「パワハラだ!」


 わざとらしい悲鳴に部員たちが黒夜を取り押さえる。その隙に赤菜は駒鳥のところまで移動し、こそこそとささやく。


「シュタッ!駒鳥副部長、ヨーポッラに古くから伝わってたり伝わってなかったりするエクソシストの町、是非とも文化祭の出し物に……!」


「だめだめ却下だよ。というか君なんでここにいるの?中1だし、そもそもバスケ部員じゃないでしょ?」


 ヘタレと違ってまともな頭の駒鳥は、赤菜の意見を一蹴する。ちなみに普段はもっと優しいが、フラれたばかりで少し心が狭


「いつも通りだよ!!」


「そして、相当ショックだったのか怒りっぽくもなっている駒鳥を、鴎崎はスタイリッシュにアシストし」


「黙れヘタレ部長がぁああ!!」


 キレた駒鳥はホワイトボード消しで鴎崎の脳天を打ち抜き、結局鴻のしきりでバスケ部はメイド喫茶をやることになった。


「なんでこうなった!!」


 部員の誰一人として求めていなかった結果に、部員一同で叫んだが、鴻はしれーっとメイド喫茶と書かれた上に丸をつける。


運命さだめっすわー」


 実は鴻がハーゲンダッツでつられたスパイだとは、バスケ部員は誰も知らない。





2 テスラコイル大爆発





 こちらも同じく学園祭2ヶ月前の料理部。

 彼らも学園祭に向け奔走していたのだが、彼らの走っている方向はほかの団体とは少し違っていた。


「なんッッッッッッとしても陸上部のメイド喫茶を阻止するぞ!!」


 鴻空部長の雄叫びに、部員一同おおーー!と拳を突き上げ雄叫びをあげる。


「で、なんでですか部長?」


 部員全体の質問を青葉が代弁する。


「今メイド喫茶をやられると………困るんだよォォ。大人の事情があるから理由はいえないケ☆ド」


 教卓に飛び乗ってorzになっている空が言う。


「とりあえずうざいから一発電撃りたいね」


「黄果、奇遇だな。おれもだ」


 そこはかとなくリア充臭漂うウザイ部長は部員たちから物騒な空気が向けられつつも、全く動じず教卓の上に仁王立ちになり、話を続ける。


「ま、それに関してはおそらくエージェントグレーに任せといて大丈夫だから」


(灰のことだな)


(弟を悪用してるね)


「文化祭でやりたいことあったら、テキトーにやって良いから。一応何やるかだけ教えてくれれば」


 放任、というか放棄しちゃった部長は、それだけ言うとかいさ〜んと言って鞄の中から子供も大人も見ちゃいけないような原稿を取り出した。


「青葉姉、何する?」


 こんな適当なこといつものことなので、青葉と黄果は勝手に自分たちで何をするか話し始める。


「おれは剣道の招待試合でもしよっかなー。武道館借りて」


「武道館は、確か軽音楽部がもう借りたって、盗聴したよ?」


「あ、まじかー。じゃあ体育館一個借りりゃいいいだろ」


「うちの学校体育館多いかんねー♪」


「そういう黄果はなにすんだ?」


「ボクは科学部と一緒に演示実験やるんだー。ジアゾカップリングと気液平衡を利用した虹色殺人事件って奴」※こんな実験無いです


「なんかわかんねえけど楽しそうだな!」


「そっちはもう場所も材料も用意してるんだけど、二つ目の、テスラコイル大爆発に参加してくれる検た……協力者がいなくて…」※これもないです


「黒夜誘えよ。たぶんうまくいくぜ。ところで部長は何するんですか?」


 いつも通りひどい会話を繰り広げながら、青葉はいつも通りひどい内容のマンガを書いている空に質問した。


「私か?私も体育館で招待試合をしようと思ってるよ」


「種目はなんですか?」


「秘密だ」


 ええー!と不服そうな声を上げる後輩を見つつ、いつも通り良い子たちー☆とか思い、空は触手の影を書いていく。


「すいませーん、青葉いますか?」


 基本的に自由人の集まりな料理部に、自由人に振り回されやすい霊感ヘタレ少年が現れた。


「黒夜じゃんか、どうしたんだ?」


「黒夜クーン、テスラコイルで爆発してーー♪」



「赤菜がまたバスケ部に忍び込んでたんだ。引き取ってくれ!」


 首根っこを捕まえて持ってきた赤菜を扉の所までやってきた青葉に引き渡す黒夜。無視された黄果はぷくっと頬を膨らませてやけに大きいカバンの中を漁る。

 ワンテンポ遅れて空も来客に気付いたらしく、手を止めて扉の方を見る。


「おやおや、誰かと思えば先日の心霊少年じゃないか。それにあのたわしちゃんも」


「たわしちゃん?」


 聞き覚えのない呼称に、自分の事が呼ばれたらしい赤菜は首を傾げる。


「翠がそう呼んでいたぞ。自称がたわしだからって」


(そうだっけ…?)


 説明されても見に覚えのない赤菜はさらに首を傾げていく。


「あ、そういえば料理部は文化祭何するんだ?」

 

 丁度自分たちが先ほど出し物が決まった所だったので、黒夜は何気なく青葉に尋ねた。


「うちは各自でテキトーに」


「ははっ…料理部らしいな」


「バスケ部は?」


「黒ちゃん先輩達は女装してメイド喫茶ですよ(笑)」


 するりと黒夜の手の中から逃れた赤菜がにやにやしながら青葉の背後に隠れながら答える。


「っっっっっっしゃああああああああ!!!」


 するとメイド喫茶という単語に反応し、空がそれまでは後輩を見守りながら卑猥な原稿を作っているお姉さんだったのが、後輩の言動に奇声を上げている卑猥な原稿を作っているお姉さん(笑)になった。


「GOOD JOB!!エージェントグレー!!」


(バスケ部にメイド喫茶をやらせることによって、陸上部のメイド喫茶を回避したんですね部長!さすが人でなしです!)


「え、エージェントグレー?はっ!まさか鴻姉弟の陰謀?!」


 ようやく鴻姉弟の罠にかけられたことに気づいた黒夜は、巧みな(?)チームプレイにただただおののく。

 おののいている黒夜は放置して、赤菜は青葉にバスケ部での出来事を言いあげる。


「エクソシストシティーがいいって提案したのに、取り合ってもらえなかった!」


「意味不明な出し物提案してんじゃねえよ!だいたい名前ちょっとずつ変わってるし!!」


「ソ、ソンナ事ナイヨ。楽シイヨネ?アオバネエ」


「超楽しいよな!それ!!」


「青葉…!お前それの内容知ってんのか!」


「知らねーよ!(ドヤァ)」


「やっぱりテキトーじゃねえかぁああ!」


「ワーン、黒ちゃん先輩がいじめるよー(棒読)」


「おいこら黒夜!おれの赤菜を苛めてんじゃねえよ!!」


「いいいいいいじめるなんて滅相もない!だからその拳をグハァ」


 結局黒夜の完敗でこのやり取りは終わり、後輩のやりとりにも飽きた空は触手のベタを塗っている。


(俺は間違ってないのに……なぜアウェイに……!)


「それは黒夜クンがこの場では相対的に変人に位置づけられるからだねー」


 見事な腹パンを決められてしゃがみ込む黒夜に、カバンから怪しげな機械を取り出した黄果が心を読んで答える。


「心を読むな!プライバシーの侵害だ!」


「プライバシー?このマシンを使えば心の中なんて透けてるようなもんなのに、見せつけといてプライバシーとか言っちゃいますー?」


「マシン使って見てんなら、双眼鏡で向かいのお姉さんの裸をのぞくのと同じだよ!アウトォォ!」


「ぐぬぅ……」


 珍しく黒夜が言い負かしたとき、空の携帯がライオンを歌い出す。


「もしもしー、え?そんなん知らないし、はぁー?人形とかうちの部活でもいらないし!!はあああ?!てめえピーーーをピーーーしてピーーーでピーーなピーーーーーーーー」


「ぶ、部長…?どしたんっすか?」


 電話をとるなりとても公共の場には晒せないような言葉を電話に吐きかける空。その場の全員を代表して青葉が部長に声をかける。


「………あー、なんでもないぞー(棒読)ちょっと実行委員シバいてくっから、好きに帰っていいぞー」


 バイバーイと手を振りながら教室を出ながらそう連絡すると、空は扉を閉めた瞬間ゴォッと風を切って走り去る。


「帰ろっか」


 黄果の一言で、今まで恐ろしく暇だったことに気づいた4人は、帰路ついた。





3 アウト





「じゃ、うちの部活はお化け屋敷ってことで」


「もっとモテるやつにしようぜ!」


「脅かす振りして女の子に触れるからいいんじゃないの?」


 ただいま学園祭1ヶ月半前。

 書記兼進行役を務めていた女子マネが首を傾げながら聞く。


「そうじゃねえんだよ!」


「俺たちはモテたいんだ!」


 総体でも上位を独占している鳥が丘学園陸上部。強豪でありながら、“かっこいいのに何故か彼女持ちの少ないバスケ部”とは違って、かっこよくない→モテない→彼女とかいるわけ無い(笑)の陸上部のゴリr…部員たちは、文化祭に向けて、モテるために全力を尽くしていた。

 文化祭の出し物は、自分ではなく目の前の男たちが中心でやるので、さして拘りの無い女子マネは、めんどくさいと内心でつぶやく。


「お化け屋敷にしようよー。喫茶店とかはバスケ部がメイド喫茶をやるっつってたから、被るしさー。体育館借りるても料理部にはインパクトで負けるしさー。おっぱい揉んでこーぜー」


「マネージャーは女の風下にも置けねえなぁ!」


「てかおっぱいとかいうなよー」


「バスケ部と被るのがなんだ!俺たちは俺たちのやりたいことをすんだよー!」


「そうだそうだ!バスケ部なんかに屈してたまるか!」


「ええーーー。イケメンに張り合いたいのあんたらー」


 恐ろしく投げやりな女子マネに部員一同ブーブーと文句を垂れる。


「お化け屋敷もモテるってばぁ!!ぬりかべLOVE的な」


「さすがにお化け屋敷はモテないんじゃない?いきなりボディータッチしてくる男とか、マネージャーもいやでしょ?」


 ギャイギャイわめく部員の中で、一人物静かな声で女子マネに話しかけた。


「そんなん嫌に決まってんじゃん!でもさ、そんな文化祭で簡単にモテたら世の中、秋口はカップルラッシュなはずじゃない?」


「うちの文化祭は春だけどね」


「ともかくさ、適当に楽しんでこーよ!他にこれってのないんでしょ?あたしはお化け屋敷がやーリーたーいーのー」


「……たしかに、対抗心燃やしてるだけで別段やりたいわけではないだろうね」



 小柄で眼鏡をかけ、一見運動よりも古典の方が得意そうな鶴森は、ぶーたれているマネージャーに、結局は賛同した。


「鶴森!裏切るのか!!」


「そんなんじゃないよ」


「こいつ、彼女が出来たから漢の心を忘れっちまったんだ!」


「そ、そんなんじゃないよ!」


「リア充めェ………(呪)」


 最近何度も向けられている部員たちからの呪詛の視線に、鶴森はたじろぐ。

 先日、女子に認識されてるかも怪しいような鶴森に、彼女が出来たという話が陸上部にも知れ渡り、ここしばらく針のむしろなのだ。


「噂って本当だったんだ。料理部部長に大輪の花とともに求愛されたっての」


「…………間違ってはいないかな」


 照れたように笑う鶴森に、女子マネは少し面白くないような表情を浮かべたが、すぐに部員たちの方に向き直り、他に具体案がある人〜と部員たちを見回す。


「あ、そうだ」


 鶴森はふと思いついた意見を女子マネに告げた。



「で、結局何に決まったんだ?」


 週末、空の部屋で鶴森に空は尋ねた。


「秘密。バスケ部関係者には言うなって言われてるんだ」


 ちなみに、あれほど忌避していたおうちデートに、何故鶴森が現れているかと言えば、前日の金曜日に鬼気迫った様子の空から、絶対やらしいことはしないから土曜日うちに来て欲しいと懇願されたからである。


「必死で頼むから何かと思って心配してきてみたら、BL同人のアシスタントだもんな〜」


 女装している主人公(男)の下書きの線を消しながら、鶴森はぼやく。

 もちろんやらしいことはしないと厳命されていたので、イチャイチャするのを期待していたわけではないが、♂×♂の原稿を手伝わされるとは。あんまりにも色気がなさ過ぎである。


「おや、BLなんて言葉を覚えたのか!」


「そりゃ、毎日毎日マンガを貸され続けましたからねっ!」


「ちゃんと読んだんだな!えらいぞ〜」


「あれって、意外と、普通に恋愛ものっぽいんだね」


「そりゃ、ボーイズのラブだからな」


「でも、少女マンガよりも絵がちゃんとしてる気がしたな。顔の輪郭もだぶってないし、背景も真っ白じゃないし」


「茶乃、意外と細かいところが気になるんだな」


「空ほどおおざっぱな人間が少ないんだよ……」


 手を動かしながら二人が話していると、ノックもなしに灰が空の部屋に入ってきた。


「普通に作業してる………」


「締め切りが迫ってるんだ!今回は最低でも後一冊出したいんだ!!」


「おじゃましてます」


 手に持っていたお菓子とジュースを、原稿が濡れないところに置くと、灰はそのまま姉のベッドでごろごろし始める。


「ごーろごろ」


「灰、暇なら消しゴムかけろ」


 普段ならば部屋からすぐに追い出すところなのに、空は作業を一切止めずに灰にそう命じる。


(切羽詰まってるなー)


「ところで空、君、灰くんにバスケ部のスパイを命じたんだって?」


 唐突にそういわれ、空は思わずギクリと言ってしまう。


「灰!貴様!」


「ゴデバで買収されてもうた、テヘペロ」


 作業の手は止めずに空が灰に殺気をとばす。悪びれずに姉の原稿のインクを乾かしている灰。


「ちょっと手段を選ばなさすぎじゃ無い?バスケ部の女装が見たくたって、そこまでしちゃだめでしょ」


 灰から受け取った原稿に消しゴムをかけていく鶴森の言葉に、空は自分の真意がバレてないことに気づいて、小さくガッツポーズをする。


「よし!今度のコミケの売り子をするときに、茶乃がモデルのキャラがメイド服で女装するから、同じ格好をさせて赤面させようとしていて、学祭なんかでやられたら下手に慣れて恥ずかしがらないだろうと懸念したことは、さすがにバレてない!やったね!」


「今バレましたぁあああ!」


「心の声、出とるで」


 本音が全部口から出てしまい、空は思わず息を呑んで口を塞ぐ。


「メイド服って、今僕が消ゴムかけてるこの原稿のことだろ!?やっぱしこれ僕か!!通りでストーリーに見覚えがあると思ったよ!!!」


 しかも茶乃のことを勝手にオリジナルの『ナンセンス×プラトニック』という同人のモデルにしたこともバレてしまい、絶体絶命。


「アウトやな」


「………しかし、その程度の逆境で私は屈しない!!」


「屈しろよぉお!!」


 しかしこの程度でめげるほど空は気弱な性格はしていなかった。


「と、いうわけで生クリームプレイの資料(写真)のために脱げ!茶乃!!」


「や、やらしいことはしない約束だろ!?だいたい弟の前でよくそんな」


「頼まれとったクリームはお盆のとこやから」


 椅子から飛び降りて下で作業していた鶴森をねじ伏せる空。鶴森は灰を盾に逃れようとするが、イチャイチャ(?)し始めた姉たちを見て灰はスルリと部屋を抜け出した。


「な、なんであらかじめ用意してるの灰くん!!」


「虎屋の大棹羊羹で買収されてもうた☆」※一本5000円の羊羹


「そんn」


「堪忍しろぉお!」


「アーーー♂」


 灰は、防音対策が万全の姉の部屋の扉を閉め、同時に脳裏によぎった知り合いの顔に、ため息をついた。


(成るように成るんだけどなぁ……)





4 強襲的招待試合





 紆余曲折を経て文化祭当日。開始してすぐに、広大と言われるほど広いはずの校内は生徒と一般のお客さんでごった返す。


「軽音楽部からのお知らせです。軽音楽部では、12時から、武道館にて、オリジナルソングと誰でも知ってるJ−POPメドレーを演奏します。お気軽にお立ち寄りください」


 放送委員の黒夜は、BGMのリクエストの受付と、早くも増え始めた落とし物の処理でてんてこまいである。


「スーパーカップの蓋とか、落とし物じゃなくてゴミでだろ?!あとガリガリ君のはずれも!」


「忙しそうでなによりだな」


 嫌がらせめいた落とし物の数々に悲鳴を上げている黒夜のところに、同じバスケ部の鴉里が現れる。


「そうかクロ、お前は委員会が忙しくてメイド服は免除だったんだな」


「桃士、お前、喫茶店は?」


 制服は着崩しているのに、首からはれっきとしたロザリオをかけた桃士は、ヘラヘラと話しかけてきたが、黒夜に尋ねられると急に静かになった。


「人生では、時に逃げることも必要だと思うんだ……」


「女装が嫌で逃げてきたのか」


 どこか遠くを見るような目つきでそう告げる鴉里に、黒夜は意外と冷めた態度で指摘する。


「ん?駒鳥先輩からLINEだ」


 黒夜がバイブレーションで通知を告げる携帯を見るのを見て、鴉里はおそらく逃げ出した自分を捜しているだろう怒れる副部長を思い出して、あばよ!と言い残して走って逃げた。


(部長ぐらい顔がよかったらそこそこ絵になるけどよ、普通の運動部員が女装したってきもいだけだろ!)


 心底灰のことを恨みながら、鴉里は学園祭のために立ち入り禁止の札の掛かっている物置に隠れる。


(ひとまず一安心……)


 ふう、と息を吐きながら、鴉里は置いてあった椅子に腰を下ろし、何気なく物置を見回し、驚いて目をぱちくりさせた。


(何故ここに、幼女……?)


 物が積み重なり、山となったのの麓のところに、3歳ほどの少女が体育座りしている。先ほどから鴉里の顔をじぃっと見つめる彼女は、鴉里がそちらを向いても、一言も発しない。


「お前、どうしてこんなところにいるんだ?ここ立ち入り禁止だし、お母さんかお父さんは?というか名前は?」


 しばし少女の動向をうかがった後に、鴉里が矢継ぎ早に質問するが、少女は相変わらず黙りを決め込んだまま。


「……………まぁ」


 シャイな少女を前にして、鴉里はおもむろに立ち上がると、彼女の目の前まで移動し、その顔をのぞき込んだ。


「いろいろ置いといて、今日は折角の祭だ。お互いこんなところにいたら、損だよな」


 そう言うと、鴉里は少女に手をさしのべて、尋ねる。


「俺は鴉里桃士。一緒に学祭、見に行かないか?」


 少女はにっこりと笑い、初めてうん!と返事をした。

 おんぶをねだった少女を、両手がふさがるという理由で肩車した鴉里は、持っていたパンフレットを見ながら少女にどこに行きたいかと聞く。


「ほっちょけーき!」


「ホットケーキってことはバド部だな。よしじゃあレッツゴー!」


 鴉里はバスケ部に追われていたことをすっかり忘れ、少女とともに歩き始めた。

 一方そのころ、黒夜のところに次の妨害者が現れていた。


「黒ちゃん先輩〜」


「だからハンバーガーの包みもかじりかけのおにぎりも、落とし物じゃないから!ゴミでいいから!」


「しぇ〜〜んぱぁ〜〜〜い」


「……今度は赤菜か。なんだ?どした?」


「先輩のモテ期は、落としちゃったけど届いてないみたいですね(笑)」


「ま、まさかそれだけを言うために放送受付まできたのか……!?今日は忙しいからキレるぞ」


「本題はこれじゃないです。学校に妖怪が侵入してます」


「!?」


 ふざけていた赤菜が急に真顔になって言った事に、黒夜は目を丸くしてから周囲を見回してから小声で尋ねる。


「何でわかったんだ…?」


「鷺塚先輩から人間じゃないものを見たって聞いて、その場所に行ってみたら妖気を感じたので。詳しいことは本体を見てないのでわかりませんが」


「どうするんだ?」


「妖怪なら、何かに影響を及ぼすはずです。どんな影響が出ているかわかれば、妖怪もおそらく特定できます」


「すごい奴だとは思ってたけど、やっぱりすごいな赤菜!で、どうやってその影響を調べるんだ?」


「学祭に参加しつつ学校を巡回します!」


「……………うん、普通に学祭を楽しむんだな」


「ほらっ!先輩も行きますよ!学校の命運が掛かってるんですからっ!!」


 それまでシリアスな雰囲気で話を進めていたのに、赤菜は突然生き生きとした表情で黒夜の腕をグイグイ引っ張ってきた。


「あたしは一人で大丈夫だから、燕くん、行ってあげなよ。その子中一でしょ?わざわざ迎えに来てくれたみたいだし、一緒に回ってあげたら?」


 二人の様子を後ろから見ていた放送委員の先輩が黒夜の背中を押してやる。

 結局、赤菜が必死で黒夜のことを引っ張るので、先輩のご厚意に甘えて黒夜は少し早めに当番をあがり、学祭を楽しむことにした。


「上の階から下がりながら見ていきましょう!」


 パンフレットをがんみしながら、そう言ってタッタッタと駆け出す赤菜に、黒夜はやっぱり年相応に楽しみだったんだなと、ほほえましい気持ちになる。


「学祭サイコー!FOOOOOO!」


「あ、青葉姐!」


 と、黒夜が保護者的心境に浸っていると、前方から超浮かれたボイスと共に見知った顔の人物が現れた。


「中1より浮かれてるな、青葉」


「あ?黒夜と赤菜じゃんか!おれ、1時から招待試合すっからさ、今のうちに満喫してるんだよ」


「私たちは妖怪探しなうだよ」


「妖怪?」


 両手に様々な店で買ったらしい食べ物をぶら下げた青葉は、赤菜から事情を聞くと、神妙にフムフムとうなずいた後、


「つまり、二人も全力で学祭を楽しんでるってことだなー!」


 そう言い放つと、青葉は赤菜を小脇に抱えて、スキップしながら上の出し物へ向かう。


「テニス部のテニスボールケーキ、いかがですか?」


 階段を上ってすぐにあったのはテニス部のコーナーで、テニスボールのような模様がかかれたカップケーキを売っていた。


「なかなかいけるな」


「うまうま」


 楽しそうにカップケーキにぱくついている女子二人を横目に、黒夜はテニス部の知り合いに変なことがないかを聞く。


「変なこと?特にこれってのはないけど。強いて言えば、顧問の雀巣先生がぎっくり腰で立てなくなったことぐらいだよ。もー。見栄張ってがんばるから」


 特に妖怪の影響はでていないらしいテニス部に、黒夜はほっと胸をなで下ろしながら、カップケーキを食べ終えた二人に連れられて、次は隣の柔道部のコーナーを訪ねる。


「タコさんウインナー焼き、いかがッスかー!」


「たこ焼きのタコの代わりに、ウインナーが入ってるのか」


「うまうま」


 部員の厳つさには似合わないかわいらしいタコさんウインナーが埋まったたこ焼きを食べつつ、赤菜と青葉はご満悦。ここでも、黒夜は知り合いに何か異常がないかを尋ねる。


「異常?」


「無いなら良いんだけ……ってうわぁああああ!焦げてる焦げてる!!」


 答えを聞く前に、考え込むあまり、知り合いがタコさんウインナー焼きを焦がしたので、黒夜はめんどくさいことになる前に、さっさとその場から逃げ出した。


(通りで焦げ臭いと思ったよ…)


「次はバド部のラケットホットケーキでも食いに行くか!」


 額の汗を拭っている黒夜などお構いなしで、青葉と赤菜は次の店へと向かう。

 チョコペンでラケットを模したホットケーキを食べている二人をみて、黒夜が太りそうだな、と素朴な感想を抱いていると、今度は赤菜がバド部の一人に異常がないかを尋ねた。


「異常?異常はないけど困ったことがあるのよー!美人の部長がこの間左腕を折っちゃってさー、看板娘が出来なくなっちゃったのよ〜。というわけで、あなた、バド部の看板娘にならない?」


「勧誘ダメ!絶対!!」


 ちゃっかりもののバド部員に赤菜が勧誘されそうになり、あわてて3人は次の部活へと向かう。


「にしても、異常なんてどこも起きてねーなー」


「確かに妖怪は入ってきてるはずなのに…」


 想定外の現状に首を傾げている二人。


「ま、なにも起きてないならそれに越したことはないだろ?おっ、理科室には黄果がいるはずだぞ!」


 そんな二人の手を引いて、青葉は科学部と合同演示実験中の黄果のいる理科室へ入る。


「そこに、この青い液体を入れると!!」


 暗幕を締め切った室内では、壇上で黄果がなにやら薬品を掲げて説明しており、お客はみんな夢中で見ているので、沈黙の中、緊張感が充満していた。


「おーい、黄果〜」


「おうちゃーん」


「おい、実験中に邪魔するな」


 しかし、客席の後ろの方に入った青葉と赤菜は沈黙も緊張感も無視して黄果に手を振る。黒夜が小声でいさめながら室内に入る寸前、誰かに背中を押されたように感じた。


「無視か。黄果の奴、聞こえてねーのかな」


「黒ちゃん先輩、背中、なんか張ってありますよ」


「ぜんぜん気づかなかった。逃げ足の早い奴だな」


 叩かれた背中には何か張ってあったらしく、赤菜がとってそれには、犯人につながる証拠が堂々と書いてあった。

「いらっしゃいませー。お化け屋敷で叫んだ後は、喫茶店でのどを潤してくださーい」


 お化け屋敷の入り口で、客引きをしている鶴森に、黒夜たち三人は、黒夜の背中に張られていた『陸上部!お化けやし喫茶で除霊しなければ、君は今日限りの命である!』とかかれたビラを渡す。


「お化け屋敷で存分に叫んで、除霊してってくださいね☆」


 ミイラ男の格好をして、口と右目以外包帯まみれになっている鶴森を見て、空つながりで知り合っていた青葉が声をかける。


「鶴森先輩だったんっすか。足早いッスね!」


「こう見えてもスプリンターだからね。隣の彼は、鷹山さんの彼氏?」


「いいえ!」


「俺はもっとかわいらしい子が好みッスから!」


 黒夜の背中にビラを貼り付けて、実はついでに道行く人たちの背中にもビラを貼りまくってから客引きに戻っていた鶴森は、何の気もなしに青葉にそう尋ね、青葉に即答された後、黒夜がK・Oされたを見届けた。

 その後、お化け屋敷の後の喫茶店で3人が一服していると、ふと青葉が二人をおいて席を立つ。


「わりぃ、招待試合もう始まるからもう行くわ」


 楽しい時間はあっと言う間にすぎるものらしく、黒夜はもうこんな時間かとつぶやいた。


「結局、なんの手がかりも得れなかったな」


「そうですね」


 少し歩き疲れてもいた二人が、地獄の血の池ジュース(トマトジュース)を飲みながらくつろいでいると、先ほどまで客引きをしていた鶴森がやってくる。


「あれ、鷹山さんは?」


「青葉は第一体育館で招待試合があるんで、もう行きました」


「私たちも後から応援に行きます」


 二人の言葉を聞くと、包帯でほとんど隠れている鶴森の表情が、包帯越しにもわかるぐらい明るくなり、彼は二人に体育館まで一緒に行かないかと提案した。


「空も第一体育館で招待試合をするんだ。僕もちょうどそれを見に行こうと思ってるから、一緒にどう?」


 断る理由もなかったので、二人は鶴森と共に体育館へと進路を取る。


「めーん!」


「一本!」


「どうっ!!」


「一本!」


「こてー!!!」


「一本!」


 青葉の招待試合は、すでにスタンド席も満員状態で、連戦連勝で一本を連発していくしていく青葉に、女子ファンからの黄色い声援が飛びまくる。


「きゃーーー!」


「がんばってぇええーーー!!」


「青葉さまぁぁあああ!!」


「かっこいーーー!抱いてーーー!」


「す、すげえなぁ…あ、青葉!が、頑張れ!!」


「青葉姐がんばってー!」


 黄色い声援に負けじと、スタンド席のはじっこから赤菜と黒夜も青葉を応援する。観客に手を振ってみせるほどの余裕たっぷりで試合をする青葉。彼女が試合を行っているのは体育館の半分で、区切られたもう半分では、むさ苦しい男どもの悲鳴が響きわたっていた。


「うぎゃああああああ!!」


「師範代ぃぃぃぃいいい!!」


「ぐぎゃああああああ!!」


「番長ぉぉぉおおおお!!」


「ひぎゃああああああ!!」


「組頭ぁぁぁぁああああ!!」


 こちらもスタンドは観客で満員で、声の限り応援しているが、応援されているのは招かれた各所の腕に自信のある男どもだ。


「フハハハハハハハーーー!全く持ってナンセンスな連中だな!お前等のメンツはそんなものかーーーーー!!」


 もちろん彼らをなぎ倒しているのはうら若き18歳の乙女である鴻空であり、彼女は学祭前に多数の道場、暴走族、ヤクザなどからそれぞれ彼らのメンツが掛かっているもの巻き上げ、それを餌に学祭で“招待試合”をしているのだった。


「これぞまさしく強襲的招待試合!!!!さァ!男のプライドにかけて私に挑んでくるがいいさぁぁあああ!」


 フハハハハハーーー!と高らかに笑いながら、巻き上げたものをうず高く積み上げたその頂点に君臨する空。

 その様子を見て、黒夜も赤菜も言葉を失った。


(関わり合いたくないな…)


(青葉姐も敵わない暴君……)


「あーあ、またあんな事して。大人をおちょくっていいのはBLだけだって言ったのに!」


 空の勇姿をみようとわざわざ赴いたというのに、がっかりな招待試合に鶴森は人垣をかき分けて空を止めに行こうとする。


「フギャッ」


 しかし筋肉隆々な男たちにはじかれ、鶴森は転んでひざをついた。


「鶴森先輩大丈夫ですか?」


「あいたた。いけない…コンタクト落としちゃった…」


 ミイラ男になるために、今日は眼鏡ではなくコンタクトを入れていた鶴森は、転んだ拍子に右目のコンタクトを落としてしまったらしく、とりあえず眼鏡をかけるために頭の包帯を解く。


「……………あれ…?」


 鶴森は、この時とても重要なことに気づいた。





5 火種





 バド部でホットケーキを食べ、それから少女に言われるがままに鴉里は彼女を肩車したまま、ありとあらゆるコーナーを回った。


「これを垂らすとー…」


「あお!」


「さらにこれを振り混ぜるとー…」


「きーろー!」


 ホットケーキにタコさん焼きを食べて、理科室では、灰色という変な髪色の中学生に色の変わる実験を見せてもらっている。


「この後演示実験やるから、よければ来てくださいね。ボクがでるのもあるし♪」


「あんがとな!時間があったらくるわ」


 理科室黄果に見送られ、甘いものが食べたいと騒ぐ少女のために今度はテニス部のボールのようなカップケーキを買う。


「しっかし、お前よく食うなぁー」


 食べ物を買ってすぐ、カスが落ちてくるので肩車から降りてもらおうとしたのだが鴉里のお願いむなしく、少女は頭の上でカップケーキをもぐもぐ食べている。


(ま、そんなに重くないから、別に担いだままでも大丈夫なんだけどね〜)


「とーち、あれなーに?」


 カップケーキを食べ終わった少女は、早くも新たなものに興味を示している。


「あれはお化け屋敷だな」


 少女の指さす先には陸上部のお化けやし喫茶があり、鴉里はミイラ男を見ながら答える。


「おばけやちき?」


「あんなお化けがいっぱいいるところだ!」


「ようかい?」


 普通の女の子なら、お化けは怖かろうに、少女はなぜかとてもうれしそうに鴉里に妖怪なのかと尋ねた。鴉里は一瞬変だと思ったが、流りの時計とメダルの所為だと思い、そうだ!行ってみるか?と少女を担いで意気揚々とその入り口に立った。


「怖くなったら、逆走してでてきて大丈夫だからね」


 客引きのミイラにそう言われつつお化け屋敷に入る二人。

 生首がふってきたり、血塗れの人が逆立ちしていたりと、怖いようなどこか面白いような出来映えのお化け屋敷に、鴉里も少女もほどほどのドキドキ感を味わったのみで、お化け屋敷の方の出口が入り口になっている喫茶店方でも、談笑する声が満ちていた。


(次はっ…と)


 12時ちょっと過ぎといった時間を見て、鴉里は放送で聞いた軽音楽部のライブがやっているかと思い、武道館へと向かった。


「え、12時半から?」


「そうなのよー。放送委員の原稿間違えてたみたいでね。今、鷺塚先輩が訂正に行ってるんだけど」


 脳天まで響く大音量のロックを期待した鴉里は暗くもなければうるさくもない武道館に、拍子抜けしている。


「そっかー。ならしゃーないよな」


「とーち!あれなに?」


 軽音楽部員に頭をお下げられ、仕方なしに鴉里がそのまま武道館を立ち去ろうとしていた時、少女が部屋の奥のドラムを指さして尋ねた。


「あれはドラムだ」


「どらむ?」


「ちょっと、叩いてみる?」


 少女を鴉里の忌もうとか何かと勘違いした部員が、気を利かせて申し出る。少女がすっかり乗り気だったので、少しだけ叩かせてもらうことにした。


「………叩かないの…?」


「とーちが叩くの!」


 ドラムの前に座らせようとしても、少女はやっぱり肩車から降りる気はないらしく、なぜか鴉里がスティックを握らされる。


「おおっ!結構大きな音がでるんだ」


「部屋全体に響かせなきゃいけないからね」


 その後しばらくドラムで遊ばせてもらい、二人は武道館を後にする。


「鴉里先輩、こんなとこで、なにしてはるっすか?」


「ギクッ!」


 武道館から校内まで、少しだけ外を歩いていると、後輩の灰がメイド服を着て歩いてきた。


「お、お前こそ、喫茶店はどうしたんだよ」


「俺はもうシフト終わりっすよ。部長はまだ喫茶店の方っすけど」


「そうか!俺がここにいたことは、くれぐれも内緒だからな!」


「もうバレてんぞ」


 鴉里は他のバスケ部員に捕まる前にさっさと逃げようとしたが、背後に立っていたメイド服の男に腕をガシィッと捕まれる。


「ふ、ふくぶちょー!」


「こんなとこに居たのか鴉里!」


 メイド服を着ていても非常に男らしい駒鳥は、逃げようと悪あがいている鴉里をがっちり捕まえると、そのままズルズルとバスケ部のメイド喫茶へと連行していく。


「全く、その子の面倒を見るために喫茶店手伝えないなら、早めに連絡しとくもんだろ。しかも俺たちに紹介もないなんて!」


 どうやら少女のことを鴉里の妹か何かと勘違いしたらしい駒鳥は、文句を言いながらも、喫茶店に着くと紅茶とマドレーヌをおごってくれた。


「鴉里の妹か?かわいいなぁー」


「し、親戚筋の子で、面倒見てるんっすよー」


 やっぱりメイド服を着てウエイターをしている鴎崎が、お盆を胸に抱いて少女を見ながらにこにこしている。

 バスケ部のメイド喫茶は、鴻の陰謀とはいえ、やるならば本格的にやりたいという事で、裏方以外はサイズオーバーな身長にあわせて全員分メイド服を用意しており、しかもデザインが一人一人少しずつ異なるという手の込みよう。その上ちゃんとしたアフタヌーンティーの様式を出来うる限り再現している。


「準備から思ってたけど、やっぱりすごいっすねー」


「なれないお針子仕事をがんばった甲斐があったよ。ちなみに服も内装もデザインは鴻空が考えてくれたんだ。あ、あと化粧も!」


「へー」


 同人の為にメイドの資料も多数持っていた空は、今度のコミケで鶴森に着せる衣装を作るついでに、自分が首謀者でもあるバスケ部のメイド喫茶のプロデュースもやってのけたらしい。

 メイド服の善し悪しには興味がなかった鴉里が適当な相づちを打っている間に、いつの間にか駒鳥は姿をくらましており、一緒に居たはずの鴻も姿をくらましていた。


「さーて、俺たちも次行くか」


「俺たちの事は気にせず楽しんでこいよー」


 のんきな鴎崎に見送られ、鴉里と少女は喫茶店を後にする。


「次は野球部にでも行ってみるかー!」


 騒動の火種たちは、楽しげに歩いていく。





6 フランケンシュタイン





 一方灰は、武道館の外で立っていた駒鳥の隣にいた。


「ライブ、始まっとるやないっすか」


 鷺塚の出ているライブはすでに始まっているというのに、駒鳥は武道館の壁にもたれたまま、中に入ろうとしない。


「大きい音で酔ったんだ」


「普段からライブに行ってる副部長がぁ?」


 瞬時に嘘を見破られ、駒鳥は苦笑いを浮かべる。


「……先輩がフラれた話は、姉貴から聞きましたけど」


 灰はため息をついた。


「諦める理由、無さ過ぎないっすか!?」


 くわっと目を見開いて駒鳥に問う灰。駒鳥は困ったように笑いながら、うつむき加減で言う。


「好きな奴と付き合うのは、誰だって望むことだけどさ、それは半分、相手の幸せを願うからだろ?」


 駒鳥は灰を見下ろして、笑いながら話した。


「相手も自分と付き合いたいって、そういう前提があるから付き合うんだ。でも、付き合う事で相手が傷つくなら…………別れるべきだろ」


 駒鳥はかすかに聞こえる演奏に耳を傾ける。楽しげに弾むドラムの音を聞きながら、駒鳥はネジの狂ったロボットのようになっていた元カノのことを思い出す。

 付き合う前は、もっと自然に笑い、素直に動き、話していた。まるで、付き合うことが鎖となって彼女を縛っていたかのように。

 駒鳥はどんな鷺塚も好きだった。でも、苦しむ姿を見て心が痛まないわけではない。


「……………納得いかないっすわ」


 彼女の為に別れてしまったという駒鳥に、灰は眉間にしわを寄せて詰め寄った。


「副部長、彼女のこと好きなんすよね?彼女も副部長の事が好きなんすよね?だったら」


 灰は、歪ではあるがなるようになっている姉と鶴森の事を思い出して、真っ当なのにうまく行かない副部長に、宣告する。


「副部長が悲しそうにしはるんは、彼女だって嫌なんやないんっすか?!」


 笑顔に悲しみがにじんでいる駒鳥の顔を指さし、灰は言い放った。


「…………………………ん?」


 しかし、駒鳥が何かアクションを起こす前に、灰が自分の目の前で手を振りながら青ざめていく。


「どうしたんだ?!鴻!」


 駒鳥が何かひどく驚いている灰を心配していると、今度は何の舞ぶれもなく突然背後から腕を捕まれる。


「鷺塚?!」


 驚いて振り向くと、振り返ったその先にいた鷺塚は、なぜか口パクで駒鳥に大丈夫かと尋ねる。


「お、俺は大丈夫だけど、後輩の様子が…」


「右目が見えへん!!」


 灰の右目の視界が突然真っ暗になった。

 午後13時すぎ。黒夜と赤菜はようやく“異変”に気がついた。


「ひ、左目が見えない!!」


 包帯を解いた鶴森がそう叫び、黒夜と赤奈が駆け寄る。


「先輩大丈夫ですか!?」


「ひ、左目の視界が、ま、真っ黒なんだ!視力とか言う問題じゃなくて、なにも見えない!」


 突然の事態にあわてふためく鶴森を落ち着かせると、赤菜は見えない左目をじっとのぞき込んだ。


「黒ちゃん先輩。妖怪の正体が分かりました」


 フランケンシュタイン。

 赤菜はそう告げると、その妖怪について説明する。


「霊能力者によって人工的に作られた呪詛専門の妖怪です。普段は人に似た姿をしていて、人間に近づいてその人間の体の機能の一つを奪います。奪われた人間は、鶴森先輩のように、左目の機能を奪われたら左目の視界が奪われます。複数の人間からそれぞれの機能を奪い、すべての機能を揃えたら、最後に、呪詛対象の命を奪い、フランケンシュタインは人間になるんです」


 人の手によって作られた、人になりたい化け物。楽しい学祭に、とんでもなく因果なものが混じっていたようだ。

 普段はめんどくさがりの赤菜も、危険な妖怪の存在に饒舌になる。


「どうやって倒すの?」


「人工の妖怪なので、倒すための札があります。幸い、まだ体の機能も奪い始めただけみたいですし」


「いや、もう半分は奪ってるんじゃないか…?」


 不意に、深刻な声音で黒夜が赤菜の発言を遮った。


「関係ないかもしれないけど、雀巣のぎっくり腰が足の機能を奪われたので、タコさんウインナー焼きを焦がした柔道部員が鼻の機能をなくしてたからで、バド部の部長は左腕の機能を奪われても気づかないし、黄果が俺たちのことを無視したのが耳が聞こえてなかったのだったら」


 思いつく機能はすでに半分以上奪われており、後は右腕と右目と口ぐらいだと知り、赤菜の表情が険しくなる。


「鶴森先輩の目も合わせて、もう5カ所…」


「7カ所だろうな」


 先ほどまで下で男どもをなぎ倒していたはずの空が不意にすぐそばに来ていた。


「空!試合は?」


「恋人に何かあっても続けてるなんてナンセンスだからやめたよ。それよりこれ」


 いつの間にか観客も含めて男どもを全員帰していた空は、スマホの画面を見せつつ、深刻そうな顔をする。


「さっき翠から来た。私の弟の右目と、翠の口も奪われたらしい」


 不安そうにしている鶴森の顔を見つめ、心底忌々しそうな顔をする空。残るは右腕一つになっていることと、鷺塚が口をきけなくなっていることに気づき、赤菜は黒夜の手を引く。


「このままだと呪詛が完了してちゃいます!早くフランケンシュタインを探さないと」


「っつっても、この人混みの中闇雲に探しても無理だろ!」


「フランケンシュタインは、決まって不器用な人間に作られるので、明らかに人間じゃないってわかるものなんです!」


 黒夜の言葉も聞かずに赤菜は黒夜を引っ張って風のごとく走り出す。


「私たちも探すぞ!私の弟と恋人に手を出した事を、後悔させてやる!」


 大事なものを傷つけられたからというより、新しいおもちゃを見つけたかのようにフハハハハハハハ!と笑いながら空も走り出した。


「青葉ァ!」


「ん?空先輩?」


 通りすがりに、試合が即行で終わったので暇を持て余していた青葉に空が声をかける。


「フランケンシュタインを探し出せ!」


「はぁ!?」


「部長命令だ!」


「サーイエッサー!」


 青葉も巻き込み、フランケンシュタイン探しが始まった。

 全員知り合いという知り合いに声をかけて探すこと30分弱。鴎崎から黒夜に連絡が入る。


『さっき、顔が鉛筆みたいな男を見たぞ!西棟の3階だ!』


 すぐさま黒夜が捜索隊のメンバーにその事を伝え、全員が西棟の3階を目指す。


「居たっ!」


 一番にたどり着いた黒夜と赤菜が、“フランケンシュタイン”を見つける。


「くらえーーーー!」


「うぇえ!?く、クロと変な中一ー?!」


 走ってくる二人に、鴉里はなにも出来なかった。





7 人探し





 黒夜たちが問題のフランケンシュタインを発見する少し前、あらかた部活を回った鴉里は、少女にそろそろ親を捜さねばといった。


「ぜんぜん迷子のアナウンスは流れないけど、そろそろお母さんたちの所に戻らなきゃだ」


「いやっ!」


 しかし少女は鴉里の頭をぽかぽか叩いて抵抗する。


「ママはアタチを捨てたからイヤーー!」


「す、捨てたぁ?!そんなわけないだろ…?ママもぜーったい探してるから」


 突然とんでもないことを口走る少女を、鴉里はやさしい声音でなだめるが、少女はふてくされてしまう。


「………捨ててないなら、あんな所にいなかったもん」


(う〜〜ん、困ったなぁ…とりあえず、本部につれてくか……)


 西棟3階の廊下を歩きながら、鴉里はいい加減痛くなってきた肩をさすりながら思案した。


「居たっ!」


 不意に、背後から黒夜と赤菜が猛然と走ってくる。


「くらえーーーー!」


「うぇえ!?く、クロと変な中一ー?!」


 変なお札のようなものを構えて突進してきた黒夜と赤菜は、華麗に鴉里をよけると、その前を歩いていた帽子をかぶった男に札をぶつけようとした。


 ピシッ


「なっ!」


 しかし札が男に触れる寸前、札は真っ二つに切れてしまう。


【ワタスに何のご用ですカー?】


 何食わぬ顔で振り向いた男は、へたくそな彫刻のようなごつごつした顔をしており、目も口も小さいのに、鼻だけが異様に長い。


「あれれ?」


 男の顔を見て、赤菜が急に首を傾げる。すると赤菜たちが来たのと反対方向から、鷺塚と駒鳥と灰が歩いてくる


「フランケンシュタインじゃ……ない?」


「奴はフランケンシュタインじゃない。ピノキオだ。」


 首を傾げる赤菜に、口がきけなくなっている鷺塚が携帯に文字を打ち込んで見せる。


「ほとんどフランケンシュタインと同じだがな。ピノキオは人間の命を奪うために機能を奪うのではなく、なんらかの仕事を果たすために機能を“借りる”んだ」


 フランケンシュタインと同じ、人に作られたものであるが、こちらは良心を学んで人の子になれるピノキオ。


「彼らは、人になるために主人に言いつけられた仕事をこなしてポイントをためる。まあ、結局は危害を加えないものの周りに迷惑をかける式神だから、今時作る霊能力者はほぼ皆無なんだけどな」


「………じゃあ、事件解決?」


 鷺塚の説明を聞いて、黒夜はほっと胸をなで下ろした。


【Oh!こちらの霊能力者さんたちですカ?ワタスは主人の命で、人探しに来ましタ】


「人探し?」


【Yes!………でも、もう見つかりましタ】


 ピノキオは、驚きのあまり固まっている鴉里の頭上に乗っている少女を見つめ、歩み寄ると語りかける。


【もう十分楽しんだでしょウ?帰りまショ】


 ピノキオは少女にそっと手を述べる。しかし少女は鴉里の頭にしがみついたまま、動こうとしない。


「いやっ!だって、ママは、あたちの事、捨てたんでしょ…?」


 不安そうな瞳でピノキオに尋ねる少女。


【No…主人は忘れて行ってしまっただけでス。だからこうしてワタスを迎えに寄越しましタ】


「……………ほら、もう行けよ」


 動こうとしない少女を、不意に鴉里が持ち上げて肩車からおろす。


「ママのとこに、帰ろう」


 今まで一番優しい声音とともに、鴉里は少女に笑いかける。


「とーち」


「ん?」


「………また、肩車してくれる?」


 上目遣いで見つめる少女に、鴉里は満面の笑みで、おうっ!と頷く。


「絶対!約束だよ!」


 少女は、右腕だけダランと垂れたピノキオの腕に抱かれ、ピノキオとともに消える寸前、鴉里にそう手を振った。





8 リセット





「ピノキオは、主の忘れていったあの式神の女の子を探しに来てたのかー…」


 再び放送受付に座った黒夜が、目の前に立っている赤菜にそう話しかける。


「ピノキオが消えたら機能も元に戻ったし、一件落着だなー」


「あれれ?事件は解決したのに、先輩のモテ期は相変わらず落としたまんま届いてないんですね(笑)」


「そのネタ、覚えていたのか」


 事件も解決し、いつも通りのふざけモードに戻った赤菜は、黒夜をおちょくってプププと笑っている。


「おーい、燕せんぱーい」


「ん?鴻……………お前、まだメイド服なのか」


 関西弁のイントネーションで呼ばれ、黒夜が顔を向けると、未だにばっちりメイド服を着こなしている灰がやってきた。


「姉貴が写真撮りたいから、しばらく着てろって。喫茶店はもう終わりですわ。部長たちは、屋外の物仕舞うん手伝いに行っとります」


「ああ、雨対策か」


 鳥が丘学園の学園祭は、一週間つづくので、まだまだ本番はこれから。

 しかし雨に濡れると大変な屋外の物もあるので、それを一旦仕舞いに行った駒鳥と鴎崎は、同じく手伝いに来ていた軽音楽部の鷺塚と出会っていた。


「アー。俺、用事ヲ思イ出シタナー」


 棒読みの言い訳とともに、精一杯気を利かせて鴎崎はその場を後にする。


「……よ、よお」


「……や、やあ」


 倉庫で二人きりになり、どちらからともなくぎこちない挨拶をする。

 結局、別れてから友達に戻ったとはいえ、どこか気まずくてその後あまり口を利いてなかった二人。必然的に、挨拶の後は二人の間に沈黙が降りる。


「ライブお疲れ。ごめん、喫茶店忙しくて行けなかった」


「こちらこそ、全然喫茶店行けなくて……ごめん」


 互いに手を止めることなく、ぽつりぽつりと言葉を交わす二人。

 駒鳥の脳裏に、灰の言葉が浮かぶ。


「鷺塚」


 名前を呼ばれ、鷺塚が振り返る。


「リセットだ」


 駒鳥は、そう言いながら鷺塚の腕をつかんだ。


「もっかい、恋人やり直そう」


 そう言うと、駒鳥は彼女を腕を引き寄せて、唇を重ねる。


「!」


「恋人はこんな事をする仲だけど、いいかな?」


 耳まで真っ赤になった鷺塚は、彼の満面の笑みを見上げ、頷くしかできなかった。

 二人の恋も、これからが本番だ。

<後書き>


 ごめんなさい。黒夜を放送委員だと勘違いしてました。(涙)


 つまり、鴉里が回った場所をピノキオが機能を借りながら追いかけ、その場所を黒夜とか駒鳥たちが回ったって事で(わかったかな…?)

 長すぎて私がだいぶ疲れました(眠いよー)

 みなさんも疲れましたよね。お疲れさま。

 さて、今回は前回でなかった黄果ちゃんと鴉里くんをだすのが目標だったのですが、全然黄果ちゃんでてこねえし!!(鴎崎先輩も、あんまりでてない…)

 今回は、事件のシーンは元気よく、恋愛のシーンは甘い感じでというののメリハリが難しかったです(空さんたちの所は違う意味で甘ったるかったですが)


 ここまで呼んでいただきお疲れさまでした!そしてありがとう!

 またネタが浮かんだらお会いしましょう!

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